伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

2019年07月

第30回吃音親子サマーキャンプ、参加申し込み、受付中

第30回吃音親子サマーキャンプ 参加申し込み、受付中

 今年、30回を迎える吃音親子サマーキャンプ、今、参加申し込みを受け付けています。
 夏の終わり、夏休みのしめくくりにふさわしい吃音親子サマーキャンプです。常連になっている、大阪スタタリングプロジェクトのスタッフは、自分が小学生の頃に、こんなサマーキャンプがあったらなあと、少しうらやましい気持ちで、夏を迎えています。
 先日、芝居のために、合宿で事前レッスンをしましたが、そこでのみんなの弾けた姿を見ていると、小学生の頃のちょっぴり悲しく、寂しく、悔しかった思いを取り返しているようでした。ことばの教室も近くになかった人にとって、同じようにどもる子どもに会った人は少なく、ひとりで悩んでいました。自分と同じようなどもる子どもがいる、悩みながらもサバイバルして生きている、そんなことを知っていたら、どんなに勇気づけられたことでしょう。
 大人になってから、同じようにどもる人に出会ったとき、ひとりではなかったと、それだけで大きな励ましになりました。ひとりで吃音に悩んでいたとき、同じようにどもる仲間に出会えた喜びは、何にも代えがたいものだったのです。セルフヘルプグループで会った仲間といっぱい話し、いっぱい聞き、新しい価値観に出会い、僕もがんばってみようと行動を変えるきっかけをもらいました。子どもたちにも、その思いを伝えたくて、どもる子どもたちのためのサマーキャンプをしようと考えたのが、30年前。たくさんのどもる子どもたちに出会いました。連れてきてくれた保護者、手弁当でかけつけてくれたどもる大人やことばの教室担当者や言語聴覚士などの臨床家、大勢の力が集まって吃音親子サマーキャンプは、30年の歴史を重ねてきました。

   あなたはひとりではない
   あなたはあなたのままでいい
   あなたには力がある

 これは、吃音親子サマーキャンプが大切にしていることばです。

 今年の日程は、次のとおりです。
日時 2019年8月23・24・25日
      23日13時から25日15時まで
場所 滋賀県彦根市・荒神山自然の家
参加費 16000円(どもる子どもと大人も同額)
内容 吃音についての話し合い
   ことばに向き合うための芝居の練習と上演
   親の学習会
ホームページに詳しい案内と参加にあたっての注意事項、申し込み書があります。


 吃音親子サマーキャンプに参加した保護者の感想を紹介します。
          

 
私は、吃音親子サマーキャンプのことを2年前から知っていました。でも、治ることばかりを願って吃音を受け入れることができなかった私は、参加する決心がつかずに、子どもはもう6年生になっていました。小学校最後の夏休み、「この一年を逃がしたらもう行くことはできないかもしれない…」そう思い、とにかく参加して、吃音について考えてこようと決心しました。
 河瀬の駅で、たくさんの吃音の親子の姿を見ただけで、私は安堵の思いで、どっと涙が溢れてきました。これまで、吃音のことを話題にできる友達もなく、ずっと悩んでいました。
 伊藤伸二さんの本は、何冊も読んでいます。でも、吃音を受け入れることを頭で理解していても、子どもにどう接していいのか、現実には難しいです。でも、このキャンプに参加したことで、私も息子も、吃音を前向きにとらえるという道が開かれたと思います。「治る、治らない」ということにとらわれるのでなく、「治せない」という真実を受け入れることが、初めの第一歩だったのです。
 話し合いの中で、どもる成人の話を聞くことができました。立派に社会でがんばっておられる話を聞くことは、これまで息子の将来に不安を抱いていた私の気持ちをずいぶん楽にしてくれました。また、「私の母はとにかくよく話を聞いてくれる人だった」という話も聞きました。このことは、私の中に深く刻みこまれた一言でした。
 私は、息子の吃音をこれまでマイナス方向にしか考えていませんでした。でも、それは間違いだったのです。弟がいますが、弟は、兄のどもるしゃべり方に関して、聞き取りにくいときもあると思うのですが、一度も文句を言ったことがありません。兄の吃音ということが、弟の優しさを生み出してくれたようです。
 私は、キャンプへの行きの列車の中で、伊藤さんの本を人目につかないように、表紙を隠して読んでいました。でも、帰りの今は、堂々と、息子と一緒に読みました。これまで、体裁を気にし、不憫に思っていた自分を恥ずかしく思います。
 新学期になって、夏休みの自由研究の発表会があります。これまでとは違った見方で、堂々と子どもを見つめて、発表を聞く自信があります。
 「吃音とつき合っていくことは難しいことだ。でも、親が子どもの伴走者になっていくことで、子どもは方向を見失うことなく、まっすぐ進んでいくことができる」。伊藤さんから教えられたこのことを、忘れずにがんばっていきます。

 このような感想に出会うと、29年間続けてきてよかったと思えます。
 今年もいい出会いがありまように。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/29

第8回 親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会が近づいてきました

第8回吃音講習会が1週間後に近づいてきました

 梅雨が明け、いよいよ夏本番。
 冷夏から一転、猛暑が続いていますし、台風も来ているようですが、僕たちが「吃音の夏」と呼んでいる夏のイベントが間近に迫ってきました。
 まず、8月3・4日に、第8回 親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会が、三重県津市で開かれます。

 三重県津市は、僕の故郷です。小学校、中学校、高校と過ごしました。
 吃音に深く悩むようになったきっかけは、学芸会でのせりふのある役を外された小学校2年生でした。中学2年生のとき、発声練習をしていた僕に母は「うるさいわね。そんなことしても、どもり、治りっこないのに」と言いました。泣きながら家を飛び出し、それから、家にも学校にも居場所がなくなりました。高校のとき、国語の音読が当たると分かる日は休んでいたのでこれ以上休むと卒業できないと思い、僕だけ朗読を免除してほしいと頼みに行きました。
 何もいい思い出のない故郷、津市ですが、8月1・2日に、第48回全国公立学校難聴・言語障害教育研究協議会全国大会三重大会が三重県津市で開かれ、僕は、午前にある吃音分科会のコーディネーターと、午後にある講習会の講師をします。その全国大会に合わせて、直後の日程、8月3・4日に、親・教師・言語聴覚士のための吃音講習会を津市で開催することになったのです。ありがたいご縁だと感謝しています。

 吃音講習会は、吃音を生きる子どもに同行する教師・言語聴覚士の会の仲間たちと日々の実践の中で考えたこと、感じたことを出し合い、語り合う中で生まれました。ぜひ、ご参加下さい。
 これまで、参加した人たちからは、研修会らしくない研修会だったとか、こんなに笑った研修会はないとか、刺激的で楽しかったとか、そんな感想をいただいています。講師がいて、その講師の話をただ聞くという研修会ではありません。参加者みんなで考えたり、話し合ったり、子どもになった気分で演習をしたり、の参加型です。ことばの教室を担当して日が浅いという人も大歓迎です。9月、子どもたちと早く会いたいなと思えるような研修会にしていきたいと思っています。お申し込みを、お待ちしています。
 
日時 2019年8月3日(土) 9:45〜19:15
       4日(日) 9:00〜16:45
会場  三重県教育文化会館 5F・大会議室
内容・プログラム
  8月3日(土)受付9:30〜
・対話をめぐる対話(基調提案に代えて)
       伊藤伸二・日本吃音臨床研究会
       ことばの教室担当者(睫攅戚澄‥邉美穂 溝上茂樹 黒田明志)
・全国難聴・言語障害教育研究協議会全国大会の発表の報告
                <吃音分科会> 横浜市立東小学校  土井幸美
                <難聴分科会> 千葉市立院内小学校 金井あかね
・吃音を生きる成人へのインタビュー 元ろう学校教師 佐々木和子さん
・ミニ講座 ゝ媛擦鮴犬抜く吃音哲学の前提  伊藤伸二・日本吃音臨床研究会
    [健康生成論、レジリエンス、オープンダイアローグ、哲学的対話、
            ナラティヴ・アプローチ、ネガティブ・ケイパビリティ]
・グループでの話し合い [この日の学びを中心に、日頃感じていることなど]

  8月4日(日)受付8:50〜
・ミニ講座◆ 崑佻叩廚里發腸椎柔
              牧野泰美・国立特別支援教育総合研究所上席総括研究員
・どもる成人のセルフヘルプグループによる講座  大阪スタタリングプロジェクト
・ミニ講座 吃音を生き抜く吃音哲学のすすめ  伊藤伸二・日本吃音臨床研究会
・どもる子どもとの対話の実践報告・演習 ことばの教室担当者
・みんなで語ろう、ティーチイン

講習会参加費  6,000円

参加申し込み方法
 下記の,發靴は△里い困譴の方法で、申し込みください。
”要事項を記入し、ハガキか封書で郵送する。
吃音講習会のホームページから、参加申込書をダウンロードして、必要事項を記入し、メールまたは封書で送る。

☆必要事項…〔樵亜覆佞蠅な)⊇蠡位勝´自宅住所(郵便番号)づ渡暖峭罅覆△譴丕藤腺悗癲豊ゥ瓠璽襯▲疋譽后´懇親会参加の有無

☆郵便振替 加入者名:吃音講習会   口座番号:00960-0-282459

☆参加申し込みと同時に、郵便局より参加費を振り込んで下さい。参加申し込み書と参加費の入金確認ができた時点で、正式参加申し込みとします。両方の確認ができましたら、受講票をお送りします。当日、受付で受講票をご提示下さい。

申し込み先  千葉県千葉市立花見川第三小学校 黒田明志
 〒262-0046 千葉県千葉市花見川区花見川1-1
 Mail:kituon-kosyukai@live.jp

問い合わせ先 日本吃音臨床研究会
〒572-0850 大阪府寝屋川市打上高塚町1-2-1526 TEL/FAX 072-820-8244

吃音講習会のホームページ  アドレス:www.kituonkosyukai.com/
 これまでの講習会の報告、大会要項に載せた資料などご覧になれます。講師からの貴重な提案や、ことばの教室の実践報告、どもる子どもや大人の声など、参考になる資料が満載です。ぜひご覧ください。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/27

子どもと取り組む演劇の事前レッスン 2

子どもと取り組む演劇の事前レッスン 2

事前レッスン5 7月13日、午後、大阪市内のお寺に、吃音親子サマーキャンプのスタッフが集まってきます。子どもたちと取り組む演劇を、まず自分たちが演じてみます。誰に向かって言っていることばなのか、何を伝えたいのか、そんなことを、時に真剣に、時に大笑いしながら、練習していきます。2日間で仕上げて、キャンプの初日に、参加者の前で演じます。
 その演劇の指導をしてくれるのが、東京学芸大学教職大学院准教授の渡辺貴裕さん。専門は、教育方法学、教師教育学。「学びの空間研究会」を主宰し、身体と想像力を活かした授業の可能性を実践的に追求しています。
事前レッスン6 僕たちとの出会いは、渡辺貴裕さんが京都大学の大学院生だったころにさかのぼります。渡辺さんは、僕たちが事務局をしていた、竹内敏晴さんの大阪のからだとことばの定例レッスンへの参加者だったのです。「どもる子どもたちのキャンプをしているんだけど、おもしろいよ。参加してみない?」と、どうやら僕が誘ったようなのですが、大学院生のときから、吃音親子サマーキャンプにスタッフとして参加してくれています。吃音とは全く関係がないのですが、僕たちの考え方、子どもたちのことはよく分かってくれています。学生から大学の先生へと、肩書きは変わっても、ずっと欠かさず参加を続けて、「多分、今年で20回目だと思う」と話していました。長いおつきあいになりました。
 渡辺さんは、演劇の練習に入る前に、いつも、子どもたちと芝居に取り組むための、いくつかのエクササイズをして下さいます。今年も、まず、5人ずつの4グループに分かれました。5人の内、ひとりが話し手になり、残りの4人は、その話を聞いています。観客からは、話し手の顔は見えません。見えるのは、聞き手である4人の表情です。それを見て、話し手がどんな話をしているのか、想像しました。自分が冒険してきた数々の武勇伝を話す勇者だったり、悪いことをした生徒を前に説教する先生だったり、いつのまにか芝居の世界に引き込まれていきました。芝居はせりふを言う人だけではできません。そばにいて、話を聞いている人たちの動きで、芝居は厚みを増します。そんな表現のおもしろさを味わった後、今年のシナリオが配られ、とりあえず、入れ替わり立ち替わりいろんな役になって、話の筋を確かめていきました。
事前レッスン7 事前レッスンの参加者は、大阪スタタリングプロジェクトのメンバーなど、どもる人が半数以上います。学生時代は、芝居など無縁の世界だった人が少なくありません。楽しそうに弾けている姿を見て、こんなに楽しい世界を経験できるなんて、どもりでよかったとさえ思えてきます。
 話の筋が分かった頃から、配役を決め、立ち位置を確認し、小道具のことも頭に入れながら、練習しました。ナレーターも重要です。観客に、舞台で起きていることを伝え、舞台と観客をつなぐ役割があります。ナレーターが、「ここに、少年がいます」と言ったとたんに、そこに、ひとりの少年が立ち現れないといけないのです。あるフレーズを掛け合いのように言う場面があります。花いちもんめのように。前後に動きながらのやりとりは、見ている方にも本当におもしろいものでした。大人がこれだけ楽しんでいるのだから、きっと子どもたちも楽しんで取り組んでくれるだろうと思います。

事前レッスン3 今年の演題は、当日のお楽しみにしておきましょう。
 夜の9時過ぎまで練習をして、その後は、実行委員会です。サマーキャンプのスタッフは、遠いところからの参加もあり、事前に実行委員会をすることはできません。キャンプの当日、初めて顔を合わせる者もいます。この事前レッスンのときにする実行委員会が最初で最後の実行委員会といえます。
 今年は、30回を迎えたというので、サマーキャンプのもつ意味について、みんなで考える時間をとりたいなと思っています。単なるふりかえりでなく、サマーキャンプが意図したこと、サマーキャンプで起こっていること、ひとりひとりの参加者にとってどんな意味があったのか、それらをじっくりと考えてみたいと思います。

 そして、いつも録画を担当してくれている井上詠治さんから、新たな提案もありました。サマーキャンプへのビデオメッセージの募集です。テーマは、「自分にとってサマーキャンプはどういうものだったのか」です。できるだけ多くの人から募集していこうと話し合いました。
 例年になく、涼しかった事前レッスンの1日目、すでに時計は、12時を回っていました。ようやく実行委員会を終え、みんな寝ました。

 翌日の日曜日、ようやく雨があがり、セミも歓迎して鳴き始めました。
 2日目の午後、最終の練習風景を井上さんが録画してくれました。以前は、せっかく事前レッスンで完成しても、当日まで日があり、忘れてしまうということが起こっていましたが、最近は、録画したものを編集してくれる人がいて、それを見ながらみんなは復習をしてきて、当日を迎えます。吃音親子サマーキャンプは、事前レッスンから始まるとよく言われるのは、このためです。

 参加申し込みが少しずつ届くようになりました。またまだ定員には余裕があります。
 7月のはじめには、荒神山自然の家に行き、打ち合わせをしてきました。自然の家も、僕たちの来るのを待っていてくれます。
 さあ、ご一緒に、すてきな夏を過ごしましょう。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/19

子どもと取り組む演劇の事前レッスン 1

子どもと取り組む演劇の事前レッスン1〜吃音親子サマーキャンプ〜

 吃音親子サマーキャンプについて、いろいろなところで書いてきました。当然、内容的に、ダブっている部分もあったと思いますが、紹介できてよかったです。
 さて、今年の第30回吃音親子サマーキャンプについて、お知らせします。
 詳しくは、日本吃音臨床研究会のホームページを見て下さい。

日時 2019年8月23・24・25日
会場 滋賀県彦根市・荒神山自然の家
内容 年代ごとの吃音についての話し合い/芝居の練習と上演/親の学習会
   その他、出会いの広場、荒神山へのウォークラリー、クラフト棟での食事など、楽しい時間もたくさんあります。
参加費 16,000円(親子とも)


事前レッスン1
事前レッスン2

 活動の大きな柱である芝居ですが、先週の土日、大阪で、スタッフが集まり、合宿で事前レッスンを行いました。これは、演出家で、耳が聞こえない時期があってうまくしゃべれない経験をもつ竹内敏晴さんが、僕たちのことを仲間と思って下さって、このサマーキャンプ用にシナリオを書いて下さったものです。竹内さんが亡くなられたのが、ちょうど10年前。竹内さんの後は、東京学芸大学大学院准教授の渡辺貴裕さんが、後を受け継いで、ずっと僕たちに演出指導をしてくれています。
 今年の事前レッスンには、遠くは千葉、東京、埼玉、神奈川からの参加も含め、19名が集まりました。まずは、からだ揺らしから。
 竹内敏晴さんの大阪でのからだとことばのレッスンは、事前レッスン会場近くの應典院で毎月していました。事務局をしていた僕たちは、毎月第2土日は、その場にいました。毎月必ず第2土日を空けるのは大変でしたが、竹内さんとの濃密な時間を、10年間も持てたことは、何物にも代えがたい貴重なものでした。そんなことを思い出しながら、からだ揺らしをしました。
 芝居の練習については、明日につづく。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/18

吃音親子サマーキャンプの場の力 4

<吃音親子サマーキャンプの場の力>と題する連載は、金子書房発行の『児童心理』2016年6・7・8・9月号に掲載されました。今回の紹介がその最後、4回目です。

吃音親子サマーキャンプの場の力 4
      レジリエンスが育つ
                   日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 アメリカ言語病理学の「吃音を治す、改善する」立場に立ち、少しでもどもる状態を軽減することが、ことばの教室の教師の役割だとする考え方は根強い。しかし、原因も解明されず治療法もない吃音は、吃音とのつきあい方を学ぶことが現実的だ。吃音のマイナスの影響を小さくし、将来の影響の予防には、精神医学、臨床心理学、社会心理学などさまざまな領域から学ぶことは多い。吃音に向き合い、苦手な演劇に挑戦し、表現力を養った子どもたちは、大人が考える以上に成長していく。
 「論理療法を学んだ。A:出来事があって、C:結果がある。でもAとCの間には、B:受け取り方がある。受け取り方で結果が変わるんじゃないかということだ。たとえば、人前でどもって笑われて落ち込んだときの受け取り方は、人前でどもることはいけないことだという考え方だ。でも、受け取り方が、人前でどもってもいいと変わると、落ち込みは小さくなるんじゃないか。僕はこれから吃音のことだけでなく、ピンチがチャンスに変わる考え方をしようと思う」(Fさん、小学6年時の作文)
 どもる苦労はどんな仕事に就いてもついてくるなら、自分が本当にしたい仕事に就きたいと、Fさんは消防士の道を選んだ。しかし、消防学校時代「そんなにどもっていて、市民の命が守れるのか。今のうちにどもりを治せ」と、どもることを厳しく叱責された。さまざまな困難から立ち直ることを学んできたFさんは、私たちの援助も受け、つらかった1年間の消防学校の生活を乗り切った。今は消防士として、どもりを認めながら元気に働いている。
 吃音親子サマーキャンプの参加資格は、高校生までだ。高校3年生を対象に、最終日、卒業式が行われる。ただし、3回以上キャンプに参加していることが条件になる。2005年10月16日放送のTBS「報道の魂」で、4人の高校生の号泣して語る姿が映し出された。涙の中に、悩みながらもここまできた喜びと、将来への希望があふれていた。
 「小学4年生から、高校3年まで、キャンプでいろんなことを語り、学び、友だちもできた。これから、どもりは私にとって大きなマイナスにはならないと思う」と、そのとき語ったYさんは、大学2年生のとき、自分も周りもびっくりするくらいどもるようになった。「吃音を治す、改善する」の立場に立ち、どもらないことに価値をおいていれば、絶望し、うろたえただろう。しかし、吃音を学んできたYさんは、この変化も一時的なものだと冷静に受け止めた。カフェのアルバイトも大学での発表も、ひどくどもりながらこなした。2年半ほどその状態は続いたが、やがて以前のどもり方に戻り、大学を卒業し、今は大きな病院で薬剤師として働き、今年結婚をした。
サマキャンの写真 ワークブック表紙 10%

 「あなたはあなたのままでいい、あなたはひとりではない、あなたには力がある」を受け取った子どもたちには、「回復力、しなやかに生きる力」などと説明されるレジリエンスが確実に育っていたのだ。メンターといえるどもる先輩の生きる姿が、将来への楽観的な展望になり、どもることを認めさえすれば、ほとんどの仕事に就けること、どもりを隠し、話すことから逃げないで生活することの意義を洞察し、吃音に左右されず、自分の人生を生きることを自分のものにしていく。ウォーリン(1)があげるレジリエンスの7つの構成要素の中の、洞察、関係性、イニシアティヴ、創造性などが、キャンプの活動などを通して育っていたといえるだろう。全員の許可をとって掲載した『吃音ワークブック』(2)の表紙には、大勢の子どもの笑顔があふれている。この表紙を見るだけで子どもたちは安心するそうだ。

参考文献
(1)スティーヴン・J・ウォーリン、シビル・ウォーリン(著)、奥野光・小森康永(訳)『サバイバーと心の回復力』金剛出版、2002
(2)伊藤伸二・吃音を生きる子どもに同行する教師の会『親、教師、言語聴覚士が使える、吃音ワークブック』解放出版社、2010

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/17

吃音親子サマーキャンプの場の力 3

吃音親子サマーキャンプの場の力 3
 
『児童心理』連載の3回目です。
 

演劇のもつ力

                  日本吃音臨床研究会会長  伊藤伸二
  
 どもる子どもの自己表現

 「2年生の3学期のお楽しみ会での読み聞かせで、どもりながら読み終わったとき、友だちが、私がどもっているところをマネしたので、みんなが笑って泣きたくなりました」
(A子小学5年時の作文)
 音読や発表を苦手にしている、どもる子どもは少なくない。学習発表会の劇などで、本当はしたくても、ひとりでセリフを言うことには尻込みする。それらが、日頃の学級での人間関係や自己表現にも影響している。安心してどもることができる場で、子どもたちが苦手にしている劇に挑戦し、表現する楽しさ、喜びを味わってほしい。さらには、表現力を豊かにすることができれば、吃音とともに生きる力になるだろう。
劇5 相談中

 吃音親子サマーキャンプでは、「劇の稽古と上演」を「話し合い」と共に2つの柱にしている。
 「からだとことばのレッスン」を主宰する演出家・竹内敏晴さんは、私の思いを受け止め、宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」やミヒャエル・エンデの「モモ」など、子どもが楽しく演じられるものを選び、大勢の子どもが出演でき、グループごとに稽古ができるよう場面を分け、ひとつの劇を作り上げる脚本を毎年書き下ろしてくださった。
 誰に向かって言うセリフなのか、それをどう受け止めて返すのか、相手に向き合うからだになっているのか、「竹内レッスン」のエッセンスを凝集したような脚本だった。そして、子どもに教えるときの手順なども含めて、スタッフに合宿で演出・指導をして下さった。
 竹内さんが亡くなった後、大学院生時代から竹内レッスンやキャンプに関わり、教育に演劇を取り入れることの研究実践をしている、東京学芸大学渡辺貴裕准教授が引き継いでくださっている。
劇6 うんとこしょ

 演劇の取り組みの意義

 《声を耕し、ことばを育てる》
 「吃音を治す、改善する」を私たちは目指さないが、声、ことばに向き合い、どもっても、その場にふさわしい大きさの声を、表現豊かな声を、耕したい。目を伏せて、うつむき加減に話す子どもに、目の前の人に向かって話しかけようと励ます。演劇は、人と人とが向き合い、響き合うための、格好の教材だ。
 《困難な場面に向き合う》
 ナレーター役の子どもが、何度も挑戦するが最初のことばが出てこない。周りからの激励やアドバイスにその子どもは怒り出し、投げ出した。その子どもに関わり、特訓をしたことがある。「次の日…」の「つ」が言えない。「つ」を言おうとせず、息が流れる母音の「ういおい…」とセリフを読む練習をしばらくして、彼はグループに戻っていった。上演での彼のナレーターは見事だった。あまりどもらずにできたことに意味があるのではない。自分が苦手とすること、困難なことに挑戦し、工夫する。サバイバルする力を身につけていく姿がうれしかった。
 《自分で自分を支える》
 練習の時はそれなりにできていた子どもでも、140名もの人の前で演じるとなると緊張する。自分以外にも舞台には人がいるとはいえ、セリフを言うときは、観客の目は一斉にその子どもに注がれる。逃げ出したくなる自分をひとりで支える。日常生活の中の困難な場でも、自分で自分を支えなければならない。どもりながらも演じきるところに、苦手にしていることや、困難な場に向き合う、新しい「力」が生まれる。 
 音読が苦手だったA子は、2回目のキャンプで主役に手を挙げた。
 「劇は脇役になりたかったけれど、目立つ役でもいいかなと思って、立候補しました。でも、初めからすごくどもって、なかなか劇がすすまないので、嫌になりました。上演のときはすごく緊張感をもって、挑みました。私は話すのにせいいっぱいで、役になりきっていなかったけれど、達成感がものすごく感じられました」(A子小学6年時の作文)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/16

吃音親子サマーキャンプの場の力 2


吃音親子サマーキャンプの場の力 2
  「自分を語ることば」が育つ


『児童心理』4回連載の2回目を紹介します。

吃音親子サマーキャンプの場の力 「自分を語ることばが育つ」
                      日本吃音臨床研究会 伊藤伸二

子どもの語りを支える

 「嫌だったどもりについて話すことが、こんなに楽しいとは思わなかった」とキャンプに参加した高校生がよく言う。安心して話せ、聞いてもらえる場では、子どもたちは実によく話す。90分間、子どもたちが話し合いに集中することに、初めて参加したことばの教室の教師はまず驚く。子どもたちは、気持ちの分かち合いでほっとし、情報の分かち合いで学校での吃音への対処のコツを学び、価値観の分かち合いで「どもっても大丈夫」を自分のものとしていく。


話し合い中1年
・笑われて、泣いちゃった(小学1年)
・音読でどもった後、休み時間に「アイウエオ、と言ってみな」と言われて悔しかった(小学2年)
・どもるのは僕だけではないとわかってほっとした(小学3年)
・からかわれたら、「それがどうした」と言い返す(小学3年)
・「どもりをかわかわないで」と、キャンプの後、校長先生に頼んで、全校生徒の前で話した(小学3年)
・健康観察で「片山ひでき、元気です」の「か」が言えないときは「か」を飛ばしているよ。(小学4年)
・「神様が百分の一の人にどもりをプレゼントして、僕たちは、そのプレゼントに当選した人だと思ったらいいよ」とK君が言ってくれて、すごく心に響きました。(小学5年)

 キャンプでの話し合いが豊かに機能するために次の要素がある。

.侫.轡螢董璽拭爾量魍筺〇劼匹發燭舛世韻任力辰傾腓い脇颪靴ぁことばの教室の教師や言語聴覚士などの専門家と、成人のどもる人が入る。質問し、整理し、深めるために、専門的な知識や、成人の体験が役に立つ。
∧数回参加の子どもの役割 初めて参加する子どもは、複数回参加している子どもの聞く態度、話し方、話す内容をいいモデルにしている。この伝統が引き継がれている。
B慮海鯤絃呂膨屬襦]辰傾腓い両譴任良集修篭貅蠅世、ひとりで向き合い体験を綴る場では自分を表現できる子がいる。この時間を挟むことが、2回目の話し合いで生きる。
は辰江譴旅渋げ宗〜或兇蠅里燭瓩離押璽爐篁談などはなく、「ここは、吃音について話す場」だと明確に伝え、話し合いに集中する。

宮城県女川町から参加したAさん
 
 小学6年生の新学期、転校生ら3人からひどいいじめを受けたAさんは学校へ行けなくなり、8月末のキャンプに参加した。初日の話し合いで彼女は、学校へ行けない悔しさを泣きながら話した。話し合いに慣れている子どもたちは、彼女にどんどん質問をしていく。質問に答えながら、彼女は体験を整理できたようで、修了間近に男子が言った、「Aさんはすごいと思う。自分を変えたいと思うから、遠い所からキャンプに参加したんだね」で、笑顔が出て、話し合いは終わった。キャンプが終わってすぐに彼女は学校へ行きだした。中学校も楽しく過ごし、高校入学が決まっていた2011年3月11日、大津波で彼女は母親と共に亡くなった。1回目の話し合いを終え、翌朝90分の体験を綴る時間に彼女が書いた作文は私の宝物だ。彼女を忘れずに伝えていくことが私の使命だと考えている。

 「学校でどもると、『早くしてよ』と言われ、とてもこどくに思えました。でも、サマーキャンプはみんな私と同じで、ひとりじゃないんだと思いました。夕食後、同じ学年の人と話し合いがありました。みんな、前向きにがんばってるのに私はどもりのことをひきずって、全然前向きに考えてなかった。キャンプで、どもりは私にとって大事なものなんだ、どもりを私のとくちょうにしちゃえばいいんだと思いました。今日、朝起きたときは、気持ちが楽でした。まだサマーキャンプは始まったばかりだと思うけど、とても学校などでしゃべれる自信がつきました」
(伊藤伸二『両親指導の手引き書41 吃音とともに豊かに生きる』全国ことばを育む会 2013年 32ページ)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/15

吃音親子サマーキャンプの場の力


吃音親子サマーキャンプの場の力 『児童心理』で4回連載

 吃音親子サマーキャンプについて、学会で発表してきたことを紹介してきました。
今日からは、金子書房の『児童心理』で4回にわたり、<学校外の子どもの今>というシリーズで紹介されたものを紹介します。
 <吃音親子サマーキャンプの場の力>とのタイトルで4回連載された1回目です。(『児童心理』2016年6月号)

吃音親子サマーキャンプの場の力 1
       悩んできた大人だからできること

            日本吃音臨床研究会会長    伊藤伸二  いとうしんじ

サマキャン 開会の集い 伸二挨拶


   ひとりで悩んだ学童期
 
 小学二年生の秋の学芸会。担任教師からセリフのある役を外されたことで、吃音に強い劣等感をもった私は、学童期・思春期の社会心理的発達課題を達成できず、「吃音が治る」ことだけを夢見て生きた。
 誰にも吃音の悩みを話さずひとりで悩んでいたこと、吃音について何も知らなかったことが、私の人生の旅立ちを遅らせることになった。
 21歳の夏の1か月、吃音治療所で必死に治す努力をしたが治らなかったことから、私は吃音に真剣に向き合い、どもる人のセルフヘルプグループを創立した。このグループ活動で、大勢のどもる人々と出会い、自分の体験を話し、他の人の体験に耳を傾けた。吃音について学び、原因が分からず治療法もないことを知って、吃音と共に生きる覚悟ができた。グループでの活動は、学童期・思春期にしたくてもできなかったことのやり直しになったようだ。
  
 どもる子どもの学校生活

 程度の差こそあれ、どもる子どもたちは、音読や発表、日直当番、健康観察などさまざまな場面で、他の子どもと同じようにできないことに、つらさを抱えている。授業中に困るだけでなく、休み時間の友だちとの会話が苦痛だという子どももいる。どもって言えないとき、「早く言えよ」と言われたり、「日本語、話してみろよ」とからかわれたりする子もいる。かつての私のように、周りに同じようにどもる子どもがいないので、自分だけが悩んでいると思っている。そんな子どもたちに、同じようにどもる子どもに出会い、仲間を作ってほしい。どもりながらさまざまな仕事に就いて豊かに生きている私たち先輩の体験を聞いてほしい。吃音について学び、話し合い、自分以外のどもる子どもが学校でどんな経験をし、吃音についてどう考えているのか知ってほしい。
 私がセルフヘルプグループで体験した、出会いや語り合いの場を通して、気持ち、情報の分かち合い、「どもっていても大丈夫」という価値観の分かち合いをしてほしい。また、ことばに関しても、これまで苦手にしていた表現活動に挑戦してほしい。吃音に深く悩んできたどもる大人だからこそできることを子どもたちに提供したいと考えた。
 成人のどもる私たちと、ことばの教室の教師の共同の取り組みによるキャンプの活動の柱は、吃音についての話し合いと、苦手なことに挑戦する劇の上演だ。プログラムは20年以上まったく変わっていない。

 プログラムとスタッフ

 1日目 出会いの広場/話し合い/スタッフによる見本の劇の上演
 2日目 作文教室/話し合い/野外活動/劇の稽古/親の学習会
 3日目 劇の稽古と上演/卒業式など全体でのふりかえり

 キャンプの参加者は総勢140名。45名ほどのスタッフの3分の1は、大阪のどもる人のセルフヘルプグループのリーダーで、残りは全国からことばの教室や支援学級の教師、言語聴覚士などの専門家が手弁当で集まる。全員が参加費を払って参加するキャンプは、参加者ひとりひとりが主役になる。当初どもる子どもの指導に生かしたいと参加したことばの教室の教師たちも、吃音の豊かなテーマに惹かれて、今は自分のために参加していると言う。
 27年間、キャンプはたくさんのドラマを生み出した。かけがえのない友だちをみつけた子は、大人になった今も連絡をとりあっている。小学生で参加していた子が卒業して、スタッフとして戻ってきている。一緒に参加する親も、スタッフも、ともに成長し、大きな吃音ファミリーになっているのである。
 学校外の活動である、2泊3日のキャンプが子どもの学校生活にどのように影響を与えていくか、子どもたちがどのように変わっていくか。 次回から子どもの声を拾いながら、吃音親子サマーキャンプで起こっていることを紹介したい。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/12

吃音親子サマーキャンプについて発表 日本コミュニケーション障害学会で その2

吃音親子サマーキャンプについて発表 日本コミュニケーション障害学会で その2

 日本コミュニケーション障害学会から依頼を受け、「グループの力」というシンポジウムに参加しました。そこでの話の続きです。

6.活動の3つの柱
 活動には次の3つの柱がある。ゝ媛擦妨き合うために、吃音について、グループで話し合う。表現活動、日本語のレッスンとして演劇に取り組み、最終日に上演する。子どもを支援するための、親の学習会をする。

6.1吃音に向き合う
 初日の夜に第1回の90分の話し合いがある。2日目の午前中の90分は、作文教室でひとりで吃音に向き合う。その後2回目の90分の話し合いがある。
 学齢期の低学年、中学年、高学年、中学生、高校生など同年齢のグループに分かれて話し合う。親もグループに分かれるが、子どもも親も、1グループは7人程度にしている。それぞれのグループには、ファシリテーターとして、臨床家と成人のどもる人がひとりずつ入る。初めて吃音について話したという子どもが多いのは、これまで、家庭でも学校でも、吃音についての話題が避けられてきたためである。聞いてくれ、話を整理してくれるファシリテーターがいて、何でも話せる自由な雰囲気の中で、子どもたちは実によく話し、他人の体験に耳を傾ける。また、作文を通して自分自身をみつめる。
 吃音についてどう考えているか、いじめられたり、からかわれたりしたことがあるか、そのときどうしたか、吃音のためにしなかったことはあるか、吃音が治らなかったらどうするか、将来の仕事をどう考えるかなど、年齢に合った話題が子ども自身から出される。
どう話していいかわからない初参加の子どもも、複数回参加の子どもの発言に、自分を語る表現の仕方を学び、話すようになる。話す喜び、聞いてもらえた喜びを感じ、私だけではなかったと実感する。また、ほかの子のどもりながらがんばっている姿や体験を聞いて勇気づけられて自分もやってみようという気持ちになる。
 このように、吃音と向き合い、吃音と共に生きる知恵と技術を学ぶためには、同じようにどもる子どもやどもる人と出会い、吃音について話し合うことが必要である。話し合いの中で、自分とは違う吃音についての考えや体験を知ることで、問題解決能力を身につける。吃音と共に生きる道を探る出発点に立つことができる。これが、「グループの力」である。
 親もひとりで悩んできたことでは、子どもと同じだ。子どもがひどくどもっているときどのような態度で聞けばいいか、からかわれたりいじめられたらどうすればいいか、将来の結婚や就職への不安が出される。子どもも親も、キャンプ複数回参加の先輩や、どもる人の体験を聞くことによって、吃音についてのこれまでの考え方に自ら検討を加えていく。

6.2からだとことばのレッスンと,劇の上演
 苦手にしている表現活動に挑戦することで、困難に立ち向かう力を、また、日本語の発声・発音について学ぶことで、表現する力を身につける。吃音に悩み、表現することを回避していると、声は小さく、不明瞭で、相手に届かなくなることがある。からだは緊張し、かたくなっている。
 キャンプでは、子どもたちと、からだとことばのレッスンに取り組み、表現活動、日本語のレッスンとして演劇に取り組む。キャンプ中にひとつの劇に子ども全員で取り組み、最終日に上演する。話し合いや遊びの時にはどもらなかった子がセリフを読み始めるととたんにひどくどもり、泣き出すこともある。話し合いとは違う吃音との直面になる。声が出ないとき、どのように声を出すかなど、対策を考えたり、ことばのレッスンをする。そして、最終日の上演では、誰もが緊張する大勢の前で、自分を支え切る。どんなにどもっても、セリフを言いきる。過去、劇の上演から逃げた子どもはいない。吃音を受け止め、支える仲間、大人がいるからである。
 宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」やミヒャエル・エンデの「モモ」など、子どもたちが興味をもって取り組めるシナリオを、演出家であり、「からだとことばのレッスン」で知られている竹内敏晴さんが書き下ろし、スタッフが、まず、竹内敏晴さんから、合宿で演出・指導を受ける。それを子どもたちに指導し、全員で取り組むのである。
 吃音の改善のためではなく、日本語のレッスンをする。子どものからだや声にアプローチし、相手に向き合うからだをつくり、相手に届く声が出るよう、生きる力となる声が出るよう、声とことばに取り組む。どもる子どもの中には、学校生活の中で、どもるがゆえに、せりふの少ない役や裏方の仕事をしてきたという子どもは少なくない。どもりながらも人前で演じることの楽しさを知り、声を出す喜びを味わう。どもってもいいという雰囲気の中で演劇に取り組むことで、表現力をつける。登場人物になりきって、動作をつけながら、楽しく演じ、かたくこわばっていたからだがリラックスし、細かった声が張りのある生き生きとした声に変わっていく。グループで、仲間と共に取り組むからできることである。苦手なことに取り組み、達成できた自信は、その後の学校生活に活かされているようだ。
 これらの子どものプログラムは、ある意味厳しいものである。作文の時間に泣き出し、後の話し合いに参加できなかった女子高校生がいた。吃音でいじめられた体験がよみがえり、苦しくなったのだ。その後の話し合いには加わらず、ひとりで2時間ほど散策していた。その後、気持ちの整理ができて、劇の練習に加わり、精一杯演じた。「小さな子どもたちが劇に一所懸命取り組んでいる姿に、私もがんばろうと思った。今、とても気持ちが楽になった」と語っていた。話し合いも、ひとりで吃音に向き合う作文も、心楽しいものではないだろう。このように子どもたちにとってキャンプは楽しいだけのものではない。しかし、子どもたちはもっと吃音について話し合いたい、劇が楽しかったと言う。
 楽しいだけのキャンプも、子どもたちにとっていい思い出になるには違いないが、それは与えられたものだ。私たちのキャンプは、子どもたち本人の努力がともなう。少し困難な課題に取り組み、それをみんなで成し遂げた達成感は、自信となり、次の課題に挑戦する力となる。キャンプで育った子どもたちは、思春期に再び吃音に苦しみ悩むという揺れは経験しながらも、「吃音を生き抜く」という道を確実に歩み始める。
 3年以上キャンプに参加した高校3年生には、卒業式が行われる。卒業生の発言する態度や、話す内容にはいつも感動する。吃音を恥ずかしいものと考え、吃音を隠し、話すことを避けて、劣等感を募らせ、みじめで暗かった私の高校生活とは全く違う子どもたちだ。明るい笑顔に、キャンプに楽しさだけでなく喜びを自分の力で見いだした子どもたちの力を感じる。

6.3親の学習会
 親は、親同士の90分2回の話し合いだけでなく、どもる子どもを支えるために、吃音の基礎的な知識や、吃音治療法の歴史、現在のアメリカの治療法などを学ぶ。また、子どもが今後困難な場面に合ったとき、どう対処すればいいか、その対処を支えるために、役に立つ考えや技法について学ぶ。
 これまで、交流分析、アサーション・トレーニング、論理療法、認知療法などを学んできた。また、親自身も、子どもと同様、からだとことばのレッスンに取り組み、最終日に子どもの劇の上演の前座として、声とからだで表現する。親のはじけた、大きな声の、からだをつかっての表現は、常に子どもたちを驚かせる。最近は、工藤直子の「のはらうた」を話し合いのグループで練習して、子どもたちの前で思い切り演じる。小学校の学習発表会以来だと、恥ずかしい思いをしながら演じる、普段決して見ることのない親の姿が、その後の子どもたちの劇の上演への勇気づけとなっている。話し合い、一緒に取り組む表現活動で、親も子もひとつのファミリーになっていくのである。

7.吃音親子サマーキャンプの特徴と効果
(1)楽しさを与えるキャンプではなく、ひとりひとりが喜びをつかみ取るキャンプ
 いわゆる野外キャンプのような遊びの要素はほとんどない。2日目の昼に2時間ほど野外活動の山登りがある程度で、90分の話し合いが2回、90分の吃音と自分をみつめる作文の時間の後のほとんどは、表現・日本語のレッスンとしての自分の声、ことばに取り組む。演劇は歌なども取り入れ、楽しんでできるように工夫されているため、子ども達は集中して取り組む。
 ハードなプログラムだが、子ども達は楽しかったという。与えられた楽しさではなく、仲間と共に、吃音に向き合い、ことばの課題に取り組み、何かひとつのことをやり遂げた達成感が、喜びとなり、楽しかったと実感できるのである。自分で困難な場面に向き合う自信がつく。受け身ではなく、自分の力でかちとったことに、喜びがわいてくるのだろう。

(2)ひとりひとりが主役
 スタッフは、募集はしていないが、キャンプの実践を知った言語聴覚士やことばの教室の教師など、九州や関東地方などから、自ら申し込んで毎年40名ほどが参加する。交通費を使い、参加費を払って、自分の喜び、楽しみのために参加するのだとスタッフは言う。
初参加のスタッフも、複数回参加のスタッフの動きをみながら、キャンプの輪の中に入っていく。
 保護者の中で父親の参加が多いのもこのキャンプの特徴だ。きょうだいも、きょうだいの話し合いがあり、演劇に参加する。だれひとり傍観者はいない。親は単なる付き添いではなく、話し合い、学習会、表現活動と、ハードなプログラムに取り組む。子どものための送迎のつもりで参加した父親が、自分が楽しみ、次回からは自らの意志で参加することも少なくない。
 ひとりひとりが、自分の力で喜びや楽しさを見いだしていく。子どもだけでなく、親、スタッフにとっても、意味のある体験となっている。

(3)複数回参加者が多く、初参加とのバランスがとれている
 話し合いや、表現活動などのグループ活動では、初めて参加する人と、複数回参加している人を組み合わせてグループを作る。話し合いの中で、このバランスがいい雰囲気を作り上げている。どもる子どもたちは、自分の問題を自分のことばで話していく話し方を先輩から学び、親は他の親の体験を聞くことで自分だけではなかったと安心し、子育てのヒントを学んでいく。

(4)困難に立ち向かう力・吃ったときの対処
 同じようにどもっていても、自分が今まで尻込みしていたことに挑戦している子どもの話を聞くと、勇気づけられ、がんばってみようという気持ちになる。どもって困ったときにみんながどんな工夫をしているのか聞くこともできる。友だちから「なんでそんなしゃべり方なの?」と聞かれたとき、どう答えるかなど、ヒントや参考になることが多い。

(5)違う体験、考え方に出会い、価値観が広がる
 吃音についての考え方も、将来への不安や展望も、ひとりひとり違う。グループだからこそ、自分と違う考え方をしたり、体験をしている子どもと出会うことができる。いろいろな違う体験を聞くことによって、自分の行動や考え方を転換、修正、広げていくきっかけになる。どもっていても大丈夫だと変わっていく。

8.キャンプの成果−グループの力
仝鋲箸ら解放され、気持ちが楽になる
∀辰傾腓Δ海箸如体験を整理することができる
B召旅佑┐箏亳海鮹里襪海箸如価値観が広がる
さ媛擦閥Δ棒犬るモデルに出会う
サ媛擦鮃猟蠹に捉え、対処法が身につく
 子どもたちは、スタッフの成人のどもる人たちが、どもりながら説明したり、演劇の指導をする姿をよく見ている。小学生は中学生の中に、中学生は高校生の中に、生きたモデルを見いだしている。自分なりに明るく豊かに生きる成人の姿を見ることは、子どもにとっても、親にとっても、「どもっていても大丈夫」だと実感できることにつながるようだ。さまざまな活動と、話し合いを重ねる中で、子どもたちは、徐々にどもる事実を認め、吃音を隠したり、逃げたりすることが減少する。学校でいじめやからかいにあっても、練習したアサーション・トレーニングを実践し、対応することができるようになる。たった3日間の経験だが、学校生活に活かすなど、私たちの予想をはるかに超えて子ども達は力をつけていく。
 親も、どもっていても、明るく前向きに生きる中学生や高校生、成人と出会い、その人たちと話をする中で、吃音症状に以前のようにはとらわれなくなる。将来、屹音が治らずとも、自分なりの人生を歩んでいけることを実感する。目の前に具体的なモデルがいるからである。成人のどもる人と、言語聴覚士やことばの教室の教師などの臨床家がいることが、親や子どもに安心感を与える。リラックスした雰囲気でプログラムに取り組むことで、以上のような成果があがる。

9.課題
 キャンプの成果ばかりに焦点をあてて述べてきたが、当然うまくいかない例もある。中学生や高校生で不登校になっている子どもは、親や教師がどんなに勧めてもキャンプに参加しないことが多い。思春期はそれでなくても不安定な動乱の時期である。これまで話題にもせず、向き合ってこなかった吃音に向き合うことは難しい。相談があった思春期の子どもにキャンプを勧めても、実際に参加するのは1割もない。中学生以上の子どもの参加をどう促すかが今後の課題である。同時にそれは、学童期に吃音に向き合うことの必要性を示している。
 また、キャンプに参加しても、問題が解決するわけではない。また、私たちの考え方を受け止められない子どももいる。しかし、一度キャンプに参加することで、免疫力がついていると、私は信じている。卒業した高校生も、将来吃音に悩むこともあるだろう。その悩みの中で、揺れ動きながらも、卒業生が、スタッフとして参加したり、近況を報告してくれる。「吃音を生き抜く力」をつけているのがわかる。一定期間だけの関わりではなく、成人し、結婚して子どもができてからも、長いつきあいが続いている。いつでも困ったときは、メールでも電話でも相談にのっている。

10.おわりに
 「グループの中では、吃音についてこんなことまで話すのか。私は今まで何をしていたのか。ちゃんと聞いてやっていたのか」と自問することばの教室の教師がいる。このようにグループにはグループの良さがあるが、1対1の指導にも、個別臨床の良さがある。その両者が上手く機能したとき、よりよい吃音臨床が展望できるだろう。1対1の臨床と、グループとは違うが、グループでなければできないことがあるのも事実だ。それが「グループの力」だ。

*子どもの感想でしめくくる。
・「高校生もどもってた。僕もどもっていいの」(7歳)
・「何でどもりになったのかと暗い気持ちから、どもりでよかったという明るい気持ちになった」(10歳)
・「2年の頃、よくからかわれたり、真似をされ泣いて帰ったが、3年生の時、キャンプに参加して、どもってもいいんだとわかってから、発表ができるようになった。からかわれたら、『それがどうしたんだ』と言い返します」(10歳)
*高校3年生になり、サマーキャンプの卒業を迎えた時の作文教室で書いた高校生の作文を紹介する。
・「やっぱサマキャンの力はすごい」(高校3年生女子・東京)
 サマーキャンプに小4で初めて参加してから早くも卒業という時期を迎えてしまいました。今までの自分の吃音を振り返ってみると、いろいろなことがあったなと思います。小さいときに、友だちの家のインターホンを押したときに、自分の名前が言えなくて泣いて家まで帰ったこと、小4で代表委員に立候補し、全校生徒の前で自分の名前がなかなか言えなくて泣いたこと、小学校の音読で最初の音がなかなか出せなくて、すぐ終わるような文章を何分もかかってしまい、その場から逃げ出したかったこと。他にもここに書ききれないくらい吃音で嫌だったこと,苦しかったこと,泣いたことはいっぱいありました。そのたびに吃音のことを憎んでたし、吃音じゃなかったらこんなに苦しい思いはしなかったのにと何度も思っていました。でもそのたびに吃音サマーキャンプのことを思い出して、「自分だけじゃない。みんなもがんばってるんだ」と思って、サマーキャンプに早く行きたい気持ちでいつもいっぱいでした。
 サマーキャンプに参加してからも中学くらいまでは、吃音の原因がどうとか、治したいという気持ちが全くなかったわけではなかったけど、今は原因とかどうでもいいし、治したいとは思いません。それでも日常では無意識に言いやすいことばに換えて喋っちゃってるんですけどね。
 それでも吃音に対して前と考えが変わったのは、吃音親子サマーキャンプのおかげだと思っています。これから吃音で嫌なことはいっぱいあると思います。人前でも堂々とどもれるのにはまだ勇気がいるし、吃音から逃げることができないけれど、今までどうにかなってきたんだから、これからだって失敗はいっぱいするだろうけど、やっていけると思っています。そう、信じています。

参考文献
平木典子,伊藤伸二.(2007).話すことが苦手な人のアサーション.金子書房.
石隈利紀,伊藤伸二.(2005).やわらかに生きる一論理療法と吃音に学ぶ.金子書房.
伊藤伸二.(2008).どもる君へいま伝えたいこと.解放出版社.
伊藤伸二.(2004).どもりと向き合う一問一答.解放出版社.
水町俊郎,伊藤伸二.(2005),治すことにこだわらない,吃音とのつき合い方。ナカニシヤ出版

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/9

吃音親子サマーキャンプについて発表 日本コミュニケーション障害学会で その1

日本コミュニケーション障害学会での発表 その1

 吃音親子サマーキャンプについての、学会での発表の最後です。
グループの力 学会誌表紙  10% 2009年、新潟県長岡市で開かれた、日本コミュニケーション障害学会で、「グループの力」をテーマにしたシンポジウムがあり、依頼を受け、そこで発表しました。僕のほかに、失語症デイケアサービスの活動、高次脳機能障害児・者の集団活動、高機能自閉症スペクトラム児集団活動をしている方が登壇しました。テーマ「グループの力」について、次のような趣旨説明がなされています。

 
私たち人間は、「社会的な動物」といわれます。私たちは、他者とのかかわりを通じて、他人に受け入れられ認められる経験の中で、自他の存在を認め、尊重し合う力を身につけていきます。しかし、「コミュニケーション障がい」のために、一般の社会に受け入れられず、また適応できず、さらに自己を受容し尊重することができずに苦しんでおられる方たちがいます。そのような方たちを援助する手段として、「グループの力」が利用されてきました。
 同じ障害や共通の問題に悩む人との関わりの中で、「コミュニケーション障がい」に苦しむ方たちはどのように変わっていくのでしょうか。障害によって失われた生きがいや未来への希望や自己を受容し尊重する気持ちを、どのようにして取り戻していくのでしょうか?
 今回は、吃音・失語症・高次脳機能障害・高機能自閉症児の集団活動を支援してこられた先生方をシンポジストにお迎えし、それぞれのお立場からのお話をお聞きします。その実践の中から「グループの持つ力」とは何かを考えたいと思います。そして、「グループの持つ力」を活かすためには、私たちがどのような点に注意して、その活動を支援していくべきなのかを検討したいと思います。



2009年5月30・31日   日本コミュニケーション障害学会
  特集1〈グループの力〉
        吃音親子サマーキャンプにみる、グループの力
                     日本吃音臨床研究会 伊藤伸二
  Group Strength Developed by Summer Camp for Children who Stutter and Their Parents
            Shinji ITo
       コミュニケーション障害学VOL.27NO.1(2010)

 学童期から吃音と直面し、吃音と共に生きる自覚をもつために、吃音親子サマーキャンプに取り組んできた。その活動を報告し、「グループの力」について考察した。小学生から高校生が参加する2泊3日のキャンプは、ゝ媛擦砲弔い董▲哀襦璽廚任力辰傾腓ぁ↓表現、日本語のレッスンとして演劇活動、子どもを支援するための親の学習会、の3つを柱に組み立てられている。この活動を通して、子どもたちは、自らの体験を整理し、他の人の考えや経験を知ることで、価値観を広げる。吃音と共に生きるモデルに出会うことで、吃音を肯定的に捉えることができるようになる。話し合いや、苦手としている表現活動に取り組むことで、吃音を生き抜く力をつけていく。親も、どもりながら前向きに生きる中学生や高校生、成人と出会い、子どもの将来への不安が軽減する。これらのことが起こるのが、グループの力である。

Key Words:セルフヘルプグループ演劇活動、吃音との直面、学齢期の吃音、親の学習会
selfhelp group、drama performance、facing stuttering、stuttering in school children、learning opportunities for parents

1.はじめに
 開設している吃音ホットラインには、平均して1日3件ほどの電話相談がある。その相談や各地での吃音相談会では、幼児の吃音相談が多いが、学童期・思春期の子どもの不登校や成人の社会的引きこもりの相談が増えてきた。
 それらの相談に耳を傾けていると、学童期から思春期にかけて、吃音の話題を避け、吃音と直面せずにきた人が多いことがわかる。吃音を否定し、隠し、話すことを避けてきた私自身の経験から、学齢期に、吃音をオープンに話題にし、自らの吃音と直面する必要性を感じてきた。そこで、早期に吃音と直面し、吃音と共に生きる自覚をもつために、どもる子どものためのキャンプに取り組んできた。吃音親子サマーキャンプの活動を通して、「グループの力」について考察する.

2.キャンプの概要
 吃音親子サマーキャンプは、1990年から始まり、今年で20回目になる。近畿地方だけの、30人程度の参加者から、全国的な広がりをみせ、ここ10年ほどは、140名ほどが参加するようになった。当初、中学生・高校生が多かったが、最近は、小学生が中心になっている。参加資格は、幼稚園児から高校生までで、親子の参加を原則とし、きょうだいの参加も歓迎している。毎年、夏休みの最終の金・土・日曜日の2泊3日で行われる。

3.スタッフ
 言語聴覚士、ことばの教室の教師などの臨床家の有志と、日本吃音臨床研究会で実行委員会をつくり、実施する。このメンバーのほか、障害児教育や臨床心理学の大学生や大学院生、言語聴覚士の専門学校の学生、キャンプの卒業生など約40名が毎年スタッフとして参加する。スタッフの半数以上が、臨床家である。
 また、成人のどもる人もスタッフとして加わる。しかし、吃音の経験があれば誰でもいいというわけではない。吃音の体験があるというだけで、成人がどもる子どもと触れあうのは、必ずしも有益にならず、弊害になることがあるからである。このため、どもる人のセルフヘルプグループである、NPO法人・大阪スタタリングプロジェクトのリーダーとして長年活動を続けている人に限る。彼らは、児童心理やカウンセリング、臨床心理学、グループについて学習し、「竹内敏晴からだとことばのレッスン」を受け、子どもにことばのレッスンができる。また、キャンプ卒業生の参加は、3年以上のキャンプ経験があり、実行委員会が認めた人に限られる。

4.目的
 子どもたちは、吃音について自分のことばで話し、自分の悩みや苦しみを真剣に聞いてもらう経験があまりない。また、同じようにどもる子どもやどもる人とも会っていない。自分ひとりが悩んでいると思っている。吃音症状の早期治療ではなく、吃音を生き抜く力を育むために、「吃音とつき合う」ことを目指しているどもる子どもやどもる大人に、早期に出会う必要がある。

5.キャンプの基本姿勢
 「日頃どもることで苦戦をしている子どもたちに、楽しさをいっぱい与えるキャンプにしたい」「吃音と向き合い、苦しい中にも、何かひとつのことをやりとげ、そこから子どもたちが喜びを見いだすキャンプにしたい」
 吃音親子サマーキャンプを始めた当初は、キャンプの基本姿勢についてスタッフで意見が分かれた。
 吃音に向き合うことで吃音と共に生きる道筋に立つことができた経験をもつ当事者である私たちは、キャンプを楽しいだけのものにはしたくなかった。同じようにどもる子どもと出会うこと、そのことだけでも大いに意義あるものには違いないが、吃音と向き合い、苦手なことに挑戦する機会をつくりたかった。そこで得られる達成感や充実感によって自信をもち、生きる力や吃音と向き合う力、表現する力が育つと考えたからだ。そこに子どもたちは喜びや楽しさを見いだすだろうと信じていたからだ。
 3年ほどの論議を経て、現在の吃音親子サマーキャンプのプログラムができあがった。それは現在もほとんど変わっていない。
                                 (つづく)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/8
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