伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

2018年11月

千葉で、吃音研修会と吃音相談会を行います

千葉で、吃音研修会&吃音相談会

 千葉で行われる、吃音研修会と吃音相談会の案内です。
 どちらも、会場は千葉市民会館、日時は12月1日で、研修会は午前中、相談会は午後に開催します。千葉市立院内小学校ことばの教室の渡邉美穂さんが企画して下さった研修会&相談会です。
 お気軽にご参加下さい。
 お知り合いの方、関心をおもちの方に、ご紹介いただければ、うれしいです。

吃音研修会
日時   12月1日(土)9時30分から12時まで(受付9時)
会場   千葉市民会館 第3会議室
講師   伊藤伸二(日本吃音臨床研究会会長)
対象   ことばの教室の担当者、言語聴覚士、通常の学級の教師、幼児教育の関係者等
内容   講演<演題> 幼児期・学童期の吃音の理解と対応
               〜子どもの非認知能力を育てる〜
参加費  1500円
申し込み ―蠡亜´∋疚勝´E渡暖峭罅´な垢たいこと、知りたいこと 
     をお書きいただき、下記まではがきかFAXで、お申し込み下さい。
       〒260−0007 千葉市中央区祐光1−25−3
        千葉市立院内小学校ことばの教室 渡邉美穂 宛
           FAX  043−222−0196
TEL  043−227−5576



吃音相談会
日時   12月1日(土)13時30分から16時30分まで(受付13時)
会場   千葉市民会館 第3会議室
講師   伊藤伸二(日本吃音臨床研究会会長)
対象   どもる子どもの保護者、どもる子どもにかかわる関係者
内容   どもる子どもとどうかかわるか、参加者からの相談や質問に答える
     自身の体験や最新の研究・情報をもとに、子育てについて提案する
参加費  1500円
申し込み ―蚕蝓´∧欷郤圓了疚勝´E渡暖峭罅´せ劼匹發了疚召版齢(学年)
     チ蠱未靴燭い海函知りたいこと、困っていること 
     をお書きいただき、下記まではがきかFAXで、お申し込み下さい。
       〒260−0007 千葉市中央区祐光1−25−3
        千葉市立院内小学校ことばの教室 渡邉美穂 宛
           FAX  043−222−0196
TEL  043−227−5576



日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/11/17

法隆寺へ、ショートトリップ

法隆寺へ、ショートトリップ

   柿 食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺

で有名な法隆寺に行ってきました。テレビを見ていたら、法隆寺参道の奈良漬け屋さんの柿の奈良漬けが紹介されていたのです。瓜や西瓜などは珍しくもないのですが、柿の奈良漬けは食べたことがありません。おいしそうに見えました。
 僕の家から、放出、久宝寺と乗り継げば、そう遠い所ではありません。久しぶりに電車を使って、ショートトリップです。
法隆寺1法隆寺2 法隆寺、名前はよく知っているけれど、行ったことはあるのかないのか、覚えていないくらいなので、行ったとしても、かなり昔のことでしょう。五重塔と金堂、大宝蔵院、夢殿など、ゆっくり見て回りました。広い敷地です。日曜日なのに、人出はそれほどでもなく、ゆったりしています。京都なら今頃かなりの混雑だろうなと思いましたが。

 金子書房からの新刊『どもる子どもとの対話〜ナラティヴ・アプローチがひきだす物語る力〜』の最終校正が終わり、表紙やオビのデザインも決定し、後はできあがりを待つのみとなりました。ほっとしています。その気持ちを味わいたくて、秋のやわらかい日射しの中、古都・奈良を歩きました。
期待して行った柿の奈良漬け、試食してみて、(う〜ん、思っていたのと違う)となり、買わずに帰ってきました。

 3、4日前の暖かさとは変わって、初冬のような空です。例年よりかなり遅い雪が北海道で観測されたとか、季節は秋から冬へと確実に移りゆくようです。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/11/15

寝屋川公園 カモの大群、発見

カモの大群、発見

 このブログによく登場する僕の家の近くの寝屋川公園も、秋が深まってきました。
 9月の台風の影響は大きく、公園の中にある大きな高い木が何本も、根こそぎ倒れていましたが、ようやくその片付けが始まったようです。その台風の影響もあってか、今年の紅葉はあまりきれいではありません。葉が早く落ちてしまった木もたくさんあります。食後のスロージョギングを続けていますが、今年はどうやらそんな感じです。寝屋川公園 紅葉寝屋川公園 紅葉2寝屋川公園 紅葉3
 でも、公園の中を流れている小さな川には、忘れず、今年もカモがやってきました。初めは、2羽、4羽、9羽、15羽と増えてきました。
寝屋川公園 カモ2羽寝屋川公園 カモ3羽
 そして12日の月曜日、夕食を終えて、いつものようにジョギングへ。30分ほど走って、いよいよマンション近くの広い原っぱまで来ると、「ピヨッ」というなつかしい声がします。これは、確かにカモの声だ! みると、なんと150羽あまりの大群です。ここ2年ほどは、年を越して1月か2月にその大群を見ているのですが、こんなに早い時期に見るのは初めてです。もしかしたら、気づいていないだけで、毎年、この時期に来ていたのかもしれませんが。
寝屋川公園 伸二 昼間は一体どこにいるのか分かりませんが、夜に大集合です。「よく来たね」と、お互いにねぎらっているのかも、歓迎パーティかウェルカムパーティをしているのかも、と想像がふくらみます。
 しんどいジョギングですが、カモのミーティング風景を見ることができる楽しみができました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/11/14

第10回吃音キャンプ IN GUNMA

  第10回吃音キャンプ IN GUNMA

 「最低気温は5度の予定です。寒さ対策をしてお越し下さい」、事務局の佐藤雅次さんから、最後のメールをいただき、11月3日、群馬に向けて出発しました。東京へは飛行機が多いのですが、その後の乗り継ぎもあって、群馬のキャンプはずっと新幹線を使っていました。今年は初めて、東京まで飛行機を使いました。かかる時間は変わりないと思うのですが、長い時間、じっと座っていないといけないのがだんだん苦痛になってきています。
 覚悟をして行ったけれど、それほど寒くはなく、いい天気、秋晴れの2日間でした。昨年も、すごく寒いとの情報にも雪景色が見られるかもと、覚悟と期待をして行ったけれど、雪どころかいい天気でした。

 10回目というひとつの節目にあたる今回の群馬のキャンプ。花火のように最初に打ち上げることは比較的できますが、継続するのは大変です。群馬のキャンプ、よく10年間続いていると、スタッフの皆さんに大いなる敬意をもって臨んだキャンプでした。
 
 私のかかわっているキャンプにはそれぞれ特徴があります。それぞれの事情があるので、僕は皆さんの計画にのっていくだけです。
群馬キャンプ 幕
群馬キャンプ 佐藤さん群馬キャンプ 講演 伸二 群馬のキャンプの特徴の一つが、最初のセッションである僕の講演会には、キャンプ参加者だけでなく、講演だけの参加も呼びかけていることです。第1回の時は、初めて群馬県に呼んでいただいたということもあり、大勢の人が参加して下さり、たくさん用意した書籍も完売でした。驚いたことを覚えています。
 今回は10回目の講演ということになります。今年も参加人数が多く、何回も続けて参加して下さる方もいらっしゃるので、同じ話にならないよう、僕も、できるだけ工夫し、準備をしました。

 秋のキャンプロードは、千葉に始まり、岡山、島根、群馬と続き、沖縄で終わります。共通の基本の配布資料を用意するのですが、話して帰ってくるたびに、次のところでは、これを付け足そうとか、こういう言い方に変えようとか、かなり変化していきます。なので、事前に配布資料の印刷をお願いしていても、追加の資料印刷を直前にお願いすることになってしまうのです。

群馬キャンプ 講演 伸二とみんな群馬キャンプ 講演 伸二2群馬キャンプ 講演 伸二とみんな2 大好きな落語家の、立川志の輔さんの、連続5日間くらいの公演で3日目くらいに行くと、枕で「1日目、2日目と練習をしてきて、本日の3日目は、完成度の高いものをお届けします」なんて言って笑いをとるのですが、それを思い出します。もちろん、初日は初日で、きっと「もう今日で使い果たすくらいの全力投球をして、後は惰性で流します」なんて枕で言うのですが。僕にとっては、一回一回、この人たちに話すのはこれが最後かもしれないという気持ちで話をしています。一期一会です。

 金子書房から刊行される『どもる子どもとの対話〜ナラティヴ・アプローチがひきだす物語る力』で伝えたかったことが中心テーマです。発行が間に合わなかったので、そのさわりを話して、宣伝もしてきました。

 群馬のもうひとつの特徴は、帰りに、必ず感想をコピーして渡して下さることです。僕の話がどう伝わったのか、すぐに分かることはとてもありがたいことです。後片付けの忙しいときに、感想をまとめ、コピーをして下さることは、スタッフのみなさんにとってはあわただしいことだと思います。帰りの時間を気にしながら、でも、そのことを大切にして下さっています。感想を車中で読むのが、僕にとって、幸せなひとときでしたが、今回は飛行機の待ち時間に読ませていただきました。
  
 その感想の一部です。

<ことばの教室担当者や言語聴覚士の方の感想>
・初めて聞かせていただきました。ご自身の体験を振り返って、過去のとらえ直しをされたとのこと、その中で、活発に元気だった本来のご自分を取り戻し、克服していったとのお話を伺い、感動しました。今、小学2年生を担当していますが、通級でどんなことをすればいいか、今、していることの意味が見えてきたように思います。新しい著書との出会いもとても楽しみです。

・伊藤さんの話を毎年聞かせていただいていますが、吃音についていろいろ知ることができ、またもっと勉強しようと思わせていただき、ありがたいです。

・伊藤さんの話を聞くのは5回目くらいですが、毎回心に残る話があります。幼少期から2年生までの「非認知能力」の話、また、21歳から「どもれる体」になったとのことが心に残りました。また、伊藤さんの話を伺うのを楽しみにしています。

・ことばの教室で、どもる子どもを今年初めて担当し始めました。伊藤さんの講演を初めて聞かせていただきました。教室にある伊藤さんの著書や「スタタリング・ナウ」は読ませていただいています。「吃音から逃げずに、共に生きる」という気持ちの持ち方で、どもっても話したいことを話せる「どもれる体」になったという伊藤さんの話を聞いて、本では入らなかったいろいろなことがストンと心に落ちた気がしました。また、子どもが幸せに生きるために、親がオープンダイアローグの立場で、子どもと対していくことも、吃音の子だけでなく、自分の娘にもすごくつながることだなと思いました。


<保護者の感想>
・初めて参加しました。どもるのを治さなくちゃと思っていたのですが、話を聞いて、考え方が変わりました。今の子どものままでいいんだと思えるようになりました。子どもの良い部分をたくさんみつけ、できない部分ではなく、できることやがんばっていることに目を向けようと思います。子どもが安心していろんなことを自分らしく話してくれるような親子関係を築いていきたいと思います。ちゃんと向き合っていきたいと思います。

・1年に一度、伊藤さんの話を聞かせていただいています。毎回、講演会を聞く機会がいただけるこのキャンプに感謝しています。聞くたびに、自分の気持ちや環境が違ったりすると、いろんな視野で見られるので、新しい発見があったりします。「対話から自己肯定感を育てる」は、私も最近見えてなかったなあと、できてなかった気がして、また今日からがんばろうという気持ちになりました。

・2度目の参加です。伊藤さんの話を聞いてから、私も息子のどもりを心配するより、息子の良さをみつけ、本人に伝え、どもりへの悩みを話してくれることも増えました。それからは、息子へ、「吃音は個性であり、できないことも他の人と比べると多いわけじゃなく、何でもできる。言いたいことはちゃんと伝えていこうね」と話せることも増えています。本人への対話も増えたためか、自分で自分の良さを自信に変えて生きていっているように思います。まさに、今日のお話、自己肯定、他者への信頼は、本人も含め、自分の気持ちも変えてくれるように思います。「愛される自信」は、全ての方に本当に大切なんだなと感じています。吃音を通して、親子で自分をみつめ、探り、知るきっかけとして寄り添っていきたいです。

・うちの子はまだ5歳なので、どもって話すことを恥ずかしいと思ったり、話さないようにすることはありませんが、この先、「どもれる体」を意識して、対等の立場で対話していきたいと思いました。どもっていてもちゃんと生きている人がたくさんいることも教えていきたいです。私は介護の仕事をしているので、認知症の話もとても勉強になりました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/11/13
 

パラグアイからの声

懐かしい人からの電話 パラグアイからの声


 11月3・4日は、第10回吃音キャンプ IN GUNMAでした。
 熱心に取り組んで下さる方のおかげで、どもる子どもたちや保護者と有意義な時間を過ごし、4日夜、大阪に戻りました。そして、その日の夜、珍しい人から電話をもらいました。

 僕がまだ東京にいて、東京言友会で活動してきたとき、一緒に活動をした仲間の一人です。合田義雄さんと言います。会を創立してから、数年ほど一緒に活動しました。彼は、その後、パラグアイに移住し、そこで、大学時代に学んだことを活かして、パラグアイに農業を根付かせる仕事をしていたと記憶しています。
 声を聞くのは、45年ぶりぐらいでしょうか。
 彼は、今回、世話になった大切な先輩が亡くなったため、パラグアイから日本に一時帰国したとのことでした。ひとしきり、近況を伝え合いました。僕が、今なお、吃音にかかわる仕事をしていること、今、どもる子どもたちとのキャンプから帰ってきたばかりだと話すと、「伊藤さんは、すごい。すごいね」と言ってくれました。僕は、自分が一番したいことをしているだけで、好きで続けてきただけですが、「すごいね」と言ってもらって、うれしくなりました。

 合田さんは、東京言友会時代、「ことばのりずむ」という雑誌の編集委員をしていて、創刊号には、「沖縄からのレポート」という文章も書いていました。理論研究部にも所属していて、調査研究の報告の文章も書いていました。

 そして、なんといっても、合田さんといえば、言友会の歌を思い出します。会創立5年目に、言友会の歌を制作することにし、作詞は仲間から応募しました。作曲は、黒澤明監督の映画音楽の多くを担当していた映画音楽の第一人者で、「若者たち」の作曲者でもある佐藤勝さんにお願いしました。たくさんの応募作品の中から佐藤勝さんに選んでもらい、佐藤さんが少し手直しをして下さり、言友会の歌が誕生しました。創立5周年記念祭の時、フォークグループのシュリークスが歌ってくれました。電話を切ってから、あの当時を思い出して、歌いました。なつかしかったです。
 合田さんは、来年も日本に帰国する予定だと聞きました。そのときはぜひ、会おうと約束しました。

     
輝く明日  
                        作詞    合田義雄  
                        補作・作曲 佐藤勝
      
1 昨日まで私は一人
  故郷(ふるさと)を出てから
  夢を語る人もなく
  やさしい春の陽(ひ)の中で
  昨日まで私は一人

    2 今日はもう私は二人
      名前を呼びあえば
      あなたのその瞳(め)の中に
      輝く星の光りみて
      今日はもう私は二人

        3 明日から私は全て
          喜びも哀しみも
          仲間と共にかみしめて
          冬に陽(ひ)の響く上をみて
          明日から私は全て


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/11/7

第20回島根スタタリングフォーラム 子どもの強みをみつけよう

第20回島根スタタリングフォーラム  子どもの強みをみつけよう
 

島根フォーラム 講演会島根フォーラム 講演会伸二 20回も続いている島根のキャンプ。連続して参加して下さる方も多いので、毎年、同じ話にならないようにと考えます。もちろん、伝えたいことはひとつで、それは変わりようがないのですが、少しでも、新しいことを、僕自身が学んだことをかみ砕いてお伝えしたいと思って、準備をしました。特に島根では、僕が保護者に話す時間がたっぷりあります。1泊2日の中で、7時間30分もあるのはすごいことです。急がず、じっくりと対話することができるのがありがたいです。

 今回は、金子書房からの新しい本『どもる子どもたちとの対話〜ナラティヴ・アプローチがひきだす物語る力』に書いたことで、今、僕が注目しているポジティブ心理学について話しました。これは、レジリエンス、アドラー心理学と通じていて、今まで大切だと思って追ってきたことと、見事につながっているのです。このことは、今まで考えてきたあのこととつながっている! そう発見したときは本当にうれしくなります。出会うべくして出会った!という感じともいえます。

島根フォーラム 円くなってみんな島根フォーラム 円くなって伸二 午後の3時間は、ひとりひとりの保護者の思いに耳を傾け、僕なりのコメントをしていきました。その中のひとりの母親が「みなさんの子どもが、どもりを受け止めて学校でがんばっているのに、うちの子どもは、学校へ行きたくないと言って行かなくなった。行っても保健室や会議室にいる」と涙ながらに話しました。少し話を聞いて、じっくりとみんなで考えるいいテーマだと思ったので、「みんなも一緒に考えた方がいいので、後で当事者研究をしましょう」と提案して、午後のセッションが終わりました。夕食前になって「実は、私たちは今日は泊まらずに、夕食後帰ります」と父親が言いに来たのであわてました。翌日にみんなで考えようと思っていたのですが、それができません。そこで、夕食の時に、父親、母親と私の3人で「当事者研究」をしました。
 
 小学6年の息子は、学校に行ったり行かなかったり。フォーラムに参加している他のどもる子どもたちはがんばって学校に行っているのを聞いて、お母さんは、自分の息子はみんなと比べてまだまだだなあと思ったそうです。そんな息子の強みなんて言われても、何もないなあと悲観的でした。
 僕は、それでも何かあるはずだと思い、詳しく様子を聞いていきました。すると、学校には行けていないが、地域の野球クラブにはがんばって参加し、ポジションはピッチャーだとのことでした。1対0の緊迫した試合に出て、ちゃんと抑えて勝ったこともあると言います。そんなすごいことをしていると聞き、僕は、この子の強みは、ちゃんとあるじゃないかと思いました。また、完全に行けていないわけではなく、時々、音楽や図工、体育の時間は行くこともあるそうです。学校に行っていないのに、地域の野球クラブには行っている。学校に行かないで地域の野球だけするなんて…と言われるのが嫌で、普通なら地域の野球に参加することはしないと思うのですが、それを超えて彼は参加しています。
 何が彼をそうさせているのだろう、社会などの教科の時間には行けないが、図工などは行けるのはなぜか。クラスでは、吃音について何か言われてうまく人間関係ができないのに、野球部ではちゃんとできているのはなぜか。
 「このようなことを子どもと話し合ったことはありますか」と尋ねると、「聞いたことはないし、なぜだか分からない」と言います。いろいろと話を聞いていくと、僕の目にはその子どものポジティヴな特徴、強みが探れそうに思えました。
 1対0の緊迫した試合で、投げ切って勝利したのは、彼にどんな力が、どんな強みがあるからだろうと考えます。「こんな緊迫した試合に勝って、すごいな」と親も周りも思うだけで、そのすごさがどこから来ているのか、その子の強みとして、どんなことにつながっているのか、言語化し、概念化していくことがまったくできていません。
 「粘り強さ」もあります。チームのことを思う連帯感も、責任感もあります。何よりも好きなことに「熱中する力」もあります。それらをひとつひとつことばにし、意味づけをして、子どもに伝えていくことを提案しました。親が子どもの強みを発見し、それをもとに対話を続け、その強みを、学校に行って、算数や社会などの教科の授業に参加することにつなげるのです。対話をしてこなかったことに気づいた両親にとって、食事をしながらの45分ほどの短い時間でしたが、新たな気づきとなってストンと落ちたようでした。強みなんて何もないと思っていたらしいのですが、母親と父親の表情が変わっていきました。
 そのやりとりを、僕は、翌日のプログラムの中で紹介しました。強みを探そう、そのために子どもと対話をしようと話をしていましたが、対話の大切さは分かったけれども、では、具体的にどう対話していったらいいのか、もうひとつ分からなかったという保護者やことばの教室の担当者が、この具体的な話を聞いて、よく分かったと言ってくれました。
 「子どもと会話」はよくしていると思っていたが、「対話」はしてこなかったと何人もの人が発言しました。苦手なところ、弱点はすぐにみつけることができるし、目につきやすいです。そうではなく、強みをさがし、みつけることです。子どもと一緒に対話しながら、強みをみつけていく過程は、楽しく愉快な旅だと思います。
島根フォーラム 伸二挨拶
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/11/6

第20回島根スタタリングフォーラム 初恋の人

第20回島根スタタリングフォーラム 初恋の人

 島根スタタリングフォーラムに関するエピソードの第二段として、「初恋の人」を紹介します。
島根フォーラム じゃんけん列車島根フォーラム パワポ表紙
 他者への信頼を取り戻せた体験として、僕がよく話をする「初恋の人」は、三瓶の出身でした。どもりを治すために行った東京正生学院で出会った人です。第1回のフォーラムの時、スタッフの打ち合わせで翌日のプログラムについて話し合っているとき、その場の雰囲気で、僕は、初恋の人の話をしていました。参加していたスタッフが僕以上に盛り上がって、「初恋の人、探します!」という声があがり、そして実際に探し当てて下さったのです。
 すぐに電話をし、松江で会う約束をしました。その1年後に会うことができました。「初恋の人、探します」という番組が以前ありましたが、実際に初恋の人と再会できるとは、これだけとっても、僕はラッキーな幸せな男だとつくづく思います。

 少し早めに待ち合わせ場所に行って、この人かな、あの人じゃない方がいいなとか、行き交うたくさんの人を見ていました。そして、ひとりの女性が近づいてきて、この人だ!とすぐに分かりました。あのときと変わらず、すてきな人でした。少し話すだけと思っていたのですが、6時間も話しこんでしまいました。

 そんな思い出深い話をもつ島根スタタリングフォーラム。今年もいつものように、前日に広島に行き、事務局の森川和宜さんに車で迎えに来ていただきました。夕食は、いつも行く「ケンブロー」というトンカツの店。ここで、北海道「べてるの家」の向谷地生良さんと偶然に出会ったこともありました。何かとエピソードの多い島根です。

 では、1999年に書いた「初恋の人」を紹介します。
 
    
初恋の人
                             伊藤伸二
                       『新・吃音者宣言』(芳賀書店)

 小学2年生の秋から、どもることでいじめられ、からかわれ、教師から蔑まれた私は、自分をも他者をも信じることができなくなり、人と交わる術を知らずに学童期、思春期を生きた。凍りつくような孤独感の中で、不安を抱いて成人式を迎えたのを覚えている。
 自分と他者を遠ざけているどもりを治したいと訪れた吃音矯正所で、私の吃音は治らなかった。しかし、そこは私にとっては天国だった。耳にも口にもしたくなかったどもりについて、初めて自分のことばで語り、聞いてもらえた。同じように悩む仲間に、更にひとりの女性と出会えた。吃音矯正所に来るのは、ほとんどが男性で、女性は極めて少ない。その激戦をどう戦い抜いたのかは記憶にないが、二人で示し合わせては朝早く起き、矯正所の前の公園でデートをした。勝ち気で、清楚で、明るい人だった。
 吃音であれば友達はできない、まして恋人などできるはずがないと思っていた私にとって、彼女も私を好きになっていてくれていると実感できたとき、彼女のあたたかい手のひらの中で、固い氷の塊が少しずつ解けていくように感じられた。
 直接には10日ほどしか出会っていない。数カ月後に再会したときは、生きる道が違うと話し合って別れた。ところが、別れても彼女が私に灯してくれたロウソクのような小さな炎はいつまでも燃え続けた。長い間他者を信じられずに生きた私が、その後、まがりなりにも他者を信じ、愛し、自分も愛されるという人間関係の渦の中に出て行くことができたのは、この小さな炎が消えることなく燃え続けていたお陰だといつも思っていた。
 この5月、島根県の三瓶山の麓で、どもる子どもだけを募ってのキャンプ『島根スタタリングフォーラム』が行われた。このようなどもる子どもだけを対象にした大掛かりな集いは、私たちの吃音親子サマーキャンプ以外では、恐らく初めてのことだろう。島根県の親の会の30周年の記念事業として、島根県のことばの教室の教師が一丸となって取り組んだもので、90名近くが参加した。
 「三瓶山」は、私にとって特別な響きがある。彼女の話に三瓶山がよく出ていたからだ。
 「今、私は他者を信じることのできる人間になれた。愛され、愛することの喜びを教えてくれたあの人に、できたら会ってお礼を言いたい」
 30人ほどのことばの教室の教師と、翌日のプログラムについて話し合っていたとき、話が弾んで、何かに後押しされるように、私は初恋の人の話をしていた。その人の当時の住所も名前も決して忘れることなくすらすらと口をついて出る。みんなはおもしろがって「あなたに代わって初恋の人を探します!」と、盛り上がった。絶対探し出しますと約束して下さる方も現れた。
 三瓶山から帰って2日目、島根県斐川町中部小学校ことばの教室からファクスが入った。
「初恋の人見つかりました。なつかしい思い出だとその人は言っておられましたよ」
 私は胸の高鳴りを押さえながら、すぐに電話をかけた。34年間、私に小さな炎を灯し続けてくれた彼女が、今、電話口に出ている。三瓶山に行く前には想像すらできなかったことが、今、現実に起こっている。その人もはっきりと私のことは覚えており懐かしがってくれた。会場から車でわずか20分の所にその人は住んでいたのだった。電話では、《小さな炎》についてのお礼のことばは言えなかったが、再会を約して電話を切った。
 どもる子どもたちとのキャンプ。夜のキャンドルサービスの時間に、ひとりひとりの小さなローソクの炎は一つの輪になって輝いていた。子どもたちと体験したこの一体感が、私にその話をさせ、さらに34年振りの再会を作ってくれたのだ。子どもたちとの不思議な縁を思った。
 子どものころ虐待を受けた女性が、自分が親になったときに子どもを虐待してしまう例は少なくない。しかし、夫からの愛を一杯受け、夫と共に子育てをする人は子どもを虐待しない。
 人間不信に陥った私が、人間を信頼できるようなったのは彼女から愛されたという実感をもてたからだ。この子どもたちは、小さな炎と出会えるだろうか。小さくても、長く灯り続ける炎と出会って欲しい。一つの輪になったローソクの小さな、しかし、確かな炎を見つめながら願っていた。(1999.6.19)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/11/2

第20回島根スタタリングフォーラム 老舗鰻屋のタレ

第20回島根スタタリングフォーラム  老舗鰻屋のタレ

 10月27・28日、第20回島根スタタリングフォーラムがありました。滋賀県で開催している吃音親子サマーキャンプは、来年30回ですが、それに次ぐ回数を重ねています。始めたときは、まさか20回まで続くとは、誰も思ってはいなかったのではないでしょうか。僕は、1回目からずっと参加しています。島根フォーラム 横断幕島根フォーラム 出会いの広場

 第7回島根スタタリングフォーラムを特集した『スタタリング・ナウ』(2006年1月、NO.137号)に、僕は、「老舗鰻屋のタレ」と題する一面記事を書いています。第1回目の親の話し合いの時間は、僕の一方的な講演でしたが、その後、話し合いや学習会的な要素が加わり、老舗の味わいが出てきたと書いています。7回でもすごいと思いましたが、今回、20回目を迎えて、僕も感慨ひとしおでした。
 島根には、たくさんの出会いがあります。第2の故郷とも言えるような場所です。人への信頼を取り戻せた体験として、僕がよく話をする「初恋の人」も、島根のこのフォーラムでの出来事でした。「初恋の人」も、紹介しようと思いますが、今回は、「老舗鰻屋のタレ」を紹介します。

    
老舗鰻屋のタレ
           日本吃音臨床研究会 伊藤伸二
     2006年1月21日 『スタタリング・ナウ』NO.137

 どもる人のセルフヘルプグループ、大阪スタタリングプロジェクトは、名称の変更はあったが、創立して40年になる。ミーティングである大阪吃音教室は、週1回のペースでずっと続いてきた。「吃音を治す、軽くする」路線から、「吃音と向き合い、吃音とともに生きる」路線へ、新たな視点での活動に切り換えてからも30年以上がたつ。
 毎週毎週40年も飽きませんかと尋ねられることがある。吃る状態に焦点を当てた取り組みを続けていたら、おそらく飽きたことだろうが、吃音と向き合い、「どう生きるか」を学び、話し合うことに飽きることはない。常に新鮮なのだ。大阪吃音教室の話し合いが、奥深く、かつ新鮮なことを、私は「老舗鰻屋のタレ」によくたとえる。
 創業100年の老舗鰻屋のタレは、創業時のものに、毎日新しいタレを継ぎ足し継ぎ足し、年を重ね、熟成されてきているという。100年前のものがごく微量でも残っていると思うと楽しい。
 大阪吃音教室も、40年、30年と通い続ける人からまだ半年や1ヶ月の人、今日初めて参加する人など様々だ。その人たちの人生が混じり合い、熟成されていくのがいい。新しいだけでも、古くからいる人だけでもダメで、違った年月を経た、さまざまな人がいることで、ミーティングの場は、ほどよいバランスとなり、独特の味わいを醸し出している。
 同じようなことが、滋賀県で、毎年夏に開き、16年になる吃音親子サマーキャンプの親の話し合い、子どもの話し合いにもみられる。初めて参加する人も少なくないため、最初の時間はその人たちのために使うことが多いが、だんだんと、複数回参加している人も話し合いに加わってくる。その体験に基づく話を聞きながら、新しく参加した人は、今まで気がつかなかった視点やものの見方・考え方に気づいていく。また、複数回の人は初心に返ることができる。これが、初めて参加の人、2度目の人、3度目の人と、いろんな経験をしてきた人が混在していることの素晴らしさだと言えよう。16年間続けてきた老舗の味わいだ。 昨年5月に開かれた第7回島根スタタリングフォーラムの親の話し合いで、このグループも老舗の味わいが出てきたと思えた。第1回は、私の一方的な講演だった。その後、話し合いや学習会的な要素が加わり、回を重ねてきた。
 当初は、親のこれまでの不安や悩みに耳を傾けることにほとんどの時間が使われ、親の表現を借りれば、「涙、涙の話し合い」だった。
 吃るのは母親のせいだと、児童相談所などで言われた人がいた。吃る子どもを持ち悩んでいること、将来に不安をもっていることを初めて話すことができた親もいた。子どもの吃っている姿を「かわいそう」で見ていられないというひとりの親の発言から、参加者全員が「そうだそうだ、かわいそうに思う」と反応したときもあった。「かわいそう」と思われる子どもの方が「かわいそう」ではないかと、時間をかけて話し合った。「どもりは一生治らない!!」と早朝登山で叫んだ小学1年生のことばにショックを受け、「連れてくるんじゃなかった」と私に訴えてきた親がいた。そのことを取り上げて話し合ったこともあった。
 誰にも話すことがなかった思いを存分に出し、お互いに聞く中で、共通の土壌が耕されていく。
 親の話し合いは、3時間の枠が2回あり、合計6時間。7年分をトータルすると42時間。じっくりと吃音と向き合ったことになる。参加回数の違う人たちがおりなす人生が響き合う、吃音についての話し合いは、吃音をテーマに親たちと人生談義をする趣だった。吃音をひとつの切り口にして親も自分の人生を語る時間だったように思う。 吃音について不安を出し合い、吃音についての知識を得る段階から、自分自身の人生をみつめながら、子どもについて語り合う、しっとりとした深まりのあるものへ。老舗の味わいはこれからも熟成し、まろやかなものとなっていくだろう。
 親の人生とは交わることのない、「吃音を治す、軽くする」路線からは、生まれない世界だ。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/11/1
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