伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

2018年03月

2018年度 吃音の旅 スケジュール

明日から、2018年度が始まります

 明日は、4月1日、いよいよ2018年度が始まります。
 クラス替えや自己紹介がある新学期は、僕にはあまりいい思い出がありません。3月半ばあたりから、早春の気配がしてくると、すぐ目の前に近づいてきた新学期の自己紹介を思って胸が締め付けられるような気持ちになったことを思い出します。
 今は、さあ、新しい季節が始まるんだと、わくわくする気持ちの方が強いです。新学期のほろ苦い思い出は、なつかしい思い出に変わっています。

 2018年度のおおまかなスケジュールをお知らせします。
 皆さんの予定に入れておいていただき、どこかで直接お会いできればと願っています。
 詳しいことは、ニュースレター「スタタリング・ナウ」、ホームページ、このブログなどで、お知らせしていきます。

 4月 6日     大阪吃音教室の開講
   15日     神戸吃音相談会
 6月16・17日  第3回 新・吃音ショートコース 
   24日     岡山吃音相談会
 7月 1日     大阪吃音相談会
   21・22日  吃音親子サマーキャンプの芝居の事前練習合宿
   28・29日  第7回 親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会 
 8月17〜19日  第29回吃音親子サマーキャンプ 
 9月16・17日  第2回ちば吃音親子キャンプ
10月20日     第16回吃音キャンプ岡山
   27・28日  第20回島根スタタリングフォーラム
11月3・4日    第10回吃音キャンプin群馬
   24・25日  第3回おきなわキャンプ
12月1日      第2回千葉吃音相談会
2019年1月14日 第7回伊藤伸二・吃音ワークショップin東京

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/3/31

満開の桜と月

 満開の桜と月

 ときどき、このブログにも書いていますが、僕は、スロージョギングをしています。よほど忙しいとき、旅行先でどうしてもできないとき、台風や大雨のとき、からだの調子がとても悪いときを除いて、ほぼ毎日走っています。いろいろなトレーニングが紹介され、始めてみるのですが、なかなか長続きしません。その中で、唯一続いているのが、このスロージョギングです。血糖値の上昇を多少抑えてくれることも、長続きしているひとつの要因だと思います。

走るコースは、大体決まっています。僕の家の近くには、大阪府立の寝屋川公園があり、かなり広いです。以前のブログで、カモの大群が深夜のミーティングをしていることを紹介しました。
桜1
 今、寝屋川公園は、春爛漫、たくさんの花が咲いています。桜は満開に近いし、ユキヤナギ、レンギョウ、クチナシなど、ほんのり甘い香りとともに、走る僕の背中を押してくれているようです。
 夕方、カメラを持って出ました。満月に近い月が出ていました。桜と月、きれいでした。電線を避けようとカメラを構えて、シャッターを切りました。小さく白く円く写っているのが、月です。
桜と月











 翌日、午前中にカメラを持って出ました。白と淡いピンクと少し濃いめのピンクと、緑の中に映えてきれいです。しんどいジョギングも、多少気持ちが和らぐようです。桜2 白とピンク桜とユキヤナギ
 一気に春一色の世界になりました。
 4月1日は、大阪スタタリングプロジェクトのみんなでお花見が計画されています。今、新しい本、「吃音とナラティヴ」の執筆・編集に取り組んでいます。ブログがなかなか更新できないのもそのためですが、せっかくの仲間との花見です。ある程度仕事のメドがつけば、参加する予定にしていますが、どうなることか。忙しい毎日を楽しんでいます。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/3/30

どもる子どもの保護者の心配−ちば親子吃音キャンプで−

ちば吃音親子キャンプ  どもる子どもの保護者の心配
 出会いの広場でのゲームですっり打ち解けた参加者たちは、それぞれ次のプログラムのため、会場を移動しました。子どもたちは、自然の家の周囲をぐるっと散歩した後、工作に取り組みました。保護者は、僕と、学習会です。学習会の会場は、和室の学習室でした。腰が痛いので、僕だけいすに座っています。初めに、お渡しした資料について簡単な説明をして、いつものように、質問を書いてもらいました。今、一番知りたいと思っていることにお答えしたいからです。こんな質問が出ました。

ちばキャンプ8 保護者学習会


・子どもは、どもりについて肯定的になってきたが、今後、クラス替えや就職などの際に、肯定的に考え続けることができるかどうかが心配だ。
・性格と吃音は関係あるか。
・どもりやすい言語はあるのか。逆に話しやすい言語はあるのか。英語と日本語で、どもることに関して比較できるか。
・同級生から「どうしてそんなしゃべり方なの?」と聞かれて、子どもが困っていたので、親の私が「緊張すると、こうなるんだ」と答えたら、「緊張するからって、そんな話し方は普通しない」と言われ、それ以上説明できなかった。どう対応すればいいか。
・話しにくそうにしているとき、助けたいと思う。「あせらなくていい」と伝えたいのだが、いいか。
・中学生なると、いじめが心配だ。全力で守りたいと思うが。
・大人になるにつれて、随伴症状は減っていくものなのか。
・基本的に、周りの人にどもりのことを伝えていくことになるのだろうか。
・ほとんどどもっていると分からないような人もいるが、それは治ったと考えていいのか。
・友人関係でいじめられたとき、親が出ていってもいいのか。
・中学校に入学するとき、新しい環境になるので、先に学校や担任に親が相談した方がいいのか。
・成長していく中で、どもる自分をどう思っていくのだろうか。障害をもつことについてどう考えていくのだろうか。
・ことばの教室に通って5年。明るく楽しい生活をしている。ただ、発表だけができなくて、あきらめている。どうしたらいいだろうか。
・伊藤さんは、治療を受けた経験があるのか。
・治らないんだと分かったとき、どんな気持ちになったのか。

 その中で、ここでは、紹介します。
いじめについて
 からかいといじめはまったく違います。いじめとはっきりしたら、学校、教育委員会、警察、あらゆる手段を使って全力で守るべきです。しかし、からかいに関しては、子どもと相談して下さい。選択肢は複数あります。こんなときはどうするか、こんなときはどうするか、と普段から子どもと相談しておくといいでしょう。笑ったり、からかったりということはよくあることなので、いじめとの区別をつけ、自分でしのいでいけるくらいの力はつけておいてほしいと思います。

僕の治療経験について
 僕は、どもりが治らないと自分の人生はないと思い込んでいました。当時は、どもりは治る・治せるの情報しかなかったので、僕がそう思うのは、当然のことだったかもしれません。あの苦しかったときを生きてこられたのは、このままどもったまま死んでたまるか!という気持ちからでした。東京正生学院に行きたい、そこに行ってどもりが治ってから僕の人生が始まると思っていました。どもっている今は、仮の人生だと思うと、一生懸命生きることもせず、もちろん、勉強もしませんでした。どもりが治ったら〜しようと思っていたのです。21歳のとき、東京正生学院に行き、一ヶ月寮に入り、治療を受けました。しかし、僕のどもりは治りませんでした。そこで、僕は考え方を変えたのです。生活のためにしなければならなかったアルバイト生活で、僕は、どもっていても人は僕の話を聞いてくれるということを知りました。どもっていても、どんな仕事でもできるということを体験的に知りました。それが自信になって、大阪教育大学の教員という仕事に就くことができました。この話をすると、「伊藤さんは必死に治す訓練をしたけど、私はまだしていない」と言う人がいます。戦争をまだ経験していないから、一度戦争をして、それから戦争はいけない、平和が大切だと気づいても遅いでしょう。たくさんの人々がしてきた、治すことの失敗の歴史に学ぶことが必要なのです。

治らないと分かったときの僕の気持ち
 絶望感は全くありませんでした。悩むこともあませんでした。じゃ、どう生きるかにエネルギーを使おうと思いました。肩の荷が下りたようでした。大阪教育大学時代に、児童相談所で、ことばの送れのある子どもや保護者と関わりました。そのとき、母親たちは、「この子がお母さんと呼んでくれるまで、自分の好きなことも我慢しています」と言いました。僕は、それはダメだと言いました。犠牲になってしまってはいけないのです。今、親が幸せに生きていることが大切なのです。これさえなかったらという発想、どもりさえ治ったらという発想をやめたから、今の僕があるのです。吃音は、認めさえすれば、どもって話していく覚悟ができれば、不自由はほとんどないのです。

 この後は、レストランでの夕食です。食堂ではなく、レストランとなっています。バイキングと聞いて、楽しみにしていました。他の団体、グループもたくさん来ているので、一カ所に集まり、みんなで「いただきます」の挨拶をして、というわけにはいかず、それぞれが食事をとる方式です。僕は、滋賀県の荒神山自然の家の他に、全国各地の自然の家に行きますが、こんなに明るく、広く、きれいな所は初めてでした。地元の野菜もたくさん使われていて、バラエティに富んだ総菜が並んでいます。糖尿病の僕にも、食べられるものがたくさんありました。
ちばキャンプ13 レストラン バイキングちばキャンプ14 レストラン 伸二
 写真は、夕食時に撮るのを忘れたので、翌日の昼食時のものです。

 おなかいっぱいになりました。そして、夜のプログラムは、子ども、親、ことばの教室の教員の全員が一同に集まっての時間です。僕は、ここで初めての試みをしようと思っています。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/03/27 

ちば吃音親子キャンプのシンボルマーク

 ちば吃音親子キャンプ 旗のお披露目、出会いの広場

 千葉市立少年自然の家は、まだ新しいのか、きれいでした。敷地は広く、周りは自然でいっぱいです。千葉駅から小一時間で着きます。全体を歩き回ったわけではありませんが、とてもいい所でした。

 参加者は、まず、集いのルームという部屋で、自然の家の使い方のビデオを、それぞれが見ることになっています。小学生が学校単位で参加するときは、自然の家の人の説明があるそうですが、そうでない単位での参加のときは、この方法らしいです。

 はじめの会は、渡邉さんのあいさつで始まりました。滋賀の吃音親子サマーキャンプに20年参加続けていて、千葉でもしたいなとずっとず思い続けてきたこと、今回やっとそれが実現できる喜びにあふれた話でした。

ちばキャンプ4 開会あいさつ
ちばキャンプ5 開会全体の様子


その後、参加者の全員の紹介がありました。そして、旗の紹介です。
 渡邉さんのことばの教室の担当者の仲間である竹尾さんにイメージを話したら、2、3日で原案ができあがってきたそうです。そして、それを仲間の松永さんがパソコンに取り込んでくれて、そのデータを業者に送ったら、できあがりました! とのことでした。
ちばキャンプ6 旗
 澄み切った青空を思わせる水色の地に、千葉県の県花である黄色の菜の花でハートを形づくっているその旗、すてきなシンボルマークになっています。暖かさ、思いやり、財産、そんな菜の花の花言葉を紹介してくれました。財産は、お金ではなく、友だちや仲間という財産です。キャンプに集う参加者を象徴している旗でした。
 続いての出会いの広場は、盛り上がりました。滋賀の吃音親子サマーキャンプではおなじみの「ちばキャンGO!」に始まり、僕はあまりよく知らないのですが、auのテレビCMの、桃ちゃん・金ちゃん・鬼ちゃん・浦ちゃんのうち誰と友だちになりたいかで集まったり、黙ったままで誕生月で集まったり、誕生日の順にひとつの輪になったりしました。そして、最後のゲームは、「島わたり」でした。グループの人数より1つ減らした「島」を上手に置いて、向こう岸まで行くというものです。グループの協力が不可欠です。手を取り合い、ときに抱き合ったりしながら、向こう岸に着くと、なんとも言えない満足感を味わうことができます。参加者みんなで楽しみました。大人の男性チームの様子がおかしくて、思わずシャッターを切りました。

ちばキャンプ7 島わたり

温かい空間ができあがり、その雰囲気は、次のプログラムにつながっていきました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/3/26

第1回 ちば吃音親子キャンプ スタッフ研修

吃音親子キャンプが大切にしていること

 前日の激しい雨が嘘のように、さわやかに青空が広がった3月17日、第1回ちば吃音親子キャンプが、千葉市立少年自然の家で開催されました。参加者は、41名。これは、院内小学校ことばの教室の渡邉美穂さんの20年来の念願のキャンプでした。
 午前中は、ことばの教室担当者向けの研修です。滋賀県の吃音親子サマーキャンプでの経験をもとに、キャンプで大切にしたいことを伝える場でもあり、日頃、学童期の子どもと接する際に大切にしたいことを共に考える場でもありました。いつものように質問から入ったのですが、滋賀のキャンプに参加したことのある人の発言からスタートしました。
ちばキャンプ1 研修 伊藤・渡邉
ちばキャンプ2 研修中

Q1 滋賀のキャンプでは、「静かにしなさい!」みたいなことを言う人がいないのに、みんな時間を守り、プログラムが始まる。それでいて、とても温かい雰囲気に包まれている。どんなことに心がけているのか。
A1 吃音ショートコースというどもる人向けの2泊3日のワークショップをしていたとき、講師が口をそろえて「温かい雰囲気で、とても話しやすかった。これまでにない雰囲気だった。堅苦しくなく、みんながよく笑ってくれる。この笑いは、応援の意味だ」などの感想を言って下さった。吃音親子サマーキャンプも同じことが起きているようだ。どうしてそうなったのか分からないが、心がけているのは、スタッフも参加している子どもも保護者も、みんな人間として対等であるということです。スタッフも参加者と同じ参加費を払っているので、世話する側と世話される側の区別をできるだけしないように心がけてきました。子どもも一人の人間で、常に対等の同じ立場にいるということ。だから、「○○先生」と言わずに、「○○さん」と呼んでいます。スタッフと参加者の垣根を外したかったからです。吃音親子サマーキャンプも、当初はそうではなかった。普段、子どもたちはしんどい思いをしているのだから、キャンプは楽しい場にしたいという人もいた。僕たちはそれは違うだろうと思った。キャンプは、どもる子どもたちがこれからどう生きていくか、その力をつける場だと思っている。吃音についての話し合いや、後に引けない場に立ち、言い換えのできない演劇に取り組み、その中での喜びや楽しさを味わってほしいと思っている。子どもたちは、弱い、守ってあげなければいけない存在ではない。結果として、参加者は元気になり、子どもたちは楽しかったと言ってくれている。

Q2 話し合いで話さない子、作文の時間に書けない子はいたか。そんなとき、どうしたか。
A2 こちら側に聞きたいという気持ちがあれば、話すのではないだろうか。作文は書けない自分と向き合うということもいいのではと思っているけれど、スタッフがそばに行って、話を聞くなどして、大体、短くても書いていると思う。特に、話し合いの場では、グループの力が大きく働いている。ほかの人がしゃべっていたら、自分もしゃべってみたいと思うだろう。ただ、どうしてもしゃべらなければならないとは思っていない。聞いているだけでも意味がある。エンカウンターグループでも、そのような経験をした。高い参加費を払い、4泊5日の合宿に来て、一言も話さずに帰る人もいる。それはそれで意味がある。

Q3 ことばの教室で、子どもたちと演劇のような手法でお話づくりをしている。滋賀のキャンプの演劇はどのようなものなのか。
A3 僕たちは、竹内敏晴さんという演出家が、サマーキャンプ用に書いてくれたシナリオを使い、合宿で演出指導を受け、サマーキャンプで子どもたちと演劇をつくりあげている。プロの演出家がいたから、できたことだと思う。言いにくいことばを言っていくことも大事だし、苦手なことに挑戦することも必要だ。ひとりでできないことでも仲間がいればできる事は少なくない。大切にしているのは、誰に向かって言っているのか、それをどう受け取り、どう返すのかということで、演劇という手法を使って、相手に届くことばの獲得を目指している。2泊3日という時間があるからできることで、僕が行っている他のキャンプではしていない。

Q4 グループ学習を定期的にしているので、同じようにどもる子どもたちとは出会っているが、キャンプは宿泊を伴う。この宿泊を伴うことの意味はあるか。
A4 子どもたちにとって、夜、友だちと一緒に過ごすことには大きな意味がある。サマーキャンプは、1日目に話し合いをし、夜をまたいで、翌日、作文を書き、話し合いをするというプログラムになっているが、夜、熟成するのではないか。不登校になっていた女の子が話し合いで自分のことを語り、夜、部屋でまた話し、寝て、翌日、「どもってもいい」というタイトルの作文を書いたことがある。宿泊を伴うというのは大きな意味があると思う。人間が変わるときの要素についての大規模な調査があった。指導者のスキル、指導者との関係性、クライエントが持つ期待度が、それぞれ15%、30%、15%で、残りの40%は何か分からないけど変わったというものだった。何か分からない要素が働いて人は変わる。夜、変わるのかもしれない。夜、一緒に泊まる中で変わっていく部分は大きいと、僕は考えています。

Q5 「あなたはあなたのままでいい」という事を子どもに教え込んでいたと反省している。すると、子どもは、私の前では、このままでいいと言いながら、実は「薬を飲んでどもりを治したい」というのが本音だったようだ。他の人と違うことを恥ずかしいと思っていた。今までのように、「あなたのままでいい」と言っていいのか。
A5 「どもっているあなたのままでいい」は、他人が言ったり、教えるものではない。そういうことを言う人の前では何も言えなくなる。僕たちは、「あなたはあなたのままでいい、あなたは一人ではない、あなたには力がある」という3つのメッセージを大切にしているが、ことばで直接伝えたことはない。どもりは変化するもので、僕のどもり方も変化している。僕たちが、どもりながら、平気で生きている姿を見て、自分自身が「私は私のままでいい」と思うことだ。周りが言うことでもないし、まして周りが「どもっていい」と許可を与えるものではない。自分が自分に言うことが大事。では、子どもが、どもりを治したいと言ってきたら、どうするか。
 どもりを治したい気持ちは分かるけれど、原因も治療法もないのだから、「仕方ないなあ」とは言います。私には、どもりを治す力もないし、私以外の誰にも治すことはできない。そのまま、どもりながらしゃべっていくしかない。この世の中には、治せないもの、分からないものは山ほどあるのだから。

Q6 保護者から「どうしても治して下さい」と言われて困ってしまった。「原因も治療法も分からないから、一緒に考えていこう」と答えたら、納得してくれた。これでよかったか。

A6 治せるものなら、同行する必要はない。どうなっていくか分からない、その不安に耐えていく、それがネガティヴ・ケイパビリティだ。不確実性への耐性ともいう。治してほしいというのは、当然の欲求だろう。でも、世の中には治せないものもある、どうつきあっていくか一緒に考えていこうと伝える。同行してくれる人がいたら、耐えられる。治せないものだからつきあう。治らない、治せないからこそ、一所懸命考え、取り組むことになる。そこに意味がある。僕がここまで吃音と共に生きてこられたのは、治らない、治せないものだからだ。

Q7 担当している子どもに、構音と吃音の両方があったので、まず構音に専念してきたら、保護者から、タイミングをはかって、なんとか話せるようにしてほしいと言われた。本人は、言いにくいカ行のとき、一拍おいてしゃべるなど工夫をしている。でも、そのタイミングが合わなくなったら、落ち込むだろう。そのとき、どうしたらいいか。
A7 子どもは自分の力で、自然に考え、その子だけの方法を編み出している。他人である教師が教えることではない。ことばの言い換えをしてはいけないという人がいるが、なぜ悪いのかと思う。どもらないための言い換えと考えず、声を出すための言い換えだと考えている。言い換えができないときは、それを受け入れるけれど、ぎりぎりまで悪あがきはしていいと思う。どもる人で、言い換えたり、間をとったりしていない人はいないだろう。いろいろやってだめなときはどもる覚悟をするということだ。もし、工夫してもうまくいかなかったらと心配しているが、子どもは、そんなにヤワではない、弱い存在ではない。
 どもる子ども、どもる人たちは、自分で自分の問題をなんとかしてきた。ことばの教室の担当者やSTは、専門家としての仕事をしたらいい。これからは、幸せに生きていくために何が必要かを考えたい。マイナスのものをなんとかしようというのではなく、ポジティヴ心理学が大切だ。

ちばキャンプ3 研修 伸二アップ

 予定の時間ぎりぎりまで研修は続きました。このときの話し合いがベースになって、キャンプが始まります。
 昼食をとっていると、参加者がぼちぼち集まり出しました。午後1時、渡邉さんの挨拶で、ちばキャンプが始まりました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/3/24

吃音親子キャンプ 千葉で始まる

 第1回ちば吃音親子キャンプに行ってきました。

 吃音親子サマーキャンプに約20年連続して参加している、千葉市立院内小学校の渡邉美穂さんは、千葉でもキャンプをしたいとずっと言っていました。でも、千葉から滋賀の吃音親子サマーキャンプにたくさん参加してくれていたので、滋賀に来てもらえればいいのではないかと、なかなか実現しませんでした。

 一昨年11月、沖縄で吃音親子キャンプが開かれ、日程の関係で、昨年5月に2回目が開催され、今年3回目が開かれます。その第1回目に千葉から渡邉さんも参加し、渡邉さんの中では、千葉でもキャンプをしようとの思いが高まったようです。僕も今年、74歳になりますので、今後どれくらい吃音親子キャンプを続けられるか分かりません。長く思い続けてきた千葉でのキャンプを実行に移そうとの話になりました。
 計画の話をしていた時は来年度、つまり2018年4月以降にということになっていたのですが、気の早い渡邉さんは待ちきれなかったのか、3月にしようということになりました。教師にとって、学年末の一番忙しい時期、準備が大変だったろうと思いますが、やろうという教師仲間が力を合わせて実現しました。

 渡邉さんが一番に考えたのは、主催団体の名前でした。名前は、横浜や沖縄に習い、「スタタリング・ナウ ちば」としました。そして、次に、旗を作りたいと思ったそうです。シンボルマークとなるようなものをという思いが仲間に伝わり、すてきな旗があっという間にできあがりました。
 その旗は、キャンプのはじめの会で、紹介されました。千葉県の花である菜の花、春、鮮やかな黄色の花をつける菜の花、一面の菜の花は、ひとつひとつは小さな花ですが、集まると圧巻な風景となります。水色の地に、黄色の菜の花がハートの形になっているこの旗は、花言葉とともに、すてきなシンボルマークとなりました。花言葉は、温かさ、財産とのことですが、ここに集う仲間が財産ということになるでしょう。まさに、キャンプに集まったみんなを象徴しています。

 オープンダイアローグ的な話し合いのスタイルを取り入れるなど、冒険もありましたが、とてもおもしろい体験をしました。会場のレクレーションルームに、二重の円を作ります。内側の小さな円に、僕と6人ほどがまず入ります。ここは話す人が座ります。そして、ここに座る人は、固定せず、教師も親も出入り自由です。外側には、内側の話を聞く人たちが大きな円を作って座ります。小さな円の人たちが、まず話し合い、途中で話に加わりたくなれば、そこに自由に加わり、また聞く側に戻るのも自由というスタイルです。話し合う内側のサークルには、高学年の子どもに優先権を与え、6人に満たなければ親も教師も入っていいとの前提で始めました。5年生・4年生の子どもが、さっと入ってきて、まず子どもと僕との対話が始まりました。なんと、気がついたら、休憩なしの2時間、子どもと僕が対話をしていました。ぼちぼち報告をしていこうと思います。

 最後のふりかえりでは、全員が円くなって、今の自分の思いを語りました。これまでとは全く違う価値観に出会い、今後の展望を開くことができたと、ことばの教室の教師も、保護者も話していました。子どもたちも、仲間ができたこと、吃音についてしっかり話し合うことができてよかったと話してくれました。

 教師として、一番忙しいこの時期に開いたキャンプでしたが、スタッフは無理をしてでも開いてよかったと言っていました。力を合わせてキャンプを企画し、運営して下さったスタッフの教師の皆さんに感謝します。そして、吃音親子サマーキャンプの常連で、千葉の吃音の関する集まりに関わって下さり、親のネットワークを作り、初参加の親に細やかな心配りをして下さっている、二人のどもる子どもの保護者である水谷さんに感謝します。
 2回目は、半年後の9月16・17日、会場も予約して、開かれることが決まりました。気持ちの高まり、それがもつ勢いの力を思いました。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二2018/03/19

松元ヒロさんを見つけた

 
 笑いが明日を変える 松元ヒロさん
  
 僕の家では、生まれたときから、新聞は、朝日新聞で、それから、70年、今でも、とっている新聞は朝日新聞です。大学受験の2浪の大阪での生活も朝日新聞店で住み込みでしたし、どもりを治すために東京正生学院に行くために、東京での大学生活を自分で賄うために新聞配達店に住み込みましたが、それも朝日新聞配達店でした。ジャーナリズムは劣化し、新聞を辞めようとさえ思いましたが、腐れ縁か、とり続けています。
 
 そして今、日曜日と月曜日は、毎日新聞を買っています。日曜日は、藤原帰一さんの映画評論「映画愛」と、月曜日は高橋源一郎さんの人生相談が好きだからです。その二つの記事のためにだけ買います。また、東京へ行ったときは東京新聞を買っています。
 今日は、月曜日。枚方税務署に確定申告を提出しに行ったときに、毎日新聞を買いました。高橋さんの人生相談には、思わず納得。同じように相談を受けたら、僕も同じように答えるだろうなという内容です。これまでにも、そんなことがたくさんありました。感覚、センスが似ているのでしょうか。この人生相談に限らず、高橋さんが書かれた本などでも、同じような感覚を覚えます。
 そして、今日の新聞で、飛び込んできたのは、大写しの松元ヒロさん。コメディアンと書かれていました。

松元ヒロ 毎日新聞1_0001

松元ヒロ 毎日新聞1_0002

 ヒロさんは、2005年の吃音ショートコースに来ていただきました。そのときの吃音ショートコースのテーマは、笑いとユーモアでした。ずっと前から取り上げたかったテーマだったのですが、なかなかいい講師がみつからなくて、温めていたテーマでした。定期購読している「週刊金曜日」に書かれていたエッセイにひかれ、笑いやユーモアをテーマとするショートコースの講師にはこの人しかいないと思いました。一度、実際に本物を見てみたいと、名古屋で開かれたライブに参加しました。腹の底から笑いました。政治ネタ、権力に抗う柔らかさ、しなやかで倒れない不屈の精神、涙が出るくらい笑いました。そして、ライブが終わってから、講師依頼をしました。ライブなら、日程さえ合えば二つ返事でOKだったと思うのですが、僕が依頼したのは、2泊3日の長時間にわたるワークショップです。少し迷われたようですが、OKをもらいました。そして、吃音ショートコースが実現したのです。

 そのときからのおつきあいです。近くでライブがあると聞けば、必ずといっていいほど行っています。そんな松元ヒロさんの掲載されている新聞記事をたまたま買い、また縁を思いました。
 来週、新宿・紀伊國屋ホールで、「松元ヒロ ひとり立ち」のライブがあります。
 来週は、3月17・18日、千葉でどもる子どもたちのキャンプがあります。もう一泊して、松元ヒロさんのライブに行く予定で、チケットも手に入れました。
 こんな偶然に出会うと、元気が出ます。
 
 日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/3/12

第9回 吃音群馬キャンプ

 
 昨年の活動で報告できていないものの紹介です。
 昨秋のキャンプロードの最終は、11月25・26日の群馬でした。群馬のキャンプは、今回、第9回目です。中心になって下さっている佐藤雅次さんは、始めた頃は、ことばの教室の担当者だったのですが、現在はLD・ADHD等通級指導教室の担当者に代わっていますが、ずっと事務局をして下さっています。
 佐藤さんとの出会いは、2001年、国立特別支援教育総合研究所の長期研修員として一年間研修されていた時、僕の講義を受けられたときからです。吃音の基礎や当事者の話を聞くことができたのが、吃音について学ぶきっかけになったのではないかと、佐藤さんは振り返っておられます。
 その後、2009年に、全国公立学校難聴・言語障害教育研究協議会全国大会山口大会で、『吃音のある子どもとその保護者を支えるために』〜自分を見つめる目と、保護者の目差し、そして支える担当者の目〜というタイトルで、ことばの教室でそれまでに出会った吃音の子ども達の様子を、佐藤さんが発表されました。そのとき、吃音の分科会のコーディネーターをしていたのが僕で、その全国大会の場で、群馬でキャンプをしたいから、僕に群馬に来てもらえないかと話がありました。「喜んで伺います」と返事をして、その年の秋から、『吃音キャンプ IN GUNMA』が始まりました。それから、毎年、僕は、群馬のキャンプに講師として呼ばれて行っているのです。
群馬6 集合写真 新
 今回は、僕の都合で、11月の末という日程になってしまいました。赤城の山は真っ白の雪景色かもしれないと、佐藤さんからメールをいただいていたので、寒がりの僕はかなり覚悟をして行ったのですが、予想が外れて、この頃にしてはかなりの暖かさでした。寒くなくてほっとしましたが、ちょっと残念な気持ちもありました。

 秋のキャンプロードのスタートは、静岡のキャンプで、9月末でした。約2か月経つと、話の内容はかなり違ってきます。資料も増えました。この間、いろいろと学んだことがあり、それらをぜひ伝えたいと思ったからです。
 そのひとつが、ムーミンの話でした。僕自身は、ムーミンの話はよく知らなかったのですが、ムーミンファンは多いらしく、参加者に「ムーミン、知ってる人?」と聞くと、よく手が挙がります。大好きだという人もいるようです。講演のトップにムーミンの話を持ってくることで、親しみやすくなり、興味を持って話を聞いてくれる人が少なくありませんでした。

 群馬のキャンプでは、ことばの教室担当者や言語聴覚士の人と話す時間、保護者との時間、どもる子どもたちと話す時間と、参加者全員とどこかの時間帯には共に過ごすことができるよう、プログラムが組まれています。これは、僕にとっては、大変ありがたいことです。どの時間帯でも、よくしゃべっていますが、話を聞いていただけることはうれしいことで、疲れることはありません。
群馬4 会場全体
群馬1 講演
群馬2 伸二講演

 また、ここ4、5年は、国立特別支援教育総合研究所の牧野泰美さんも、群馬のキャンプに加わって下さっています。僕と牧野さんが対談をしたり、子どもと僕が話し合いをしているときに、牧野さんが保護者との話し合いをしたりと、バラエティに富んだプログラムになっています。
 今年は、牧野さんは、ミニ講演会を担当しました。
群馬3 牧野さん
群馬5 ふたりの演題

 キャンプの最後に、参加者がキャンプの感想を書く時間があります。事務局の星野朋子さんが、その感想をコピーして、帰る時間には渡して下さいます。帰りの新幹線の中で、それらを読み、群馬のキャンプの余韻に浸りながら、僕は大阪への帰途につきます。心地よい疲れの中で、ゆったりと群馬のキャンプを思い出す、すてきな時間になっています。
群馬のキャンプは、その感想を紹介して、報告とします。

◇どもる子ども
・普段、どもる人と日常生活で会う機会はあまりないので、多くのどもる人と関われたことはとてもいい経験になりました。伊藤さんの昔の話を聞くことができてよかったです。
・伊藤さんの子どものころのことやつらかったことを聞いて、質問できたことがよかったです。
・伊藤さんの大学時代のアルバイトの選び方の話を聞けてよかったです。

◇どもる子どもの保護者
・ダメな部分を治そうとするのではなく、良い部分を伸ばそうということ、幼児期に非認知能力を育てることが大事だということが、とても勉強になりました。今後、周りから吃音のことをからかわれ、いじめられ、ひきこもってしまわないか心配ですが、今回の講演を聞いて、子どもと対等に向き合いながら、楽しく乗り越えていけそうな気がしてきました。吃音を前向きに考えられる、そんな1泊2日でした。
・自分の子どもがよりかわいいと思えました。思春期が怖くなく、楽しみになりました。同行するということ、本人に意思決定をさせること、勝手に親が決めないことを、大事にしたいと思います。
・吃音の講演は初めて聞くので、最初は難しい話かなと少し不安でしたが、最初から、大好きなムーミンの話が出てきて、とても興味深く、楽しく聞くことができました。私は、このキャンプに参加す前は、どう治すか、何をしたら治るのか、ばかり考えていましたが、吃音があっても完治しなくても、ありのままの娘を受け入れればよいのだと、はっとさせられました。「治らない」ということばは、正直ショックでしたが、私が強くなり、娘が大変なときは、時には助け、支えられる母になりたいと思いました。
・対等な親子関係でありたいと思いつつも、どうしても子どもを支配してしまいがちなので、今後も気をつけていきたいと思いました。どもりとつきあいながら幸せな人生を送ることができるよう、親が理解者となり、支えていきたいと思います。

◇言語聴覚士やことばの教室の担当者
・小児のリハビリをしていますが、「最近どう?」とネガティヴな話が多くなり、今回の講演でポジティヴ心理学を聞き、とても勉強になりました。
・ことばの教室を担当して4年目で、伊藤さんの話を聞くのは3回目です。2回目までは、吃音を特別なものとしてとらえることしかできていませんでした。だから、ことばの教室でも、身構えて子どもと向き合っていました。今日の話は、すとんと自分の中に入りました。対話、対等な対話、対等なんだ。一緒に考えていくということが全く理解できていなかったのですが、今回は、そうだなと思えました。月曜日から、子どもたちに会うのが楽しみになりました。
・あっという間の2時間半、とても有意義な時間を過ごさせてもらいました。今回、レジリエンスやポジティヴ心理学、オープンダイアローグなど、吃音という枠にかからわず、「生き方」として考え方、とらえ方、支え方を教えていただけ、教室の子どもたちとのかかわりだけでなく、自分の人生や家族とのかかわりまで、考えさせられる内容で、もっともっと聞きたいと思いました。
・どもる子どもと2年間関わっています。自分は、対等に向き合って対話をしてきただろうかと、深く反省させられました。子どもと保護者と3人4脚、一緒に考えていきたいと思いました。お話が心に染みました。
・ムーミンの3つの間、空間、時間、仲間は、とてもよいお話でした。言語教室の教員をしていますが、この3つの間を大切にしながら、対話をしていきたいと思いました。
・ことばの教室でやった方がよいこと、やってはいけないことを明確に教えていただき、とてもよかったです。哲学的対話を心がけ、レジリエンスを育てられるよう努力していきたいと思いました。自分自身も前向きな気持ちになれました。
・吃音症状の波とその人の悩む波は一致しないという話は、目から鱗が落ちる感覚がありました。また、吃音をもつ子は、学校生活で悩んでいるに違いないという先入観がある自分にも気づきました。
・初めて伊藤さんの話を聞きましたが、まるで一冊の本を読んだ後のようにとても興味深かったですす。レジリエンス、ポジティヴ心理学など断片的に知っていたことが、伊藤さんというフィルターを通すと、こうつながるのかと目から鱗でした。子どもたちと、考える力が伸びていくように対等な対話をしていきたいと思いました。
・なじみのあるムーミンの話から始まり、とてもわかりやすく納得できるお話でした。
「困ったことはない?」という質問をよくしていたことを反省しました。

群馬7 ホテルの芝生

 今年、群馬のキャンプは、第10回目になります。日程は、11月3・4日です。また、群馬のキャンプの歴史が刻まれていく場に立ち会えること、楽しみにしています。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/3/8

吃音体験を笑い飛ばす、どもりカルタ

 2018年1月12日 大阪吃音教室 どもりカルタを作ろう


 新年1回目の大阪吃音教室の講座は、今年で12回目となる「どもりカルタを作ろう」。12回目になるにもかかわらず、ネタが尽きることはなく、今年も、新作が出そろいました。毎年毎年違うネタが出てくることには驚きますが、それだけどもりのエピソードが多くあるということなのでしょう。大いに笑い、共感し、新しい発見があったどもりカルタを紹介します。

 参加者は、取材に来て下さった朝日新聞社の記者や初参加の人を含めて、25人。5人ずつ5グループができました。グループごとに、読み札を作り、絵札を描き、読み札をみんなで味わい、最後にグループ対抗でカルタとりをしました。

どもりカルタ 読み札

・あ 歩きながらの 電話は楽だ 固定電話は怖かった
・い 言いかえマスター ここにあり
・う 海の下 本音がたくさん 隠れてる
・え 「エーっと」つけずに しゃべりたい
・お 「お先に」を 言えずに今日も 残業だ
・か 神頼み 毎年拝む 「どもりよ 治れ」
・き 君の声 聞きたいけれど どどどばかり
・く 口ごもり 手足もバタバタ やっと出る
・け けふも また 声にならない 音(おん)が出る
・こ こう言えば 乗り切れるかな この言葉
・さ さんまとタモリ それからどもり みんな違って みんないい
・し 心配は どもることより 二次障害
・す すしやでは 言えないネタが 多すぎる
・せ せかされて 言った答えは わかりません
・そ その言葉 言いたいことより 言えること
・た ただいまと 言えず代わりに 足音立てる
・ち ちょっと待ってね 一呼吸おいたら しゃべれるかも
・つ 通じるかな 不安こらえて 口開く
・て 手をあげて 指されないこと 祈りつつ
・と とりあえず 「えっと」をつけて 切り抜ける
・な 泣きながら 言った言葉は どもらない
・に 日曜日 ぼくのどもりも 休んでよ
・ぬ 抜かされて 何度泣いたか 音読で
・ね 寝言でも どもっているのは プロポーズ
・の ノックして 出て来たとたんに どもり出す
・は 犯人を 知っていても 名前出ず!
・ひ 人に頼れば なんとかなるさ
・ふ 不思議だなあ あなたといると どもらない
・へ へっちゃらさ 意味がわかれば どもっても
・ほ ほら 大丈夫 どもろうよ
・ま 間をあけぬ 俺のしゃべりは マシンガン
・み 店えらび 決め手はいつも 食券制
・む 昔には どもれなかった 人前で
・め メールが 私の 口がわり
・も もう少し 自分の番まで カウントダウン
・や 役に立つ どもりで無口になったけど おかげで今は 聞き上手
・ゆ 友人に どもり打ち明け 親友に
・よ 「よっ」と反動つけて 声を吐き出す いつものあいさつ
・ら らっしゃっせー、りがとうござーす、つかれぇしたー
・り リラックス してる時ほど よくどもる
・る ルールルル リズムに乗って どもってOK!
・れ 連絡も メール使えば なんくるないさ
・ろ 老化をすれど どもりは進歩
・わ 笑いと歌は どもらない

 ホワイトボードに書いた44文字の読み札を読み上げていくたびに、うなずきや笑いや「なんや、それ」というつっこみが入ります。一番沸いたのは、「らっしゃーせー りがとうござーす つかれぇしたー」の読み札でした。あいさつには母音から始まることばが多いと、母音が苦手な人からよく相談を受けます。アナウンサーが話すように、一音一音すべてはっきりと発音する必要はない、最初の一音を抜かしても十分伝わると答えることがあるのですが、まさに、それを読み札に読み込んだ1枚です。今の流行?のコンビニ用語にも似ています。文字で見たら、何ということはないのですが、どうぞ、声に出して読み上げてみて下さい。この札のおもしろさが分かるでしょう。でも、どもらない人には、分からないかもしれませんね。

 気に入った、好きな、心に残った読み札の投票の結果は、次のとおりです。
1位  14票 らっしゃっせー りがとうござーす つかれぇしたー
2位  13票 日曜日 ぼくのどもりも 休んでよ

 初参加の方も朝日新聞の記者も、想像していた吃音教室と全然違うので、驚かれたようです。笑われた、からかわれた、真似をされた、そんな嫌な思い出をもつ人は少なくないのかもしれませんが、そうではない笑いがここにはあります。経験したことをユーモアで包んで再記述したとき、新しい経験として生まれ出てくる、そんな思いが改めてしました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/3/4

どもる子どもの質問に答える−千葉市立院内小学校で−

  2017.12.1 千葉市立院内小学校ことばの教室で


 これまで20回近く、横浜で行っていた吃音相談会が終わり、その代わりに、千葉で相談会を行うことになりました。その第1回目が、昨年の12月2日でした。前日の12月1日に千葉に入り、その日の午後、院内小学校のことばの教室のグループ学習におじゃましました。

千葉 院内 伸二と子ども

 自己紹介をした後、事前に考えていてくれた、子どもたちからの質問に答える時間になりました。

1.どもりの種類は、連発、難発、伸発とあるけれど、他にもあるのですか。

 ことばの教室で、どもりについて学習している子どもならではの質問だといえます。でも、答える前に、なぜ、こんな質問をしたのか、本人に尋ねてみました。すると、自分のどもり方が、この3つの分類のどれにもあてはまらないからだと言います。その子のどもり方は、たとえば、「あの…ね、ぼくは」となって、語頭ではなく、語の真ん中、途中でどもるらしいのです。だから、ずっと、自分のどもり方は、何だろうと疑問に思っていたようです。背景が分かったので、僕は、次のように答えました。
 
伊藤 これは、中阻性吃音と言います。多くは、語頭で繰り返したり、第一音が出なかったりしますが、語の途中でどもることもあります。
 自分のどもり方に、ちゃんと名前がついていることを知った子は、安心したようです。担当の先生方も、「そんな種類があるのですね」と驚かれていました。

2. どうして、そういうしゃべり方なの? どうしてそうなったの?と聞かれたとき、どう返したらいいですか。どう答えたらいいですか。

伊藤 この質問に正確に答えられる人は誰一人いないでしょう。答えられたら、ノーベルどもり賞がもらえるかもしれません。「分からない」が、今のところ、正しい答えでしょう。ずっと研究している研究者であっても、どうしてどもるのか、こんなしゃべり方になるのか、原因も、どうしてこんな話し方なのかも答えられる人はいないのです。君に、そう聞いてくる子はどんな子ですか。もし、君に興味をもって聞いてくれるのだったら、ことばの教室で学習したどもりについての話をして説明すればいいですね。そのために、何を、どのように話すのか、準備しておくといいですね。
 これは、保護者からもよく受ける質問です。答えは、同じです。どうしてどもるのかは分かりません。でも、聞かれたとき、あわてないで済むよう、準備しておくといいでしょう。

3. クラスの子に、どもることを伝えたいと思うけれど、どうやって話せばいいですか。

伊藤 どもる子どもが、こういうことを考えているということ自体、不思議であり、すごいなあと思います。大人でも、自分のどもりを隠してごまかして知られないようにしている人がいます。それに比べて、この子どもたちの潔さは、清々しく感じられます。みなさんが作ったパンフレットやキャラクターなど、ことばの教室で学習したことを見せながら、伝えたらいいですね。
 大事なことは、どんなに一生懸命伝えても、分かってくれる人もいればそうでない人もいるということです。それは仕方がないことです。でも、分かってくれる人は絶対にいるので、分かってくれない人がいてもあきらめずに、伝えていきましょう。その時、かっこいい、説明の仕方をことばの教室の先生と相談しながら、考えて下さい。

4. 僕は、どもることを悪いことだとは思っていません。伊藤さんは、どう思っていますか。

伊藤 僕はどもりに悩んでいるときは、どもることを悪いことだと思っていました。今は、すばらしいとは思っていないけれど、悪いことではないと思っています。そう思わないと、しゃべれなくなるし、講演など引き受けられないです。自分がどもることは悪いと思っていたら、周りの人も悪いことだと思ってしまいます。わくわくしたり、どきどきしたり、気持ちが表れているときにどもることがありますが、それは悪いことではありません。

5. どもったときに恥ずかしいと思ったことはありますか。

伊藤 21歳までは、どもった時は、いつも恥ずかしかったです。大好きだった卓球部も、高校の時、自己紹介があるからと辞めてしまいました。21歳までは、恥ずかしい、悪いものだと思っていたので、逃げてばかりで、損な生き方をしていたなあと思います。21歳からは、恥ずかしいとか、悪いとか思うことはやめようと決めました。

6. 小・中・高と、どもることを分かってくれた友だちはいましたか。

伊藤 僕は、小学校2年生のときから、どもりに悩み始めて、それから友だちがひとりもいませんでした。どもっている僕のことなど誰も分かってくれないと思い込んで、友だちの輪の中に入るということをしなかったからです。もし、僕が自分から入っていっていたら、分かってくれる子はいたかもしれません。勝手に、「どうせ僕はどもるから、どうせ僕なんか」と思っていました。中学時代の同窓会に行ったとき、「みんなは僕のことなど覚えていないと思うけど…」と挨拶したら、後で、「私は、伊藤さんのことを好きだったのよ」と言ってくれた女の人がいました。話しかけにくかったらしいです。友だちがほしいなら、ほしいという雰囲気を出したり、話しかけていたら、友だちはできたかもしれません。理解してくれる人はいたかもしれません。あなたは、あなたのことを理解してくれる友だちがいっぱいいるんだね。うらやましいなと思います。

7. どもりの歴史について教えて下さい。どもる人は、いつ頃からいたのですか。

伊藤 こんな質問を子どもから受けるのも、珍しいことです。子どもたちは、いろんなことを考えているのだなあと改めて思いました。
 どもりの歴史は、かなり長いです。紀元前300年、ギリシャ時代にからだが弱く、ひどくどもっていたデモステネスが政治家になって大雄弁家になったと書かれています。ことばでお互いの意思を交流することを始めたころから、どもる人はいたことになります。
 その長い歴史の中で、どもる人は、ときに悩み、苦しみながら、立派にどもりと共に生きてきました。歌舞伎にも、どもる人の話が出てきます。

 それを聞いて、どう思うかと、本人に尋ねると、「どもりって古くから英雄とかも悩ませてきたすごいものなんだと思った」と言いました。なんか誇らしげに言っている姿が、おかしかったです。

 子どもたちからの質問の後、僕は、保護者と話し合いました。
 そして、また、参加者一同が集まって、振り返りの時間を持ちました。

 千葉での1日目、院内小学校での子どもたちとの時間は、新鮮で、楽しい時間でした。僕の小学校時代とは大きな違いがあります。こんなふうに、どもりについて考え、質問し、交流できていたら、もっと勉強し、友だちもつくり、スポーツもして、楽しい小学時代を送れていたと思います。僕の小学校時代は、全く別物になっていたでしょう。なんともいえず、残念です。「どもりが治らなくても大丈夫、楽しく生きられるよ」と、教えてくれる人がいたらなあと思います。この、ことばの教室に通う子どもたちをとてもうらやましく感じました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/3/2
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