伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

2015年12月

この一年、ありがとうございました。


 大きく変わる吃音の世界、しかし、僕は変わりません

 2015年最後のブログです。一年おつき合い下さった皆様に感謝致します。
 吃音はここ2年ほどで、大きな変化がありました。その変化について行けない気持ちがあります。しかし、現実は常に受け止めるしかありません。私の開設する吃音ホットラインに、これまではまったくなかった質の相談が寄せられたのも、今年の特徴でした。

 「内定がなかなかとれないので、障害者手帳をもらいたいと思っています。どうしたらとれるでしょうか」

 就職活動に苦戦しているという女子学生から相談がありました。このような電話は初めてです。私はそのことについては、まったく知識がありません。そこで、「僕は、就職活動に苦戦している人の相談に随分のってきました。一緒にどう取り組めばいいかは考えることができます。幸い、あなたは大阪に済んでいるので、大阪吃音教室に参加しませんか。どう苦戦をのりきったか、先輩がたくさんいますし、今も就職活動を試行錯誤している人がいます。一緒に考えましょう」と提案しましたら、「結構です」と電話が切れました。障害者手帳をとることで頭がいっぱいになっていて、その情報がない僕には用がないということでしょう。


 「吃音のある35歳の障害者手帳をもっている青年が、障害年金の申請をしてきました。これまで前例がないので、どう対応すればいいか困っています。対応した範囲では、吃音が、年金をもらわなければならないような生活の障害になっているとは思えなかったのですが、吃音とはどのようなものなのでしょうか」

 ある自治体の年金課の職員からの電話でした。これも初めての経験です。
 1965年から吃音に向き合い、50年活動を続けてきましたが、苦しくても、日常生活の苦労があっても、吃音はどもる事実を認めて、人としてすべき努力をすれば、ほとんどの仕事に就けると、数千人以上のどもる人と直接会って、実感として持っています。このブログでも紹介しましたが、「そんなにどもっていて、市民の命が守れるのか、消防学校の時代に吃音を治せ」と言われた、兵頭さんが、苦しみながらも消防学校を終えて、今、立派に消防士として働き、恋人もできて充実した人生を送っています。

 僕が出会ってきたたくさんの人たちと、障害者手帳を取得したいと願う人、障害者年金を申請する人とは、どう違うのでしょうか。少なくとも、いわゆる吃音の症状の重い、軽いとは関係ないようです。僕が直接出会った数千人のどもる人やどもる子どもの中で、このようにどもっていたら、日常生活で苦労するだろうなあと思った人は5人程度です。その内の一人の佐々木和子さんは、学校の教員になって、今年の3月に退職しました。面接も大変で、「こんなにどもっていて、教師になれるのか」と心配した教育委員会が、大学と、実習先の小学校に問い合わせてきたほどでした。最初の5年ほどは大変だったそうです。それでもがんばって、立派に教師生活を全うしました。

 障害者と認め、公的支援を受けて生きるのも、その人がよければ一つの選択肢です。ひとつの選択肢が増えたことは、喜ばしいことかもしれませんが、どう選択するか、どもる人の主体性がこれまで以上に問われることになるだろうと思います。

 このように、僕の50年の活動の中で、考えもしなかった状況が訪れた今、僕たちの考えていることを、再度丁寧に説明し、活動していかなくてはなりません。

 僕は、このような選択肢が増えたことで、これまで以上に「どう生きるか」を考えなければならなくなったと思います。なので、来年は、「吃音哲学」を提案したいと思っています。

 今年も、更新すると言いながら、なかなかブログの更新ができませんでした。相変わらず忙しい日々が続いていたからですが、来年は、吃音の世界が変わってきた以上、忙しいとは言っていられません。できるだけ、ブログの更新に努めたいと思います。今年、あまり更新できなかったことへの反省の思いから、来る年は、なんとかがんばります。

 どうか、2016年もよろしくお願いします。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2015/12/31

大阪吃音教室の忘年会 報告と決意を語る場

大阪吃音教室の忘年会  報告と決意を語る場

 今年も残すところ、10日。時の経つのがあまりに早く、驚くばかりです。
 ブログの更新がコンスタントにできず、今年も反省で終わりそうです。

 大阪吃音教室の今年の最後の集まりは、12月19日(土)の夜、6時から始まった忘年会でした。その忘年会のことをまずお知らせして、できる範囲でさかのぼり、今年の秋から冬をふり返ることができればいいなと思っています。

 忘年会の会場は、今回で7回目となる忍ヶ丘にあるカフェ・グッデイズです。大阪市内から30分ほど電車に乗らなければいけないのですが、大阪吃音教室の忘年会にはぴったりの会場なのです。なぜなら、この忘年会が終わったのが、今年も10時を過ぎていたからです。4時間を超える忘年会なんてそうざらにはありません。そして、その4時間があっという間に過ぎていくなんて、ほんとに不思議な空間です。こんなわがままを許して下さるカフェ・グッデイズのスタッフの方には心から感謝しています。

忘年会 ツリー

 今年の参加者は、総勢27名。くじを引いて席を決めて、みんなが座ったところで、午後6時、2015年の忘年会のはじまりです。
 今年のオープニングは、素敵なギター演奏から始まりました。井上さんが、得意のギターを持ってきてくれ、「大阪吃音教室定番のボイストレーニングです。スピーチの前に、声出しをしましょう」こんなことばからスタートしました。歌詞カードも用意してくれて、みんなで歌いました。
 ♪真っ赤な秋、♪津軽海峡冬景色、そしてクリスマスらしく、♪赤鼻のトナカイ の3曲を歌って、いい雰囲気の中、スピーチが始まりました。順番は、席決めのくじ引きの順です。1年を振り返り、自分のことばで自分を語る、いわゆるナラティヴ忘年会です。

 この1年をふりかえってみんなが語ります。どもる人はほんとにおしゃべりで、ひとりひとりが結構長く話をします。8時を過ぎても、まだ1/3も話していません。
 大阪吃音教室の講座のこと、吃音親子サマーキャンプや吃音ショートコースでのできごと、自分の仕事のこと、日常生活の何気ない一コマ、感じたことや考えたこと、統一性はないのに、いや、ないからこそ、参加した人たちの織りなす人生の色が混ざり合って、味わい深い時間になります。

忘年会 全体

 前日の金曜日の吃音教室に初めて参加した青年も、この忘年会に参加しました。休職している彼は、ひとりひとりがどもりながら自分のことを語る姿をどんな思いで見ていたのでしょう。先に入っていた忘年会をキャンセルして参加した彼は、休職明けの日、職場の人たちに自分のことを話そうと思っていると言いました。そのことばにみんなは大きな拍手を送りました。
 転職しようと思っていると話した人もいました。最初に参加したときは、どもるのが嫌さに新聞配達をしていたその人は、大阪吃音教室との出会いの中で刺激を受け、介護の仕事をしたいと思っていると話し、翌年は介護の仕事に就いたと報告しました。そして、今回は、ケアマネージャーの資格をとったので、転職したいと思っていると話したのです。
 学校に行けなくなっていた人もいました。大阪吃音教室と出会い、毎回まじめに参加し、いろいろなことを学んだ彼は、学校に戻ろうと思い、新しく高校に入り直しました。学校へ行き始めただけでなく、子どもたちと接する学童保育のアルバイトも始めています。

 1年間の自分のがんばりを素直に認め、それをみんなの前で話す姿は、すがすがしく、本当に素敵です。自分の力で変わっていく多くの人の姿を、目の前で見ることができました。この忘年会の、この場を、報告と決意を語る場として位置づけていている気がします。その場に立ち会えることの喜びを感じました。どもりながら自分を語るとき、それを聞くとき、お互いがお互いに応援し合っているのだと思います。笑いあり、ヤジあり、質問あり、コメントありのにぎやかな場ではありますが、それだけではなく、真剣に受け止めてもらえるという安心感があるからこそ、のほんとにすてきな、楽しい、そして、心に深く染みいる、いい時間でした。
 1年のしめくくりをこんなふうに過ごせることは、とても幸せなことです。
 来年の忘年会で、どんな話が聞けるのか、今から楽しみです。

忘年会 伊藤のスピーチ

 忘年会に参加した仲間から、こんなメールをいただきました。

 今年も忘年会の開催をありがとうございました。4時間の忘年会、びっくりするくらいあっという間でした。今年の忘年会はいつもに増して内容が濃かったです。ギター演奏でみんなで歌を歌ったことに加えて、一人ひとりのスピーチの内容がとても深いものでした。
高校に行き直したスピーチは感動的で、忘年会の序盤からいきなりレベルが高い話だと感じました。彼が「変わりたい」と強い思いを持ち、仲間の言葉から大切なメッセージを確実にキャッチされた感性の高さ、まさに彼のレジリエンスを感じました。始めて参加した、1年前のスピーチも別の意味で印象的でした。この1年でものすごく変化され、表情も話し方も柔らかくなりましたね。1人の人の変化を間近で感じられるのも、大阪吃音教室の醍醐味だと思います。
 前日の金曜日に大阪吃音教室に始めて参加し、その翌日の忘年会に参加した人のスピーチも心に響きました。これまで悩んでつらかったことと思いますが、日本吃音臨床研究会のホームページにたどり着き、伊藤さんと電話で話し、吃音教室に参加されたこと、仲間内の忘年会をパスして私たちの忘年会に来てくれたこと、人との関わりの大切さに気づかれ、職場への感謝、これからの目標が話され、その人のレジリエンスを感じさせてくれるスピーチでした。

 それにしても、みなさん本当にお喋りが止まらず、平均すると1人6〜7分は喋っていたと思います。どもりの人がこれほどお喋り好きだとは、「治す派」の臨床家の方たちには想像もできないと思います。溢れてくる思いをたくさん言葉にしたくなる場、本当に幸せです。

 溝口さんが吃音教室の参加者名簿をもとに、参加回数の多い人を紹介し、その人に合ったプレゼントをして下さるのは、交流分析でいうターゲットストロークのようなプレゼントで、毎回ちょっと感動します。溝口さん自身は、大阪吃音教室への参加は多くなくても、一人ひとりのことをちゃんと見てくれていることが伝わります。

 忘年会におなじみの顔が今回、都合が悪くて参加できなかったことは少しさみしかったですが、今年も大阪吃音教室の忘年会に参加できて本当に幸せです。ありがとうございました。


   日本吃音臨床研究会 伊藤伸二      2015/12/21   
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