伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

2014年05月

吃音は人間関係の悩み− アドラー心理学と吃音

 今、アドラー心理学が注目されている

 アドラーは、「人間の悩のすべて人間関係にある」、「究極的には、我々の人生において対人関係以外の問題はないようにみえる」と行っている。       「アドラー心理学を読む」 岸見一郎 (アルテ)

 僕はどうしてあんなに吃音に深く悩んだのだろう。どもること自体に問題がないから、小学2年生の秋までは悩む子とも、困ることもなかったのです。何度も書いていることですが、小学2年で吃音を否定的にとらえて、悩み始めてからは、たくさんいた友だちが一人減り、二人減りで3学期にはひとりぼっちになっていました。

 アエラ(朝日新聞社)の5/19号に「ぼっちが怖い、今どきの大学生−友達づくりに四苦八苦」の記事がありました。大学の学生相談室の相談は「勉強、研究、就活」と「人間関係」の二つに集中すると言います。

 もし、友達が吃音を理解してくれ、仲の良い友達がいたら、吃音に悩む子とは、あれほど大きなマイナスの影響を受けずに済んだと思います。事実、友達が理解し,友達のいる、学童期、思春期の子どもは、吃音は大きな問題とはなっていません。その後、社会人になって悩み始める人は少なくないので、この間に、しっかりと吃音とつきあう技術を学んでおいた方がいいと思うのですが、現実に困っていないので取り組まない人がいます。

 ともあれ、吃音は「吃音の症状の治療、軽減」よりも、その人の人間関係をよりよいものにしていくことを考えた方が現実的です。今、言語聴覚士の専門学校での講義がつづいていますが、言語の専門家としては、症状への治療、改善へと目が向きがちですが、そうではなくて、吃音に悩んでいる人の人間関係の悩みに取り組んで欲しいとお願いしています。すると、学生から、それなら精神科医や、臨床心理士の領域ではないと疑問が投げかけられるのですが、吃音に悩む人にとっては、吃音が人間関係に影響をしていると考えているので、吃音について、しっかり学び、知識をもっている言語聴覚士が、専門的な知識でなくても、カウンセリングや精神医学に少しの興味関心をもって、取り組んで欲しいと言つています。吃音の劣等感をつきあえる程度に軟らかくしておかないと、他のことに自信をもとうとしても、人間関係のスキルを育てててもうまくいきません。

 吃音としっかり向き合い、自分としっか向き合い、人間関係にもしっかり向き合う必要があります。よりよい人間関係を育む5つの要素として、僕は次の5つを考えています。

 1 肯定的で、明確な自己概念
 2 人の話にしっかりと耳を傾ける、傾聴
 3 適切な自己主張である、アサーション
 4 感情の適切な処理と、表現
 5 自己開示

 言語訓練よりも、これらのことを一緒に考え、一緒に取り組むことも、言語聴覚士の役割だと話し続けています。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/05/15

  

東京吃音ワークショップ


 引きこもりからの脱出

 毎年1月に開くことになった、吃音東京ワークシヨップ。1日のワークショップですが、参加者の真剣に吃音を、人生を考え、みんなでつくりあげて行こうとするものなので、濃厚な時間になります。内容を紹介しようと思いながら、出来ずにいました。ニュースレター「スタタリング・ナウ」でくわしく紹介しよう考えていたら、参加者のひとりから、うれしいメールが届きました。



 1月の東京でのワークショップに参加させていただきました〇〇〇と申します。
 改めまして、ワークショップに参加させていただき誠にありがとうございました。ワークショップ参加後に職業訓練を修了し、アルバイトの面接を受けてなんとか採用していただけました。現在、食品販売で接客をしています。
私がもっとも遠ざけていた接客業で働いて1ヶ月が経ちます。まだ1ヶ月ですが、毎日大変です。今まで引きこもり状態だった僕はどもりながら生きていくことの大変さをようやく実感しています。

 どもることでの相手の反応が気になり辛くなったり、逆に、吃音を隠そうとして、きっとばれているのに見栄を張って辛くなったり。仕事をするうえで、支障があったりして辛くなったり。

 小学生時代に悩みきったはずのことなのに、今になって悩んでいます。でも、不思議と毎日が充実している気がします。辛い毎日ですが、未来の自分に期待している自分がいます。

 今後、どうなるかは分からないですが、自分の生きていく道を試行錯誤しながら見つけていきたいと思っています。そして、辛くなったら、ワークショップに参加したことを思い出したりそのときのメモを見返したり、伊藤さんのブログをみて頑張っていきます。

長々と失礼いたしました。季節の変わり目で気温の変化が激しい日々が続きますが、どうぞお身体ご自愛ください。失礼いたします。


 うれしいメールでした。ひきこもり状態から、もっともハードルの高いと自分で思ってた「接客業」に入り、つらい毎日を送っているとのメールですが、「不思議と毎日が充実している」とあります。21歳の夏まで、どもりを隠し、話すこと、人と関わることから逃げ回っていた僕が、1か月の東京正生学院の徹底した訓練のあと、治らないとあきらめて、「新聞配達」しかできなかったアルバイトを接客業などに切り替えた、本当につらい日々だった時のことを思い出しました。

 特に、東京神田駅のガード下にあった、大きなキャバレー「美人座」のアルバイトは未だに強い記憶として残っています。注文を調理場に通す、「ととととととりのかかからあげごごごごこここここ人前、・・・・・・ビビビビールさささんぼん」。「忙しいのに、ぐすくずするな」よく怒鳴られ、叱られました。一日でやめたくなりました。でも、ここでやめたら、また逃げてばかりの人生に逆戻りしてしまう。1か月はがんばろうと決めました。

 1か月でやめたとき、経験はないのですが、刑務所を出所するような気持ちになりました。1か月耐えられたのは、理解ある支配人と、優しい年輩のホステスさんのおかげです。これが僕にとって大きな実績となり、もうどんな所でも耐えられると思いました。その後僕は、ありとあらゆるアルバイトをしました。家がとても貧しくて、東京での大学生活の、学費から住居、食事まですべて自分で稼がなくてはならなかったからです。

 どもりながら、どんどん社会にでていくと、これまで自分が考えていた、「社会は、どもりを理解してくれない」「どもっていたら仕事はできない」などは、みんな、経験しなかったが故の思い込みだと知りました。たしかに、中には、どもる僕をわらったり、指摘する人はいましたが、多くの人は親切でした。わらったり、さげすむ人間とつきあわなくても、いい、つきあえる人はたくさんいることを知りました。いつか、どもることが平気になっていました。


 〇〇さんも、今が我慢のしどころです。理解しない社会ではなく、社会は敵ではなく味方だ考えて、突き進んで下さることを願うばかりです。つらいとき、いつでも、メールや、電話ができる。そんな人間が一人でもいれば、人は、つらさを耐えられます。それを受け止める仲間でありたいと思います。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/05/03



どもる消防士からの電話

 自己紹介が苦手

 このブログで、この4月消防士になった青年を紹介しました。小学5年生ごろからつきあいの彼が、1年間の消防学校の生活に耐えられたことで、「吃音とのつきあい」は一朝一夕にできるものではないとも思えました。
 「そんなに、どもってて、市民の生活を守れるのか」
 消防学校の教官のこのことばは、かなり強烈です。それでも自分のしたかった仕事だとの思い、どもりながらがんばるとの覚悟、そして、僕たち大阪スタタリングプロジェクトの仲間の強い支え、これらがなければ、とてもつらかった日々だと思います。いろんな人から、あのブログへのレスポンスをもらっうと、彼はよくがんばれたなあと改めて思います。

 10日ほど前、関東地方の消防署に勤めて10年以上がたつという人から電話がありました。彼の記事を読んで、共感して、勇気が出てきたと電話をしてくれたのです。やはり、消防学校での苦労は同じようなものだったと話してくれました。10以上消防署に勤めて、仕事はそれなりに出来ているのですが、今でも困るのは自己紹介だと言います。

 「先日も、新年度で私のつとめる消防署に新人が配属されてきました。その時には自己紹介をしなければならないのですが、やはり、どもってなかなか声がでなかった。周りからは一瞬のことかもしれないが、自分には長い時間のように感じられる。消防学校での苦労を耐えてきたのに、このようなことで、未だに悩むことがある」

 その人は、僕たちのような仲間がいない中で、ひとりで消防学校の1年を過ごしてきたわけですから、それだけでも敬意の気持ちがわいてきます。僕の本を何冊か読んで下さっていたので、電話をくださったのでしょう。僕の本も、つらかった時代を、ほんの少しでも支えていたのかもしれないと思うと、とてもうれしくなりました。
 僕の考えをよく知っているのだから、早く、自己紹介でも「どもる覚悟」が出来ればいいのになあと話しました。日常の業務が出来ているのですから、自己紹介でどもるくらい、「たいしたことはない」と僕には思えるのですが、それがなかなか難しいようです。関東地方で「吃音ワークショップ」をしているので、非番にうまくあわさったら、是非会いたいですねと話して電話を切りました。

 僕のブログを読んで下さる、自分の知り合いだけでなく、僕が考える以上に多いのだなあと、うれしくなりました。このように、感想を電話をかけてきて下さるのもうれしいことでした。是非、会いたいなあと思いました。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2014/05/02
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