伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

2013年12月

アメリカの吃音(どもり)事情

吃音治療は効果があがっていない

 マイケルさんの僕へのインタビューの後、ご夫婦で大阪吃音教室に参加してもらいました。本来の今日のテーマは、アドラー心理学。急遽予定を変更して、僕がマイケルさんと質問しました。京都から来てくださった、進士和恵さんの通訳で二時間たっぷり、アメリカの吃音治療の実情や、セルフヘルプグループの活動について聞きました。

 たくさんある中で、特に印象に残っているのが、セルフヘルプグループに参加するほとんどの人が、学童期、さらには大人になってからもセラピーを受けていることです。治らなかった人がセルフヘルプグループに来ているのかもしれませんが、治っていません。公立小学校のすべてに言語聴覚士が配置され、吃音やその他のスピーチに課題をもつ子どものセラピーに当たっているのですが、その内容は「ゆっく、そっと、やわらかく」のバリー・ギターの統合的アプローチに代表される、どもらずに話す、吃音をコントロールする言語訓練です。

 マイケルさんは、きっぱりとあのような訓練は意味がないし、受けたくなかったといいます。セラピーを好意的に受け止めていません。僕の仲間の、日本のことばの教室に来ている子どもたちが、喜んで通級し、楽しくて、意味ある体験だったと言うのとは大きな違いです。日本の吃音臨床の方が、はるかに進んでいると改めて思いました。

 アメリカのマイケルさんのセルフヘルプグループのメンバーは、その事情の中でも、相変わらず「吃音を治す、軽減する」を目指す人もいるようですが、マイケルさんたちは、はっきりと「吃音とともに生きる」方向のようです。治っていないのだから、当然のことなのですが、この考えが対立しているのも興味深いところです。

 アメリカは吃音研究の先進国であつても、臨床では僕たちより遙かに遅れていると、大阪吃音教室のメンバーたちは思ったのでした。マイケルさんも、僕たちがしている大阪吃音教室の例会内容を話すと、うらやましいと言っていました。

 今、このブログ伊丹空港で書いています。今から沖縄県・言語聴覚士会の吃音講演会のために、那覇に向かいます。大阪は今朝は気温零度でした。那覇は20度気温差が大きい、那覇に行ってきます。

 伊藤伸二


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アメリカで 吃音のドキュメンタリー映画制作


 伊藤伸二インタビューを受ける

 12月6日、オレゴン州ポートランドから、28歳の青年、マイケル・ターナーさんが大阪に来ました。新婚旅行で名古屋や大阪に行くので、その時、私にインタビューをしたいと言うのです。吃音についてのドキュメンタリー映画を作っています。ただ、大阪にゆくから僕たちに会いたいとの程度ならと、最初は僕は乗り気ではありませんでした。

 国際吃音連盟の理事である僕たちの仲間の、川崎益彦さんに、インタビュー依頼のメールがあったのですが、どのような人か、どんな映画か分かりません。問い合わせた結果、彼のホームページの予告編を見てほしいと、そのサイトをみるパスワードが記されていました。予告編をみると、映像がとてもきれいで、何人かのどもる人へのインタビューがアップされていました。さらに、川崎さんが事前にマイケル夫婦に会って、吃音について、映画について話を聞きました。その、話し合いの場から、川崎さんが興奮して電話をしてきました。

 とてもいい印象の好青年で、吃音についての考えもしっかりしている。アメリカ最大の吃音のセルフヘルプグループのNSAのグループに所属し、ポートランドの支部の主要メンバーだとも分かりました。
 かれのグループでは、「吃音を治し、軽減させる派」と「吃音と共に生きる派」が対立し、今は歩み寄ってきているものの、「吃音を治し、改善すべきだ」と主張する人たちを「敵だ」と過激な発言をしていたようです。

 吃音のドキュメンタリー映画も、「吃音と共に生きる」主張の映画で、吃音について広く理解してもらいたいためのドキュメンタリーだと分かりました。

 最初あまり乗り気でなかった僕も彼にとても興味をもてて、会うことが楽しみになりました。乗り気でなかったというのは、僕は英語を話せません。イタタビューを受けるには、京都の外れから、親友の進士和恵さんに通訳として来てもらわなくてはなりません。とても忙しい時期の進士さんに、大阪まで来ていただくのが申し訳亡かったのです。しかし、彼の誠実さ、映画にかける熱意を知って、進士さんにきてもらう意義を思い、気が楽になりました。

 大阪吃音教室の始まる90分をインタビューに当てることにしました。会ってみると、川崎さんの言うように、さわやかな好青年でした。また、日本映画好きで、小津安二郎の「東京物語」などを好み、松尾芭蕉を深くしるために、岐阜県の大垣市にいっていたことも分かりました。

 事前に、第10回世界大会(オランダ)での基調講演の原稿を読んでいただけに、とても的確に質問をしてきました。僕たちの活動について理解したいとの強い思いが伝わり、僕らとっても、いいたいことが言えて、とてもうれしいインタビューでした。

 近くで同席して見ていた、川崎さん、写真をとっていた、鈴木永広さんも、知っているはずの僕の話を聞いてくれているとの安心感で、さらに、進士和恵さんのすばらしい通訳で、とても温かい雰囲気の、気持ちのいい、インタビューとなりました。

 それには、大阪吃音教室の会場を貸して下さっている、人が出会うことで有名な「應典院」が協力して下さったことも大きな要因でした。吃音教室が使う会議室は、まだ前の人が使っており、お寺の玄関ホールでインタビューを始めたのですが、バックグラウンド・ミュージックが邪魔になり、それを消してもらい、照明あかるくして、映像がとりやすい、インタビューが受けやすい静かな環境にしてもらいました。
 そして、始まったインタビューでしたが、突然、本堂ホールで演劇の練習の大きな音が響き渡りました。とてねインタビューできる環境ではなくなりました。

 そこで、もう長くからつきあいのある、「應典院」ととなりの「大連寺」住職も兼ねる、秋田光彦住職に、「大連寺」の一室を貸してもらえないかとお願いに上がりました。住職は留守でしたが、ご夫人が気持ちよく、応接室を提供して下さったのです。温かい応接室での撮影がこの雰囲気を作ってくれたことも間違いありません。

 次の日、マイケルさんと連絡をとり、今回のインタビューをセットしたも川崎さんから、こんなメールが来ました。

 「先ほどのメールに書き忘れましたが、大阪吃音教室が始まる前、マイケルさんが伊藤さんに1時間以上インタビューしました。その時の話ですが、最初はマイケルがカメラを持って伊藤さんを映してました。それが途中からカメラを奥さんに渡して、伊藤さんとマイケルとの会話を進士さんが訳すというスタイルに変わりました。最初マイケルも奥さんも表情が硬かったのですが、だんだんとマイケルの顔が輝いてきたのが分かりました。それだけでなく、奥さんが微笑みながらカメラを撮っているのが印象的でした」

 アメリカでも「吃音と共に生きる」考え方が広がっていますが、40年以上も前から、このことを主張し、理論的にも、実践的にも成熟している、大阪吃音教室の考え方に触れ、マイケルさんも感じるところがあったのでしょう。

 このような世界的な交流ができるのも、1986年の京都での第一回世界大会から、ずっと、翻訳・通訳で僕たちにかかわり、僕たちのために6回も世界大会に参加して下さり、常に世界の動向に目を光らせて下さっている、日本吃音臨床研究会の国際部長・進士和恵さんの存在があるからです。

僕たちは、本当に周りの人に恵まれていると幸せな気持ちになるのです。

 マイケルさん取り組みで、どんなドキュメンタリー映画になるのかとても楽しみです。当初来年の8月完成を目指していたようですが、じっくりと取り組み、いいものにしたいと、力強く握手した手の感触が残っています。

 その後、マイケル夫婦は、大阪吃音教室に参加しました。その時の様子は、明日。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2013/12/12

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東京・吃音ワークショップ


 昨年から始めた東京での吃音ワークシヨップの案内です。

 昨年は遠く九州や新潟県などから参加されました。ゆっくりと、今自分の課題としていることを出し合い、みんなで語り合う、とても豊かな時間を過ごしました。いつまでも、心に残るワークショップでした。
 関東でする数少ない機会です。年の初めに、吃音のことをじっくり考えましょう。よかったらご参加下さい。


吃音と向き合い、語り合う 
       伊藤伸二・吃音ワークショップ


 「吃音を治すことにこだわらず、どもりながらどう生きていくかを目指そう」と、大阪を基盤に活動している日本吃音臨床研究会の伊藤伸二と一緒に、どもる問題について考えたり話し合ったりする関東地方でのワークショップです。
 参加者ひとりひとりの吃音の悩み、知りたいこと、体験したいこと、学びたいことに関わり、それを皆で共有するスタイルで進めていきます。吃音について深く考えたい方、どもりながら生きていく上でいろんな思いを抱えている方、吃音の仲間とじっくり話したい方、伊藤や日本吃音臨床研究会の活動に関心があっても大阪まではなかなか行けない方、この機会にぜひご参加下さい。

 内容は参加者の要望によって組み立てますが、次のようなことが考えられます。
◇吃音を生きる、論理療法、交流分析、認知行動療法、アサーティヴ・トレーニングなどについて
◇吃音で苦戦している問題についての具体的対処
◇どもって声が出ないときの対処・サバイバル
◇吃音を治す言語訓練に代わる、日本語の発音・発声のレッスン
         
□日時 2014年1月12日(日)   10:00〜17:00
□会場 北トピア 東京都北区王子1−11−1  TEL 03−5390−1100
      JR京浜東北線「王子」駅北口徒歩2分
   東京メトロ南北線「王子」駅ト崕亳直結
□定員 18名  
□参加費 5,000円
□申し込み方法 
 〔樵亜 ´年齢  住所  づ渡暖峭罅 ´タΧ函 ´ο辰傾腓辰討澆燭い海箸篳垢たいこと  О貌伸二・吃音ワークショップを知ったきっかけ   を書いて郵送かFAXでお申し込み下さい。
□申し込み締め切り 2014年1月9日(木)
□問い合わせ・申し込み先  日本吃音臨床研究会
     〒572-0850 寝屋川市打上高塚町1-2-1526   TEL/FAX 072-820-8244

どもる子どもが、どもる大人に会う意味

 群馬・吃音キャンプの保護者の話し合い


 話し合いで出た、いくつかのトピックスの中のひとつに、子どもにどもる大人に合わせるのはどうかという話がありました。この話題は他の場面でも時々出ます。子どもに、どもる大人の体験を聞かせれば、いい勇気づけになるとの保護者の考えはよく分かります。たとえば、岡山のキャンプで僕と話し合った女の子が、キャンプ後にこんな感想を書いてくれました。

 「わたしは、二年、一年のころは、こなかったけど、今年きつ音キャンプにきてみました。伊藤さんのお話、グループでの話し合いなどとても心にのこりました。伊藤さんは、すごいなあと思いました。
 きつ音のこともぜんぜん気にしていないし、とても、楽しそうにしゃべっているからです。わたしは、どもりながらしゃべっていて、少しほっとしたかなあと思いました。グループでの話し合いは、自分のおもっていることを、いっぱいうちあけました。ことばの教室でも言っているんだけど、きつ音の人どうしで聞いてもらうと、なにかちがうなと思いました。二日間、本当に楽しかったです。わたしも、伊藤さんみたいな人になりたいと思いました」

 うれしいですね。どもっていてよかったと思えます。このようにどもる大人、自分のことをしっかり語れるどもる大人だったら、是非会わせたいですが、ただ、どもる経験をしているというだけではだめです。「どもることで、こんなつらい、嫌なことがあった、早く治したい」と語る、吃音を否定的にとらえている大人には会わせたくありません。

 当事者はある意味権力をもっています。経験のない人は、つい当事者の話に耳を傾けざるを得ません。「あなたは、当事者じゃないから、そんなことが言えるのだ」と言われると、親も、教師も身を引いてしまいます。当事者はこのような、パワーをもつだけに、その体験を語る意味をしっかりとわきまえ、影響をよく理解していなければなりません。そんな当事者の大人となると、誰でもいいと言うわけにはいきません。一人の個人の体験はその人のものであり、他の人に役立つとは限りません。自分の体験を丁寧に整理し、たくさんの人の体験とすりあわせ、ある程度普遍的なものにして語れる、そんなどもる大人になりたいと、僕はいろんな心理療法や、心理学、精神療法などを学んできました。
 子どもに勇気を与えることのできる大人になりたいと努力してきました。

 こんな話をしていたら、質問をした人も、「体験は人に役立つもの」と信じてきたけれど、必ずしもそうではないことを理解して下さいました。

 いろいろと経験をしたのですが、群馬キャンプの話題はこれで終わりとします。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2013/12/09 

子どもがどもるようになったのは、母親の責任ではない

 アドラー心理学の子育てのすすめ


 群馬のキャンプの二日目は、保護者と僕の話し合いの場です。
 2時間30分ほど、ゆったりとした時間の中で、みんなで話したいこと、僕に質問したいことなど、保護者の要望に添って進んでいきます。その中での話題をいくつか紹介します。

 これは電話相談でもそうなのですが、子どもの定期検診などで、吃音についてほとんど何も知らない、保健所や、相談機関の相談員に「お母さんがストレスを与えているのでは」「下の子に手がかかって、あまりこの子と関わる時間がとれなかったからではないか」など言われてきました。はっきりと「母親の愛情不足、優しさが足りない」などと言われて、深く傷つくお母さんが、未だにいます。吃音の原因が分からず、母親の子育ての責任ではないと、かなり知られるようになっているはずなのに、今回参加した保護者も、相談機関などで責められたと言います。はっきりと「それがトラウマになって、子育てに自信をなくしている」母親が決して少なくないことに驚きます。

 いつも、私は「今日限り、子どもがどもり始めたのは自分に責任があると考えるのは、きっぱりとやめて下さい」と言います。そうして、今後どのような子育てをすればいいかと話が進んでいきます。具体的な、今、子育てで悩んでいること、困っていることを出してもらって話し合っていくと、もう吃音の話ではなく、誰でもが必要な子育ての話になっていきます。毎年、育児についての話が中心になっていくのが、群馬キャンプの特徴のような気がします。

 学校から帰ると子どもはだらっとして、宿題はしないし、明日の学校の準備もしないので、つい、がみがみ叱ってしまい、「優しくしたいのに、優しくできない」との悩みが出されました。

 「愛情不足」と言われたトラウマもあり、「優しくなれない自分はだめな母親だ」と言います。とても優しそうなお母さんです。子どもの将来を思って、子どもが家でゆっくりしたいとの気持ちを理解しながらも、つい「宿題をしたか」「ゲームは、宿題をしてから、明日の準備をしてから」などとつい叱ってしまいます。

 私の学童期、吃音にすごく悩んでいたので、学校生活は、猛獣のいるジャングルに弱いシカが迷い込んだような心細さと、いつ襲われるかわからない恐怖でいつも緊張していました。そんな僕の体験からすると、「子どもは、精一杯学校でがんばっているんだから、だらっとしてても、認めてあげたら」とつい言いたくなります。でも、宿題をしないと困るのは子どもなのでつい、お尻をたたいてやらせようとします。

 叱って、やらせようとしてその成功の確率はどの程度ですかと聞くと、叱ることはほとんど効果がないといいます。「だったら、叱ってやらせる方法をやめましょう」と提案します。「ほめない、しからない」の「アドラー心理学の子育てのすすめです」

 宿題をしないで学校へ行ったら困るのは子どもです。宿題をしなければどのようなことが起こるか、子どもに経験してもらう必要があります。叱ってばかりいたこれまでのあり方を反省したことを子どもに伝えて、子どもとどうすれば宿題ができるかを相談するのです。いくつかの選択肢を一緒に考え、子どもも納得した方法を考えます。叱って、叱られてお互いが気分が悪くなるだけで終わる言い争いをやめるのです。

 いろいろと、子どもと相談する手順と、どうするかをお母さんと話し合いました。
 子どもの課題と、親の課題をごっちゃにしている、お互いが気分を悪い思いをして終わるよりも、アドラー心理学が提案することを、半年でもためしにやってみませんかと提案しました。これまで、失敗してきたのですから、半年ぐらいは、何が起こっても、たいしたことはないのです。

 お母さんや、お父さんと、吃音についてだけでなく、育児について語り合えるのはとてもおもしろいです。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2013/12/07


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どもる子どもと、早めに仕事の話をしよう。


 
 子どもは、将来の仕事について考えている
 

 第5回・群馬キャンプの初日の夜は、高学年の子どもと僕とが話し合う時間です。
 今年は例年よりは参加者が少なくて、高学年の5年生、6年生、高校生、大学生と、すくなかっただけに密度の濃い話し合いになりました。いろんな話題があったのですが、就職について報告します。

 大学3年生が就職試験について僕とはなしたくて、子どもの話し合いに参加しました。この大学生の就職活動についての話は、小学生や、高校生にも大きな意味をもちました。
 どもる人なら、多くの人が困難に感じる面接試験。その不安を大学生が話してくれたので、こりはいい機会だとこの事柄を話し合うことにしました。
 まず、面接試験の自己紹介の意味についてです。吃音を含めて、等身大の自分を提示するのが面接です。「面接が成功したとはねどういうことか?」まず尋ねました。多くの人が、どもらずに面接が無事終えたことと、これまで尋ねた中では多い答えでした。これは違います。どもる僕たちの面接がうまくいったったとは、「どもって、自分をちゃんと表現できたこと」のはずです。たまたま、どもらずに面接が通過したとして、就職できて後が大変です。どもりをかくして就職した場合、「いつ、どもることがみんなに知られるか」不安になります。どもらないように、一所懸命になることは、行動を制限します。「わざと、どもる必要はないが、自然に、どもる時はどもろうよ」「どもらないようにとばかり考えていると言いたいこともいえないよ」。僕が大学3年生と話す話をみんな真剣に聞いています。

 どもる自分をそのまま出して、それで採用されるところに就職すればいい。とても単純な話です。自分を良く見せよう、どもらない自分を装う。こう考えると面接で緊張するのは当たり前です。どもる受験生を、相手はどんな態度を見せるか、面接官の人となりを、君が面接するつもりで望めばいい。僕がであった、いろんな人の就職試験の経験を話しました。たくさんの人の人生を知っているのが僕の強みです。大学生はとても納得してくれたように、僕には思えましたので、小学5年生、6年生に、将来どんな仕事に就きたいと考えているか聞きました。

 二人とも、具体的ななりたい仕事をもっていました。ひとりは具体的に言ったのですが、ひとりは、具体的な名前は言いたくないと言いました。そこで「その仕事は、特別な才能を必要とすることなのか、努力すれば手が届く仕事なのか」と聞きました。すると、その子は「努力すれば就けると思う」といいました。

 素敵ですね。僕なんか21歳の頃、「どもりが治らないと仕事ができない」と本当に思っていましたので、小学生が、将来はともかく、今現在そのように考えていることに、尊敬の気持ちがわいてきました。

 吃音に悩み、強い劣等感をもち、僕のように「吃音を治す、軽減する、改善する」と思っていたら、吃音は大きなマイナスになりりますが、治らないと認めて、自分の人生を考えると、可能性は大きく広がれます。「どもりを治す努力は無駄になるから、そんな努力はしないで、自分がどんな仕事に就きたいかを考え、その必要な努力をしようと、みんなで確認しました。

 大学生が公務員になりたいと言ったので、今は面接の心配をするより、公務員試験に合格するように、学科試験で合格するように、勉強を一所懸命しようよと言う話からです。

 小学生と、こんな話し合いが出来たのはうれしいことでした。子どもたちも話し合いの最後の感想に、元気が出たと言ってくれました。僕の体験が、少しは人の役に立てたと思える、とてもうれしい瞬間です。

 どもる人は、どもらない人より、苦労は確かにあると思います。だからこそ、他の子どもよりも早めに、この社会でいろんな仕事があること、華やかな仕事もあるが、地道な仕事でがんばっている人のことなどを知ったり、実際の仕事ぶりを見たり、親子で早めに話し合って欲しいと思います。
 仕事についての本も出回り始めました。早めの対策が必要だし、子どもは大人が真剣に仕事の話をすれば、つきあってくれると、群馬のキャンプで強く思ったのでした。

 次回は、どもる子どもの保護者との話し合いについて報告します。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2013/12/05 








戸力を時の等






 

「どもり」と「はげ」の人間学 劣等感の比較


 念願の対談


 私は、毎年、神奈川県久里浜にある、国立特別支援教育総合研究所の教員研修の言語障害教育コースに一日講義に行かせていただいています。もう、20年以上になるのでしょうか、自分でもわからないほど、ずっと呼んでもらっています。一日の講義が終わって必ず、受講生と、研究員の牧野泰美さんと飲みに行きます。その飲み会がとても楽しいのですが、よく話題になるのが「ハゲとどもり」の比較です。

 なぜそうなるのか。牧野さんがかなり前からハゲていることと、ふたり共通の知り合いに、ハゲでかつらを付けたり外したりしているおもしろい人がいることと、何よりも私の恩師である先生が「どもりよりハゲの悩みが深い」と昔いっていたからです。どもりでハゲの人がいて、ハゲの方が悩みだというので、ハゲの人を支援しようと、吃音の研究者から、植毛の仕事を始めたました。吃音についてもっと取り組んでいただきたかった人ですが、植毛の仕事に転じた時の理由が、「ハゲの方が悩む」でした。

 その話を聞いたとき、私は強い疑問をもちました。たまたまその人は吃音の悩みが軽くなったから、ハゲの悩みが全面に出ただけで、多くの人が「どもりより、ハゲがつらい」とはおもわないだろうと思ったからです。ところが、不思議なことに、私は、21歳まではどもりに深く悩みましたが、その時、こんな話を聞いたら、腹を立てていたかもしれません。現在、どもりに、全く悩まなくなった今、私はまだふさふさしていますが、「ハゲ」の悩みも、深い人には深いのかもしれないと思うようになりました。

 そこで、牧野さんと、居酒屋での話ではなく、大勢の前で「どもりとハゲ」について対談したいと思っていたのです。さすがに、500人ほどの聴衆のいた、全国難聴言語障害教育の全国大会・鹿児島大会の対談では、出来なかったので、群馬のキャンプでしませんかと、牧野さんにお願いしたので。

 そこで、ハゲの悩みの本を探しましたが『ハゲに悩む 劣等感の社会史』(森正人・ちくま新書)しかありませんでした。それを熟読して対談に臨んだのですが、聴いて下さる人は、とても笑って下さり、おもしろかったと何人かが言ってくださいましたが、時間があればもう少し深い話になったかもしれません。

 どもりは1パーセントの少数派ですが、ハゲは18.4パーセントとかなり多数派です。ハゲは多少消極的になる人がいたとしても、どもりのように人間関係に支障は来しません。また、ハゲには「波」がないので、あきらめることは出来るが、どもりには「波」があり、受け入れるのはとても難しい。ハゲは帽子をかぶることもできるし、カツラもある。などなど、おもしろい話になりました。

 どもりは紀元前からある、由緒正しい「人間としての悩み」ですが、ハゲが人を悩ませるようになったのは、はげが問題となったのは、せいぜい1960年ごろからで、養毛剤などが、商売としてでてきてからでしょう。カツラなど隠せるようになってからだと私は思います。

 昔から、ハゲは温厚で、聡明に見られたりして、劣等感の対象ではなかったと思われます。周りからの「毛が生える」「カツラ」などの圧力がハゲとして生きてきた人を惑わせるようになったといえなくもありません。

 どもりも、治療の対象とされなかった時代の方が、どもる人の悩みは少なかったように私に思えるのですが、どうでしょうか。「治そう、軽減しよう、改善しよう」が、人を苦しめていると私には思えるのです。

 群馬キャンプでのこの対談を契機に、いろいろと考えていこうと思いました。
 私の講演、対談が終わってから、みなさんたくさん私の著書を買って下さいました。写真は、本にサインをしているところです。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2013/12/04 




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第5回 群馬吃音キャンプ 1


 講演 どもる子どもの、共同体感覚の育成


 早いもので、群馬のキャンプも5回になりました。島根、岡山、静岡がそれぞれ10回以上続いていますが、群馬も5回続きました。一回の開催は、「エイヤット」の勢いで出来るのですが、こうして5回も続くのは、実行委員のことばの教室の先生方の並々ならぬ、意志と努力なしにはできません。本当に頭が下がります。

 最初の写真で挨拶しているのが、群馬キャンプの実行委員長の佐藤雅次さんです。以前、全国難聴言語障害教育教育研究協議会(ことばの教室、難聴学級、通級指導教室などの担当の先生の全国大会)の山口大会で、当時ことばの教室の実践を吃音の分科会で発表された時のコーディネータが私で、その時に、群馬でも吃音キャンプをしたいとの話が持ち上がりました。その後、、群馬県のことばの教室の先生を巻き込んで、キャンプを実現させた、エネルギーのある人です。彼の人柄で多くの賛同者が集まり、ここまで続いてきました。
 
 、「これだけの人数の子どもたちのために、子どもたちの数を上回る先生が、キャンプにここまで誠実に取り組んで下さることに感謝します」

 キャンプの最終日の感想で保護者が、口々に話されました。忙しい教師生活で、誰もがゆっくり休みたいであろう、土曜日、日曜日を使って、また、その何倍もの準備に時間を使って、どもる子どもたちのためにキャンプわ開く人たち、島見、岡山、静岡、群馬のこういう人たちを、尊敬を込めて「アホな人たち」と言いますが、保護者の方たちもその思いが、感想の挨拶ににじみ出ていました。その輪の中に入れてもらっているのが、私はとてもうれしいのです。

 さて、群馬のひとつの特徴は、キャンプの参加者だけでなく、一般の人にも公開しての私の講演があることです。キャンプには参加出来ない人が私の話を聞きに来て下さいます。今年は、国立特別支援教育総合研究所の総括研究員の牧野泰美さんとの対談も組まれています。

 5回連続して来ているので、なんとか新しい話をしたいといつも考えています。映画「英国王のスピーチ」について話したりしてきましたが、今回は、今私が一番話したいとおもっている、アドラー心理の共同体感覚について話すことにしました。その本題に行く前に、島根、岡山、静岡、そして滋賀の吃音親子サマーキャンプで出会った子どもについて、やはり話したくなって、子どもたちの作文などを紹介しました。

 今年は特に印象に強く残った子どもたちとの出会いがたくさんありました。子どもたちとのいい出会いをなんとか、記録として残したいと思いながら、次から次へと行事が重なって、それらの記録もままなりません。なんとか、来年は記録を残したいものだと思っています。

 いつか、私たちの月刊紙「スタタリング・ナウ」だけでなく、ブログでも紹介したいと思います。
 講演の後は、「どもりとハゲの劣等感」という、およそ他では考えられないテーマの、牧野さんと、私の真剣で、まじめな対談です。それは明日。 
 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2013/12/02 


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