伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

2013年05月

吃音の本格的パンフレット 完成しました。

NPO法人・全国ことばを育む会のパンフレット
吃音とともに豊かに生きる 

 年末年始から3月いっぱいかかった、パンフレット完成しました。もつと早くお知らせしたかったのが、今日になってしまいました。55ページの小さな冊子ですが、私の吃音人生の集大成のようなパンフレットです。
 是非お読み下さい。500円分の切手をお送りいただければお送りします。
 
 572−0850 大阪府寝屋川市打上高塚町1−2−1526 日本吃音臨床研究会
 
 よろしくお願いします。


親の会パンフレット表紙

吃音は障害、差別、いろんな問題と共通するテーマ


2012年度障がい者問題研究会



たくさん報告したいことがありながら、日々の忙しさにけいさいできなかったものがたくさんあります。生鮮食品ではないので、行事の直後でなくても構わないと思いますので、昨年末に行った講演の紹介です。
 大阪府の私立学校の教員の自主的な研究会の、人権教育のひとつの部会が私を呼んで下さいました。
 吃音に悩み始めたのが小学2年生の時、どもる私をセリフのあね役から外すという教師の不当な対応で悩み肇それが21歳までつづくのですが。なぜ教師が、学芸会でセリフのある役から外したのが。参加した教師全員にどう考えるか聞いていきました。学芸会を成功そせるための教師の不当な差別、傷つけたくない教師の配慮と、半々だったのがおもしろかった。

 その時の報告のような送って下さったので、長くなりますが紹介します。


障問研として吃音のことを取りあげるのは初めての試みである。日本では吃音は法的には障がいとはみなされてはいないが、何より吃音ということ自体によって、またそれをからかわれるなど、二次的なことによって「生きにくさ」を感じている人があるということは、問題として取り上げる必要があると判断したからである。近年問題となっている発達障がいなどは、本人だけでなく周りの人も「生きにくさ」はある程度分かるが、吃音の場合は本人が黙っていると周りの人は分からないという特性がある。その点では色覚障がいなどと共に、取り上げる必要があるものだと考えられる。
 伊藤さんの講演のスタイルは、言いっぱなしではなく、何度も出席者に質問をするというものである。内容的には自分の実体験に根ざしたもので、それゆえに適度な緊張感がある雰囲気で、分かりやすいところから高度なレベルまで、よく理解できるものであった。多くの資料にはWendell Johnsonの言語関係図(立方体モデル)、Van Riperの吃音方程式、Josepf Sianの吃音氷山説など、さまざまな吃音についての理論が紹介されていたが、吃音について殆ど素人の参加者であったから、そのようなことより、
幼少の時から今までの実体験に基づいた説明をされたことで理解が深まったと思う。
 吃音者は人口の1%くらいと考えられていて、幼児期の自然「治癒」率は80%といわれているが、青年期を過ぎると「治る」ことはない。「吃音は一過性のもので、ほとんど治る」というのは間違いである。原因が分かっていないので、ネットなどで「必ず治る吃音」など怪しいサイトが横行しているが、「すべてウソ」だということである。また、「緊張するから吃る」と言われることが多いが、リラックスしたときに吃る人もいる。また、吃音にもいろいろあって、よくイメージされる連発(わ、わ、わ、わたしは…)より、難発(……わたしは)の方が深刻で、「しゃべる意思がない」と誤解されるものでである。
 伊藤さんは今まで「教育」の場で、学芸会の役を、本人に相談もなくセリフのない役に変えられるという「配慮」という暴力を受け、高校でも「昔だったらお前のような奴は本校には来れなかった」という発言など、教師から度重なる差別を受けてきた。吃音を憎み、流ちょうに話すために、いろいろなところで訓練を受け、必死で練習した。その結果、吃音は治らず、訓練を受けたT学院でも誰も治らなかった。現在では、吃音は「悪いもの」「劣ったもの」ではなく、正面から向き合い、つきあっていくものだと思っている。このように吃音を隠し、吃音を否定するのではなく、堂々と「吃音こそ自分の個性だ」という「吃音者宣言」をし、「吃音者よ、吃音と闘うな」という主張のもと、「吃音を治すことに拘らず、吃音とつきあう」ことは部落問題とも重なった面を持つという指摘は新鮮であった。そのために伊藤さんはことばの相談室や、セルフヘルプグループのサマーキャンプなどを行っておられるが、後半見せていただいたDVDでは、泣きながら自己を語っていた男子高校生が印象に残っている。DVD鑑賞は「思いつきで」と言っておられたが、参加者には非常に好評であった。

     ≪2012年度障がい者問題研究会オープンセミナーアンケート結果≫

2012年度障がい者問題研究委員会オープンセミナー (どのようなことでも、自由にお書き下さい。)
 
1.本日の講演について

・本人の意思ではない配慮の暴力について考えさせらえれた。特に一方的な配慮は本人の意向を無視しているという大切な点に気づかされました。

 ・吃音について本当に認識が足りなく、本日は吃音について新しく知識を得ることが出来てよかったと思います。これから吃音者に出会った時の対応を考えさせられました。ありがとうございました。

 ・同じ「待つ」でも周りの生徒の気持ちを、どう育てるかが重要だと感じました。吃音の所ではなく、その状態をどう考えるかで悩んでおられることが分かり、どのように教員として接することができるかを考えなければならないと感じました。

 ・今まで吃音は特別なものだと思っていましたが、今日の講演を聞いて認識が変わりました。周囲の理解と共に、吃音の人が自分自身を受け入れられるような環境が必要だと思いました。特に教員はもっと知識を広めなくてはならないと思いました。

 ・非常に面白く参考になり、2時間半を短く感じました。様々な例を聞き、現在の本校にはいませんが、今後の参考にしたいと思います。自分の無知がよく分かりました。

 ・吃音が治らないものだということを認識しました。教師として、どのように声かけをしてあげればよいのか。発達障害の場合、本人や家族が自覚していない場合もあろうが、吃音の場合も本人が自覚していないこともあるのでしょうか。

 ・吃音について知らないことばかりでしたが、今日多くのことを学ばせて頂きました。伊藤先生の一言一言に驚きと同時に納得し、有効な時間になりました。目に見える障がいもあれば、我々がつかみとりにくい障がいもあり、勉強不足をあらためて自覚しました。

 ・どもりについて、今まで知らなかった事、誤解していたことを教えて頂けました。何を配慮し、何を配慮しなくてよいのか。どもりは治すものではなく、どのようにつきあっていくのか、個性としてのとらえ方、周囲の反応やふところの深さが大事ゆったりと待つことが話しやすくなるとの事でしたので、心がけたいと思います。教師として、吃音の生徒とどのように接することができるのか、先生の嫌だった体験をもとにそういう対応とならないように、もっと勉強していきたいと思いました。

 ・吃音についてほとんど知らなかったので、とても勉強になりました。学校の研修会でも取り上げられたらと思います。教員として、吃音だけでなく障がいをもった生徒に対する対し方の勉強になりました。吃音を隠すのではなく、覚悟を決めて向きあっておられる姿に感動しました。

 ・貴重な研修機会を作っていただき、ありがとうございました。このようなお話を聞かなければ、今までの「吃音」に対する思い込みは変わらなかったし、そのような無知から来る対応を生徒達に繰り返していたかもしれない。学校に戻り、他の教員に本日の内容を是非伝えていきたいと思います。

 ・吃音に対する誤解(治るもの)が本人を苦しめる結果となっていたり、「待つ」ことも苦しめているということが、先生のお話でわかりました。今後の教員生活の中で本日学んだ多くのことを活かしていきたいと思います。ありがとうございました。

 ・「どもりは治る」という意識がまちがっていて、どもる人はその悩んでいる立場におかせない、どもってもいいじゃないか、ということがよく分かりました。今後は対等の立場で話していこうと思いました。

 ・今日の講演会は、伊藤さんが私たち教員の知っておくべきことをたくさん伝えてくださった大変勉強になる講演会であったように思います。ご自身の経験を含め、吃音のある人がいかに悩み、苦しんでいるか、私たちが普段から理解できていなかったことを今回の講演会で深く知ることができました。「障がい」と認定されれば、ある意味、まわりが意識的に配慮できることもありますが、吃音には認定されていないゆえの苦しみ・悩みがつきまとうこともあることが分かりました。吃音は治らないという正しい認識のもと、私たち教員は吃音のある人たちに対しても、それは一つの個性として、「障がい」のある生徒と同じように正しい配慮が必要であると気づきました。吃音のある、あるがままの自分を受け入れることはことは、子どもにとっては決して簡単ではないと想像します。しかし、キャンプ等を通して、自分を出せる場が与えられることは吃音のある人たちにとって、自分の思いを伝える訓練の場になるだけではなく、先生が話をされていた「どう生きるか」をつきつめて考えることができる、人としてもかけがえのない、有り難い場を与えてもらっているのだと感じました。人はひとりで生きているのではなく、まわりとの関わり合いの中で、成長していけるものであると改めて思いました。そういう社会をつくっていくべきだとも感じました。

 ・伊藤さんのお話を聞いていて、べてるの家の「治りませんように」の考え方を思いだしました。不勉強なため種々の違いもあると思いますが、「ありのまま」の自分を受容し、「自分らしく生きる」というスタンスは共通していると思います。「配慮の暴力」など、特に教師との対応をご自分の体験を通じて話していただき、また、吃音があることを隠さず、「どもっていても堂々としゃべる」ことは、部落問題とも重なってくるところがある、という指摘などはなるほどと思いました。そして、教師と生徒は人間として「対等に」接するということは、吃音のことだけではなく、我々が常に意識しておくことだと思いました。
 
2.伊藤さんへのメッセージ

 ・貴重なお話を有難うございました。見えない差別について認識させられました。
 ・これからもご活躍お祈りしています。がんばって下さい。
 ・また講演を聞かせていただきたいと思います。
 ・伊藤さんのお話にあった過去の教員の言動には怒りを覚えました。絶対にあってはならないことだと思います。多くのお話、ありがとうございました。
 ・吃音についてもっと知りたい部分がでてきました。また勉強していきたいと思います。
 ・伊藤さんの行っておられるキャンプをもっと広げていってもらいたいです。悩んでいる子どもも大人も沢山いると思うので。
 ・伊藤さんには、たくさんのことを教えていただき、ありがとうございました。吃音が「治らない}ものだという認識を私は改めてできましたし、吃音のある子どもや保護者のつらさも少しですが、お話をうかがって理解できた気がしています。私が教師としてできることはそんな人たちの生きづらさを想像しながら「対等」であるという姿勢で接すること、そして吃音は目には見えないけれども、「障がい」であると認識し、力になれるときはなれるよう力を尽くすことだと感じました。「障がい」のある人が生きやすい社会は、全ての人に生きやすい社会だと思います。そんな社 
会を目指して、まずは目の前にいる生徒たちの人権教育に今までどおり携わっていきたいと思います。御講演いただき、ありがとうございました。

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2013/05/24

第15回 島根スタタリングフォーラム


 5月18日19日
 15回の吃音キャンプでした。

 15年も続くとは私も、みんなも思っていなかったのではないでしょうか。さすがにね15回パーフェクトに参加しているのは私と、今は教頭先生をしている松原さんだけになりました。どもる子どもが好きで、どもる子どもと遊んだり、話し合ったり、吃音のことを好きな人たちが、というよりも、吃音を通して人生を考えることが好きな人たちが、次から次へと受け継いできたからですが、その中にどっかりといる、中心的な人の魅力が、大勢の人たちがひきよせていくのでしょう。病気で1回涙をのんで参加できなかった、宇野正一さん、その時奇しくも事務局を佐々本茂さんにバトンタッチをしようとしたときでした。宇野さんがいる中でのバトンタッチではなく、不在の中ですべての責任者になる、あのときはたいへんだったろうなあと、端から見ていて思いました。今は、すべてを佐々本さんが準備の中心、進行の中心にいる、さらに、島根県の難聴言語障害教育の事務局長という、とても忙しい中での準備に、いつも頭が下がる思いです。

 今年は、高校生三年生が4人、吃音親子サマーキャンプの卒業式のように、ひとりひとりが決意表明のような挨拶をしました。小学1年生の時、早朝に小さな山に登り「言いたいことを叫ぼう」と、みんながめいめい好きなことを言っていく中で、小学1年生の3人が「どもりは一生治らない」と叫んで、みんなをびっくりさせた子が、高校3年生になっている。15年の歳月の重みを感じました。

 島根には、初恋の人が住んでいて、初恋の人との再会を作ってくれたのは、このフォーラムがきっかけでした。いろんな意味で、島根は、私にとって、こころのふるさとのようなところになっています。
 翌日は、島根県の難聴言語障害教育にかかわる人の1日研修があり、吃音についてたっぷり話しました。
 その話はまた。島根から帰って翌日は朝から京都の専門学校の講義、今日は大阪の専門学校と、8月まで、ぎっしりとスケジャールが詰まっています。4月、5月が特にたいへんで。胸がつまりそうな過密スケジュールなのですが、それも5月はもう少しでクリアー。時間は過ぎていくのですね。

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2013/04/14
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岡山で吃音相談会

今年の4月、5月の忙しさは特別のようです。
専門学校の講義が同時に4校、大学でのソーシャルワーク演習も同時並行で進んでいます。そんな中で、この週末は島根県に来ています。島根スタタリングフォーラムが開催されています。第一回から連続して参加しています。今年もいろいろな出会いがありましたが、それについては、また書きたいと思います。

今日は、来週日曜日の岡山での吃音相談会のお知らせです。
岡山での相談会も、もう何回目になるのでしょうか。毎年、岡山言友会が僕を講師に呼んで下さり、吃音相談会を開いています。もっと早くお知らせしなければいけなかったのですが、遅くなってしまいました。もし、よろしければ、ご参加下さい。事前の申し込みは必要ないようです。

日時  2013年5月26日(日) 13:00〜16:30
場所  岡山市立福祉文化会館(岡山市中区小橋町)
        JR岡山駅東口より路面電車にて「東山」行き、「小橋」下車、北に徒歩3分。     
講師  伊藤伸二(日本吃音臨床研究会)
参加費 500円(資料代)

平気で、どもっているのは、かっこいい。

 うれしい再会

 昨日は,龍谷大学での「ソーシャルワーク演習」の講義の日です。毎週木曜日、3時間の講義を15回。楽しく学生と過ごしています。

 私は、吃音そのものではなく、シーアンの氷山説で言う、吃音を否定することで起こるマイナスの影響、吃音を隠し、話すことから逃げる行動、吃音は悪い、劣った、恥ずかしいものという思考、不安や恐れ、罪悪感などのネガティヴな感情へのアプローチを、ずっと考え、取り組んできました。

 交流分析、論理療法、認知行動療法、アサーティヴ・トレーニング。サイコドラマ、ゲシュタル・トセラピーなどたくさんのことを学んできました。最近は、当事者研究、ナラティヴ・アプローチ、レジリエンスなど、「吃音を治す・改善する」立場に立つと、決して学ばないようなことを、「吃音とともに生きる」に徹するために、幅広いたくさんのことを学んできました。

 それらは、病気や障害、老いや経済的な困窮や、ライフスタイルなどで様々な生きづらさを抱えている、幅広い人と出会う、ソーシャルワーカーにとっても学ぶ必要があると私は考えています。

 私が、吃音と共に豊かに生きるために、どもる人や、子ども、保護者にどう向き合えばいいか、ずっと考えてきたことを、整理しながら、確認の意味でも、学生に伝え、一緒に学び合う。私にとって、大学での講義は、大切な時間です。今年も16人の学生と、人として人に向き合うこと、コミャニケーション、障害観、人間観など、これまで生きてきたなかで、学び、つかんできたことを伝えられるのは、本当に幸せなことです。

 昨年、ひとりの女子学生が最終講義が終わって時、手紙をくれました。「これまで、吃音をネガティヴなものと考え、あまり吃音を表に出さずにいきてきましたが、伊藤さんが、平気でどもりながら講義をや演習をしている姿に毎週出会い、「どもりながら、平気で話している姿が、かっこいいと思いました」とあり、彼女はその8月に千葉で開いた「臨床家のための吃音講習会」にも参加して、卒業論文に吃音をとりあげまとめました。

 その彼女が、大学で講師控え室に入ろうとしたときに、呼び止めてくれました。びっくりしました。何か用があって、大学に来て、たまたま私を見つけて声をかけてくれたのかと思いました。
 ところが、現在は障害のある人の施設に勤めているのですが、たまたまの休みで、私に少しでもと、わざわざ会いに来てくれたのだそうです。しばらく、ベンチで、吃音のことなど話しました。私の言う、「吃音を治すことをあきらめて、自分の人生を大切にして生きる」は、これまで学んできた、福祉の世界に当てはまることで、とても共感したのだと改めて話してくれました。

 私のどもりながら生きる存在が、彼女を少し勇気づけたようです。その一方、彼女からうれしい手紙をもらったこと。今、この場で吃音について学んでいると、吃音講習会の場で紹介たこと。昨日、わざわざ、少しの時間なのに、せっかくの休みに会いに来てくれたこと。わたしにとっては、大きな勇気づけになりました。

 「私は、絶対にあきらめませんから、治しますから」と言った電話相談の青年に会った直後だったので、よけいにうれしいことでし。「治せ、改善しろ」と言われたら。とても嫌だ、吃音の改善にのめりこまなくてよかった」という彼女のような人もいることが、私に勇気を与えてくれます。

 やはり私は、たくさんの人に、励まされ、勇気づけられているから、どもりにこだわって、楽しくいきられるのだと思います。
 思いがけない、うれしい出会いでした。早速「会って話せてうれしかった」と彼女からメールが届いていました。
 彼女もきっと、このブログを読んでくれると思います。
 人に勇気づけられ、また人を勇気づけ、その連鎖の中で生きることの幸せを思います。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2013/05/03

吃音が治ること、私はあきらめません。    


 あきらめるのは難しい

 留守にすることも多いためか、何度も電話をしてくださっているのでしょう。自宅にいるときは、3件ほどは毎日電話相談があります。昨日は21歳の学生さんでした。
 アルバイト先で思うように話せずにつらくて辞めて、また新しいバイトをしたがやはりだめだと言います。そんなにつらければバイトをやめたらとうかと話ました。彼は、普段の大学生活では困ることはないようなのですが、このままでは将来就職したときに困ると考えたようです。
 アルバイトをして話していけば吃音が治るのではないかと思って、アルバイトを始めたそうです。真剣な様子が伝わってきましたので、私がどもりを治すのをあきらめ、アルバイト生活をした体験を話しました。吃音を否定していたために、話さなくてもいい新聞配達をしていたのを、あきらめてからは、話す仕事を含めて、たくさんの仕事をして、つらいこともあったけれど、家が貧しかったために、辞めるわけにはいかずに続けた経験を話しました。
 
 治ること、改善することをあきらめて、どもりながら生活を精一杯生きることをすすめました。そして、深刻には悩んだかも知らないが、真剣に吃音と向き合ってこなかったのではないかと指摘して、僕の本を読むことをすすめました。
 真剣ではないと言われていやだったのでしょう。

 「最後にいいですか?」と言うので、何か質問かと思ったのですが、強い口調で「私は絶対、治ることはあきらめませんから。絶対治して見せますから」と言いました。「あきらめないでがんばるのはいいけれど。1年ほど限定した方がいいよ」と言うのが精一杯でした。

 ちょうど「吃音の当事者研究」の本が、あきらめることの難しさを考え、書いていたところだったので、彼の気持ちもよく分かりました。僕も21歳まで、あきらめるなんて考えもしなかったことですから。

 あきらめられない人は、やはり、治す努力を。一所懸命する必要がありそうです。ある人はぱっと分かって、人生を切り開いていくのですが、ある人には、理解しにくいようです。
 私も1か月がんばったけれど治らなかったからあきらめられたことを思うと、早くあきらめるためには、早く、精一杯の治す努力に取り組んだ方がいいと思いました。最後に「治すために、がんばれ」と言うのがせいいっぱいでした。

 1年程度に「治す努力」をとどめておいて欲しいと願うばかりです。

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2013/05/02
 

吃音治療で、何が一番よかったか


 治る、治すをあきらめる

 1965年から、吃音一筋に生きてきた感じがします。すべてが吃音を中心に廻ってきました。このように書くと、吃音にとらわれているように感じられますが、そうではなく、吃音にこだわって生きてきました。
 書籍などで、たびたび書いていることですが、小学2年の秋から、21歳までの人生があまりにもみじめだったので、その後の人生で、吃音と共に、楽しく、豊かに生きよう、とこれまで生きてきました。自分では、世界一幸せな吃音人生だったと思います。過去ではなく、現在進行中ですが。

 この4月、5つの言語聴覚士養成の専門学校の講義が、同時進行し、ふたつは終わり、3校が現在も続いています。その1校の講義で、吃音治療法の歴史を話して質問を受けたとき、「伊藤さんにとって、どんな治療法が一番よかったか」と質問を受けました。21歳の夏、念願の東京正生学院で1か月、寮に泊まり込んで、集中的に訓練を受けました。午前中は呼吸・発声練習、午後は街頭訓練。上野公園の西郷の銅像前、山手線の電車の中、演説の練習に毎日取り組みました。本当に、真剣に、まじめに、取り組みました。深夜まで寮で話し合いました。

 吃音は治らなかったのですが、この1か月は私にとって天国でした。楽しくて、楽しくて、毎日がお祭りのようでした。一人ぽっちで、ともだちがなく、仲間のいなかったのが、100人ほどの仲間がいる。特に仲の良くなった人が数人いる。人といることが。こんなにうれしく、たのしいものか、初めて味わった経験でした。

 やはり、私にとって、東京正生学院はありがたいところでした。今も、こころのふるさとです。治療法がよかったわけではありません。実際にその後の3か月の通院の4か月の中で、300人ほどの人と出会いましたが、誰一人出会いませんでした。
 学生に、何がよかったと思うか質問すると
 ・彼女ができた・同じように悩む仲間と出会えた・吃音について話をし、聞いてもらえる体験をした。これらはあたるのですが、大切なひとつのことは、ほとんどあたることはありません。
 それは、「治ること、治すことをあきらめた」ことです。
 あきらめるが、私の吃音のキーワードですが、昨日の電話相談で、考えることがありました。
 それは、次回に

 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2013/05/02 
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