伊藤伸二の吃音(どもり)相談室

「どもり」の語り部・伊藤伸二(日本吃音臨床研究会代表)が、吃音(どもり)について語ります。

2009年03月

言語聴覚士の専門学校の講義 1


  キーワード 自己概念・傾聴・感情の適切な処理、アサーション・自己開示  


 毎年、春休みに出講している、ある専門学校の6日間の講義がはじまりました。
長年行っているところですか、さて、今年はどんな学生と出会えるのか、やはり期待と不安で緊張します。心地よい緊張でもあります。
 私は例によってノートもメモも用意しません。頭にそのときにうかんだことをそのままに話します。だから、どんな出始めのことばになるのか、見当がつきません。いまから思えば、落語のまくらのようなものです。毎年違うまくらを記録しておけばおもしろかったろうと、ふと思いました。

 少しの自己紹介をしたあと、私がかならず話すことがあります。その年その年で具体的な話の内容はかわりますが、6日間の講義の中でなんどもふれる、キーワードです。
 
 私は、考えたい、学びたいいくつものキーワードを持っています。学生にキーワードを持つことの必要性を話します。たとえば、笑い・ユーモアは私にとって最重要なキーワードです。新聞・雑誌などこのキーワードがあれば必ず切り抜きます。書籍も新聞などで紹介された本は必ず買いますし、書店周りをしていても、このキーワードがの本は必ず買います。そうして集まった本が、吃音ショートコースの、笑いとユーモアのワークシヨツプの時、会場に並べてみたら、100冊ほどあったのには驚いたものでした。専門学校で講義にあたっての、キーワードは、よりよいコミュニケーションの5つの要素です。これについては、ずいぶんといろんなところで話してきたなあと思います。

 明確で肯定的な自己概念・傾聴・感情の適切な処理、アサーション・自己開示

 それぞれ、私が吃音に悩んでいたときに、できなかったことばかりです。
 対人援助の職につく人は、常にこの5つを意識し、みがくことが大切です。また、コミュニケーションに困難を抱える人が、この5つができるようになることを援助することが大切だとも強調します。
 吃音の講義なのに、いきなりこのような話でとまどいはあるようですが、一日の角ふりかえりのレポートには、このキーワードについてふれている人が多くいました。こんなうれしい振り返りがありました。

 「この5つが、言語聴覚士を目指す私たちにとって重要だということが分かった気がします。というのも、伊藤さんが5つのキーワードに関する行動をとられているように感じたからです。私たち学生が発表や質問をしている時の態度がとても勉強になりました。そして、自己開示もご自身の吃音の苦悩から、質問に答えてプライベートなことまで、何のためらいもなく話して下さり、大変気持ちが伝わってきました。この人なら、自分のことを話しても大丈夫だと思えました。今回教えて頂いた5つのキーワードとねそれに対応する先生の行動は、今後の私の臨家としてのありかたに、とても参考になりました」


 この後、「吃る人や、吃る子どもはとのような苦しみ、悩み、困難さがあるか」をグループで想像して話し合ってもらい、代表が発表し、そのひとつひとつにコメントしました。さらに、吃音について知りたいことをできるだけ、グループで話し合って出してもらいました。この二つを通して、吃音について、正しく知ってもらいたかったのです。5つのキーワードには例年と比べて力をいれて説明したせいかどうか分かりませんが、吃音に関してだけでなく、プライベートなことへの質問が多かったのは、ある意味嬉しいことでした。質問がない限り、とても講義の中で自分からは話すことはないことばかりだからです。

 私は人に質問をしてもらうのが大好きな人間です。どんな質問にも瞬間にいろんな自分の体験や、これまで出会った吃る人の体験が、整理されたファイルから、瞬時に引き出されるのです。よくまあ、こんなに出てくるものだと、自分で感心をしてしまいます。そのような特技があるから、質問を受けることがとても好きなのです。

 質問は、少なくとも質問をして下さった人にとつては感心のある事柄です。だから思い切って私も話すことができるのです。
 質問に答える形で、吃音についての私の体験や知識を伝えました。

 その結果、吃音に対する考え方が、イメージがこれまでとは全く違ったものになつたと、ほとんどのひとが、振り返っていました。一般的な吃音の書籍や、情報から得る、般的にもつ吃音についてのイメージや考え方と、私の吃音はなものすごく大きな隔たりがあると多くの人が驚いていました。
 
 こうして、ひとりでも、正しい吃音についての知識をもつ、言語聴覚士がふえることを願って、力をこめて残り5日をがんばります。
  2009年3月31日       伊藤伸二

 








大阪吃音教室 運営会議



  いい仲間と共に吃音に取り組める幸せ

  2009年2月28日 NPO法人大阪スタタリングプロジェクトの2009年度の大阪吃音教室のプログラムやその他の活動を話し合って決める運営会議が2日にわたって開かれました。いつもは合宿でするのですが、今年は午後から夜まで話し合い、その後一旦帰り、また翌日集まるという形でした。私は、自分自身の近況や、最近考えていること、吃音への思いなど、個人的な話が出される合宿の夜の時間がとても好きなので、今回、宿泊がなかったのは少し残念でしたが、それでも個人のいろんな思いを聞くことができて、幸せな気持ちになれるいい時間でした。今年は新しく運営委員に加わる2人を加え、17名が参加しました。どうしても都合がつかずに参加できない人もいるのですが、これだけの人たちと、じっくりと、会の活動について、吃音について話し合うことができるのは、本当にありがたいことです。
 大阪吃音教室の40回ほどの年間スケジュールを検討し、担当者も決めていきます。その前に、自分自身が担当した講座のふりかえりをしました。一人一人ですから、かなりの時間がかかります。事前学習や資料作りの苦労、担当したときの周りの反応、自分の反省、そして、遠慮のないみんなからの突っ込み。かなり厳しい指摘もしながら、常に笑いが絶えない、この大阪独特の突っ込みが、私はとても好きです。
 全員が振り返り、周りからのコメントがある、2008年度の吃音教室を振り返った後、2009年度の担当者を、自らが立候補して決めていきます。
 世界中に吃音に限らず、セルフヘルプグループは数多いですが、大阪セルフヘルプ支援センターの活動や、国際大会や、セルフヘルプグループの文献などを探しても、大阪吃音教室は極めて、独特のミーティングを持っていると思います。そして、みんなが、このプログラムに満足し、誇りを持っています。珍しいグループだと思います。このプログラムの歴史を紹介しましょう。

 1986年夏、第一回吃音問題研究国際大会が京都で開かれました。海外10カ国から40名ほどの代表、全参加者が400名という文字通りの大きな国際大会でした。知らない方にはまた、国際大会について書く機会をもちたいとおもいますが、それから3年ごとに続く世界大会の出発になった記念すべき大会でした。
 その他に、大阪の私たちにとっても大きな転機になりました。
 私は、大会会長の基調講演やシンポジウムなどで、「吃音は、どう治すかではなく、どう生きるか」の問題だと強く主張しました。多くの海外代表はとても共感してくれたのですが、いくつもの質問が出されました。
 「考え方は素晴らしいと思うが、セルフヘルプグループのミーティングや、吃る子どもや、吃る人の臨床にその考え方をどのように反映するのか。どのようなプログラムによってそのような考え方に到達するのか。具体的なプログラムを提示しなければ、思想だけでは不十分だというのです。

 私は、基本的には吃る人が吃る事実を認め、どもりを隠したり、話すことから逃げないで、日常生活、社会生活に出て行きさえすれば、その吃りながら生きる生活そのものが、結果として言語訓練にもなり、吃音に対する考え方の変化にも結びついていくので、プログラムと言われても、それぞれが工夫して、生活を楽しむことではないかと反論をしました。しかし、海外の吃音の研究者・臨床家・吃る当事者は納得しませんでした。私は、どこまでできるか全くわからないけれど、そのプログラムに取り組もうと決意を固めました。

 当時、私は全国的な活動が中心で、大阪のグループにほとんど参加していませんでした。土曜日や日曜日に開かれる例会に参加する時間的な余裕もありませんでした。そして、例会の内容も、話し合いが中心ではありましたが、訓練的なものもしていました。いわゆる抑制法といわれる「ゆっくり話す」練習や、音読、度胸をつけるためにする大阪城公園での演説などで、どこのグループもしていた内容でした。

 これまでの例会全てを根本的に変えることにしました。「私は、土曜日、日曜日は使いたくない。金曜日に変えて欲しい。そして、少なくとも最初の1年間は全て私の思い通りにさせて欲しい。47回ほどの1年間の例会を全部任せて欲しい」と提案しました。それは、セルフヘルプグループのミーティングとしては、本来あってはならないような提案でした。私には大きな覚悟がありましたから、中途半端なことでは、従来の吃る人のミーティングを変えていくことはできないと考えたからです。幸いにも、そのころ、「どもりを治す」という従来の例会の参加者はどんどん減り、会そのものが停滞していました。そして、20年も続いてきた日曜日の例会日を金曜日に変え、全てを任せるという、ある意味危険なかけにつきあってくれることになりました。

 当時私は、カレー専門店のオーナーシェフでした。目が回るような昼の忙しさから少し解放される、午後2時30分ころから、夜の営業の準備までの時間、私はカウンターで毎週の資料作りに取り組みました。その頃、ワープロが使えなかった私が書きなぐった汚い字の原稿をワープロ打ちして、B4サイズ5枚ほどの資料を作ってくれる仲間がいました。何か、流行作家にでもなったように、毎週毎週、資料を作りました。その当時の資料は、今でもときどき使うことがあります。
 金曜日になり、講座中心の例会に変わって、参加者は格段に増えました。話し合いを中心にした、従来のセルフヘルプグループのミーティングとは、まつたく違うものでした。私が学んできた様々な心理療法やトレーニングを、47回の講座に取り入れました。参加者もいきいきと、楽しく参加してくれました。吃音のことで、今、具体的に困っている問題が出されたら、そのことを中心に例会を行いますが、そうでない場合は、エクササイズをしながらの体験学習でした。
 1 吃音とつきあうために知る吃音についての基礎知識
 2 自分を知り、他人を知る心理学講座
 3 コミュニケーション能力の向上のための話す、読む、書く、聞くトレーニング
 交流分析、論理療法、森田療法などには特に多くの時間を掛けました。
 大変な労力でしたが、私にとってはとても充実した1年間でした。参加者もとても喜んでくれました。こうして、今の、大阪吃音教室の原型ができあがりました。セルフヘルプグループの本来の、メンバーみんなで作り上げるという基本に立ち戻らなければなりません。次の年からは、講座を私の見よう見まねで、また本などを読んで私の代わりに担当してくれる人が、ひとり二人と増えました。3年目には、かなりの部分をみんなが担当するようになりました。そして、今年などは、私が担当する講座日は、5日ほどになりました。
 20年の間に、ずいぶんいろんなことを取り上げ、改良してきました。過去のプログラムを見てみると、ずいぶんいろんなことを学び合ってきたと思います。講座を担当する人は本当にまじめに、テキストや本などで勉強し、計画をたて、進行し、検討し、改良していく。そのプロセスをみんなで楽しむようになりました。
 具体的な内容は、大阪スタタリングプロジェクトのホームページに年間スケジュールが掲載されています。興味があれば見て下さい。

 この吃音講座を支えてくれたのが、年に一度の、日本吃音臨床研究会の、2日3日のワークショップである「吃音ショートコース」です。多方面の日本の一流の講師陣が、私たちの取り組みを支えて下さったことになります。その、ワークショップの記録は冊子となり、今年で14冊目の発行です。さらに、それは、書籍になって出版され、多くの人に読まれています。

 今年の運営会議でも、参加者が率先して担当に名乗りを上げました。このような、素晴らしい仲間達と、吃音に取り組むことができる幸せを、何度も何度もかみしめたのでした。

 2009年3月9日        伊藤伸二














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