昨日は、僕たちが開いている相談会やワークショップに参加した人が、同じようにどもる人に出会って、ドミナント・ストーリーからオルタナティヴ・ストーリーに変えるきっかけになった物語を紹介しました。
 今回は吃音ワークショップに参加して下さった講師の感想を紹介します。これまで、たくさんの方々が講師として参加して下さいました。初めて僕たちと出会った講師の方々が一様に感想として話されることが、どもる僕たちの明るさと、話を聞く態度です。映画監督の羽仁進さんが講演で、「皆さんの、声を出して笑う姿や、声を出しての相づちに、とても楽しく話せました」と話されました。
 大阪吃音教室では、「話す練習」はしていませんが、「聞くトレーニング」をしているので、その成果を評価していただいたように思えて、とてもうれしかったことを覚えています。
 「生きがい療法」実践会の伊丹仁朗先生の感想を紹介します。


   
広い世界で大きく生きるために
                      柴田病院医師 伊丹仁朗

§ユーモア・トレーニング
 「皆さん、こんにちは。柴田病院の伊丹です。少し前、山陰のある病院へお話に行ったときのことです。特急八雲の車窓から眺めていますと、宍道湖の広々とした美しい湖面が続きます。私はどこかで見た景色だなあと思いました。そして、憶い出しました。
 2年前、モンブランに登山したときに、スイス国鉄でレマン湖畔を走ったときの風景にそっくりなんです。そこでついでにつまらないことまで憶い出してしまいました。走る列車の中からレマン湖を眺めていますと、金髪の女性3人が泳いでいるんです。その瞬間私はハッとしました。3人とも水着をつけずに泳いでるんです。(笑)
 私は思わず窓ガラスに顔をつけてもっとよく見ようとしたんですが(笑)、無情にもスイス国鉄は速いんですね、アッという間に通り過ぎてしまいました。(爆笑)」

§笑いの効果
 私はいつも講演の初めに、例えばこんなユーモア・スピーチをするようにしています。そうしますと聴く人も退屈せず楽しく聴いてもらえるだけでなく、話す側の私も緊張がほぐれ、話の内容に集中できる効果があります。
 吃音ワークショップで「生きがい療法」実習のセッションを持たせてもらいました。その冒頭で参加者全員に、ユーモア・スピーチをしていただきました。ところが皆さん、これが上手なんですね。しかも話の内容のレベルが高い。講師の私も3つほど話の見本をしたんですが、その内容はトイレの男女を間違えた話、オシッコをちびりそうになった話、飛行機の機長のウンコの話など、レベルの低い話ばかり。一方、吃音に悩んできた皆さんの話は学校の授業の話、お婆さんの買物の話、霧の中の登山の話などレベルが高いんです。しかも面白い。満場爆笑でした。
 後で何人もの方からユーモア・スピーチのおかげで、話し方よりも話の内容に心を向けるコツが分かり、大変良かったと言っていただきました。

§誰にも役立つ不安解消法
 うまく話せるだろうか、という不安な気分に心を向けるのでなく、話の内容・目的に心を向ける。つまり「気分本位」でなく「物事本位」で取り組むのがコツなんですね。生きがい療法がべ一スとしている森田療法も、この考え方を指針としています。
 これは、話をする場合だけでなく、様々な心配・不安・死の恐怖にも通用するわけです。生きがい療法を活用しているガン闘病者の人々も、病気や死の不安という「気分」はそのままにして、今日一日生きる目標に取り組むという「目的本位」で頑張っています。それによって、結果的に不安に圧倒されることなく、有意義な生き方ができるわけです。
 私が『吃音者宣言』」を知ったのは8年ほど前だったと思います。その内容がここで述べている森田療法の考え方と同じであることに、当時驚いたのを憶えています。その後の経験を通して、こうした考え方はガン患者・吃音者・神経症ばかりか、全ての社会人の不安の解決と建設的行動の指針として役立つことを知りました。

§社会に貢献することを考える
 「病気になっても、病人にならないようにしよう」
 これは生きがい療法のコピーの一つです。体内にガンを持っていても、それは自分の人生の一部分に過ぎない。病気に負けずに社会人としての役割、目標にチャレンジすることを勧めているのです。ですから生きがい療法でガン闘病中の人は、例えば造船所の現場作業員、学校の先生、OL、印刷屋さん、看護婦さん、様々な職業を通じて良い仕事をして、社会に貢献することをめざしています。今回私と共にワークショップの講師で来ました藤原さんも、子宮ガンに負けずに主婦の仕事ばかりか、京都国体のボランティアや看護学校で体験談を話したり早川一光先生とラジオ対談したりと、社会に貢献されています。そして、ガンになる前よりも、生きがいや社会実践がもっと大きくなったと言われています。当然、ユーモア・スピーチの能力も…。

§ガンや吃音を持ちつつ優れた仕事を
 私は最近「ガン患者」に対する社会のイメージが、着実に変わりつつあるのを実感しています。ガン患者は同情されるべき特別な人々ではなく、普通の社会人と同じ又はそれ以上に有意義に生き、社会に貢献している人なのです。その点でも、吃音を持ちつつ優れた仕事、社会生活の実行をめざす『吃音者宣言』の考え方と生きがい療法の共通性を感じます。
 でも違う点もありますね。生きがい療法は登山は得意ですが、ソフトボールは得意ではないんです。皆さんがワークショップ中、毎朝6時起きでソフトボールをされるのには、びっくりしました。それはともかく、生きがい療法をやっているガン闘病者の人々が、社会のいろんな場所でみなさんと出会うことがあると思います。そのときには、お互い社会人として仕事と生きがい達成のため協力し合っていきましょう。
 広い世界の中で、大きく生きるために。(1989年)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/3/6