僕は、吃音に悩んでいるときは、まず、悩みの元の吃音を治してから〜しようと考えていました。友達も、恋人を作るのも、吃音を治してからです。だから、21歳の夏まで孤独で生きてきました。ところが、東京正生学院という民間吃音矯正所で、すぐに恋人も親友もできました。不思議な感覚でした。村井先生は、どもりながら、ときに嫌な思いも失敗もしながら気心の知れた友達を作ってみてはどうかと提案しています。
 「どもりが治ってから〜しよう」は、吃音に悩んでいる人の考え方のクセのようです。 21歳の時の初恋の人との出会いについてはよく書いていますし、話してもいます。どもりまくって話す僕のことを、彼女は受け入れてくれました。僕がもっていた考え方はすべて思い込みでした。行動して、愛されて初めて分かったことでした。自分が体験したことからしか、人は学べないようです。村井先生との対話は今回で最終回です。
 村井先生は、今の僕の年齢よりかなり前に亡くなっています。まだまだ、いろいろと話したかったなあとの思いは残ります。

吃音とコミュニケーション(4)
   大阪教育大学教授 聴覚言語障害児教育教室  村井潤一
                            聞き手  伊藤伸二

伊藤 さきほど、どもらない人がどもる人と話をする時、吃音だからといってバカにするとか軽蔑すると決めつけないで、いろいろな人がいるんだと考えることが大切だ。そしてどもる人がどもらない人を理解し、どもらない人がどもる人を理解すること、お互いにわかり合っていくことが豊かなコミュニケーションを作るんだとのお話でしたが、やはりそのようなことができるには、普段からいろいろな人と無駄だと思うことでも、話していくことが大切なんですね。

村井 そうですね。いろいろな人と話していくことが大切でしょうね。とくに本当に気ごころの知れた友達を作ることが大切でしょうね。どもる人であろうとなかろうと話が非常によく通じる友達を作ることでしょうね。

伊藤 同じようにどもる人同士でも、話の通じない人だとイライラしますけれど、仲のいい友達ならスゥーと通じますものね。

村井 まず、気ごころの通じる友達ができれば、その友人の輪を広げていくことが非常にいいと思います。ただそういった友達を作りにくい人にとっては、どもる人のグループの中でそういった友達を作るというステップがあると思うんです。どもる人のグループの中に入ることによって、少しずつ気楽に話せるようになり、さらに誰とでも話ができるようになると、どもるとかどもらないとかの別なく通じ合える友人を作っていくのが望ましいと思います。どもる人のグループでは、友達の作り方とか楽しい会話のしかたなどを考えて行っているんですか。

伊藤 みんなの親交を深めるために、ハイキングや、スポーツや合宿や飲み会などをしています。グループ内では仲よくやっているんですが、会外での友人関係がどうなっているかわからないです。とくに異性の友人を持っている人は少ないような気がします。楽しい会話が上手になるために、会として何か考えて行っているかということですが、あまりしていないです。古くからある吃音矯正法や人前でスピーチする練習はしていますが。

村井 吃音矯正法がどんなものか詳しく知らないですけれど、もう少し個人のパーソナリティーを十分考慮した考え方をしていかなけれはならないんじゃないでしょうか。異性の友達が少ないのではないかと言っておられましたが、どうなんですか。

伊藤 私の場合、21歳の夏まで女性と話したことが全くなかったです。学校で必要な用事で話をしても、吃音を知られたくないので、ぎこちなく形式ばった話しかできなかったです。気楽になにげなく話すなんと、とんでもないことでした。だから、異性の友だちがいる人がとてもうらやましかった。

村井 伊藤さんたちの会では異性の友達が作れるように何か配慮をしているんですか。

伊藤 配慮しなくてはならないんでしょうけれど、まったくやれていないんです。もともと吃音の女性は男性より少ないので、私たちの会でも女性はやはり少ないです。少ないので、女性が会に定着しないんです。
 ある会の話ですが、かわいい女性が入会してくると集中砲火が始まったんです。普通の人ならかなり個人的に付き合ってから結婚を申し込むんですが、相手の都合もおかまいなしにプロポーズするんです。それでその女性はやめてしまい、また男性ばかりのグループになってしまったと話していました。どこの会でもそうなんですが、お互いに恋人がいないとつまらないと言いながら、「まず、どもりを治して恋人を作ろう」と、吃音にとらわれていることが、もてないことに通ずることがあると思います。

村井 女性のサークルの情報などを知らせてあげたらどうですか。同じくらいの人数の女性ばかりのサークルとサークル交流するというのは難しいでしょうし、また、どもる人は気の毒だから遊んであげようといった感じになったら具合が悪いでしょうしね。女性の友達を作るということでは、女性の多いサークルを知らせてあげるということ位ですかね。例えば、何日ではどこでなんという会があるとか、どこそこの会では男性会員が少なくて募集しているとか。やはり女性がいないと気勢があがらないですか。

伊藤 あがりませんね。女性の多い時の例会と女性の少ない時の例会では活気が全然違います。また、女性の多いサークルとの交流したことはあるんですが、今まで気楽に女性と話していないので、チャンスがきても、つかまえることができないんです。
 女性と話すコツとか、女性に好かれるテクニックなりの練習があるようでないですね。僕なんかは大学生の時、女子大学の文化祭や、ダンスパーティーによく行きました。また、僕たちが主催してダンスパーティーをしたこともあります。僕は社交ダンスを習っていて、少しは踊れたから、女性を誘うことができましたが。
 ことばの教室なんかでも、言語面のことをやるよりは、もっと普通学級で友達をどう作るか、遊びが上手になるにはどうしたらいいかといったことを小学生の頃からやっていけばいいと思いますね。

村井 それは小さい頃から行うことが大切ですね。一般の人から見ると一度でもどもる人とつき合ったことのある人の場合と、今まで一度もつき合ったことのない人の場合とでは吃音に対する意識がずいぶん違いますよ。一般につき合ったことのない人の方に偏見が多いですし、つき合ったことのない人は、たとえ偏見をもたなくてもぎこちなくなる。すると、どもる人も困りますね。

伊藤 案外、小さい頃からどもる人と一度も会ったことのないという人が多いんです。実際は会っているはずなんですが。それはどもる人が自分の吃音をひた隠しに隠していて知られないようにしていたからではないかと思います。だから、どもる人は、子どもの頃から吃音を出していく、どもって話していくことが大切ではないかと思います。

村井 そうやっていった方が治る場合も多いのではないですか。どもりを知られたくないということで話してきたといわれましたが、やはり小さい頃から友達とのつき合いは少なかったんですか。

伊藤 私の場合、友だちとさりげなくつき合うことがなく、常にどもりを意識して話していたから、本当に親しい友達といえる人はいなかったですね。

村井 何かその辺が突破口になるような気がするんですね。さきほどの話から、友達が少ないとか、みんなと楽しくできないと言われましたが、確かにその事実があると思います。そして一般の人がもっとどもる人を受容すべきだと思います。しかし見方を変えれば、友達がなくてもかまわないわけですよ。いい加減な友達であれば、あってもいいけれど、なくてもいいわけですよ。それがなかなかそう思いにくいんでしょうけれどね。

伊藤 そうですね。友達がないことを問題だと思うところが問題なんですね。大学一年生の時、広いキャンパスの庭に一人ぽつんと坐って平気でいる人がいたんです。その人を見て非常にうらやましく思ったことがあります。「あいつは周囲が楽しくやっているのによく平気で本など読んでいられるなあ、オレだったらたまらない」と思いました。
 誰かと常に一諸にいたいんですね。あいつはどもりだから一人ぼっちなんだと思われるのではないかと考えました。しかし孤独でもちっとも問題ではないんですね。

村井 そうしていくとかえって友達ができることもあります。どもる人は友達が少ないというのは事実だとしても、一方では友達が作れるような場を誰かが提供していけばいいんですけれどね。その一方で、別に友達がたくさんいなくてもいいわけだし、どもらない人でも友達のいない人もいます。そして真の友人であればどもりなんか気にしないでしょうし、真の友人ということになればどっこいどっこいというところではありませんか。
 こういった考え方が万能だと言うのではないけれど、こういう考え方をしていくと今までの考え方でうまくいかなかった人の何%かの人に対しては何らかの力になるかもしれません。
 今の話のように、考え方を切り替えることも吃音の問題を解決する一つの方向かもしれませんね。だからいろいろ視点を変えて考えていくと、何か今まで考えられなかった手が見つかるのではないでしょうか。
 一遍にすべてのどもる人の問題をなくすにはどうしたらよいかと考えるよりも、個人個人に適した方法を地道に考えていかなければならないでしょうし、今までの考え方で間違っていたところはないか、今までの考え方でどれだけの人が救われ、どれだけの人が残されたまま悩んでいるかということを事実に即して考えることが大切だと思います。その中で、吃音を克服していく道が少しでも拡がっていくのではないかと思います。(おわり)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/2/15