吃音親子サマーキャンプを主催するようになって2年目の1991年の文章を紹介します。どもる僕たちは、自分たちの吃音について、これまでの「治す・改善する」ではなく、「共に豊かに生きる」を大切にしていこうと活動を続けていました。そして、自分たちの子どもの頃を振り返り、どもる子どものために何かできないかと、吃音親子サマーキャンプを始めたのです。「治るもの、治すべきもの」と思ってきた僕たちは、そのために悩み、現在のどもる自分を否定し、つらい学童期を送りました。そんな思いをしてほしくないと思い、僕たちならではのキャンプを始めました。早期に治療するのではなく、早期に、自分がどもるということを自覚することで、どもりながらも豊かな人生を送ることができると伝えたかったからです。
 今、僕たちには、ことばの教室の教員の大勢の仲間がいます。僕たちの体験と、ことばの教室担当者の実践とをコラボさせて、どもる子どもたちへメッセージを送り続けています。

 
どもる子どもの早期自覚教育
                          伊藤伸二
 盛岡市で開かれた日本公衆衛生学会で興味ある2つの発表があった。(1991.10,16)禁煙教育と性教育に関してである。
 喫煙経験者の低年齢化が進んでいる。中学校ではたばこを吸う教師が多い学校ほど、また、両親、兄弟など近親者や友人がたばこを吸う環境にある生徒ほど喫煙経験者が多いことも報告された。この状況の中で、小学校からの禁煙教育の必要性が叫ばれている。
 関西のある小学校でスライドやビデオを使っての取り組みがなされ、5年生の女子は次のような感想を寄せている。『たばこを吸うと体に悪いことは知っていましたが、けむりを吸っただけでも、がんになったりする確率が高いと聞いてびっくりしました。今までもお父さんに「たばこをやめたら」と言ってきたけれど、今日帰ったら「家族のためにもやめて」と言います』
 また、現代の母親の大半が性教育は小学校3・4年生までに始めるべきだと考えるなど親の意識の変化が報告された。家庭内で性の話がタブー視された一昔前から考えると大きな変化だと言える。また、望まない妊娠をし、中絶する少女たちの増加や子どもの性意識や性行動の変化を受けて、来年度からは、生活科・理科の教育の中に性教育が入ってくる。性の管理ではなく、本来の豊かな性を教えることが必要だとする教師の動きも出始めている。
 これら早期教育の視点からとらえるとき、どもる子どもの教育の実態はどうであろうか。
 今夏開かれた吃音親子サマーキャンプで中2の子どもを持つ父親から次のような発言があった。
 『小学校の2年からことばの教室に通っているが、ことばの教室の先生は「ちょっと言いにくいからそれをスムーズになるために教室に来るのやで」と子どもに説明してくれました。何年も通級しても変わらないので子どもは「こんなにしているのになんで治らないのや」と言うようになり、6年生になったら「こんなに来ているのに、普通の病気でもこんなに長くない」と行かなくなりました。そのときは、ことばの教室の先生からは子どもに説明がありませんでした。家庭の中でも、どもりについて話題にするのを避けてきました。これからどう対応したらいいでしょうか…』
 家庭の中でも、またことばの教室の中でも、吃音が直接の話題になっていない実状が話された。

子どものどもり表紙 幼児期の吃音は、本人にどもりを意識させないようにすることが治療の眼目です。
 「子どもの面前で、ことばの問題を話題にしないようにします」
 「子どもにことばの異常を意識させないよう工夫することによって悪循環が進むのを防ぎ、吃音の問題が自然に衰え、通過するのを待ちます」
 学齢期の吃音は、教師や友だちの態度や考え方が、子どもの行動に大変大きな影響力をもちます。教師や友だちの協力が絶対に必要になります。
 「自分のことばの問題を進んで人に打ち明けるよう励ましましょう」
  『子どものどもり』(平井昌夫・田口恒夫・大熊喜代松・笹沼澄子共著、日本文化科学社1963年)

 幼児期には吃音を意識させないようにと、ひたすら隠し、話題にのぼらなかった問題を、学齢期になれば急に誰かに話せるようになるだろうか。
 親も、指導する側も「どもりを治したい」との本音を持ち、治るならと建前で「どもってもいいよ」と励ます。敏感な子どもであれば、本音と建前を見破ってしまうであろう。自分らしくよりよく生きるためには、どもる自己を肯定して生きることが大切だが、自己肯定する態度の育成はできるだけ早期に始めた方が効果がある。どもっている子どものそのままを本音で受け入れ、吃音のことをオープンに話していくことを早期にする必要がある。
 子どもの頃、母親にも先生にも友達にも、どもることを話題にできず、一人で悩んでいた。誰かに話したかったという成人のどもる人は多い。吃音をできるだけ意識させない接し方でなく、吃音をオープンに話すことで、自覚をうながすことがむしろ必要なのではないか。
 私たちは、吃音の早期治療ではなく、どもる子どもの早期自覚教育を提唱し、その教材作りやプログラム化の取り組みを開始したい。そのとき、禁煙教育や性教育の取り組みや教材作りに学ぶべきものはあるかもしれない。 1991.10.31


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2021/1/18