昨日の続きです。僕が担当した講座「どもり内観」の2つめのバージョンです。どもりそのものに対して、「してもらったこと」、「して返したこと」「迷惑をかけたこと」を振り返ります。どもりを「どもりさん」と呼んで外在化します。それだけでどもりが違ったもののように感じられるから不思議だと参加者が言っていました。
 随分前から、僕たちはナラティヴ・アプローチ的な取り組みをしてきたことになります。実際に「どもり内観」で自分の吃音を違った角度から捉えなおし、他の参加者の「どもり内観」の話を聞くことで、これまでもっていた吃音の支配的な物語(ドミナント・ストーリー)から、オルタナティヴ・ストーリーに変わったという人は少なくありません。
 「どもりさんにしてもらったこと」を話す時のみんなの表情は、「どもり自慢」をしているようで、とても楽しいものです。参加者の声を紹介します。

 
どもりに「してもらったこと」、どもりに「して返したこと」、どもりに「迷惑をかけたこと」を考えて下さい。

 まず、「どもりさんに、してもらったこと」

・どもったとき、相手の反応によって相手がどんな人なのかがわかりやすいので、人格判断をさせてもらっている。
伊藤 なるほど、面接の時に、私たちがどもったとき、面接官がとのような反応をするかで、その人の人間性を、どもる僕たちが判断できるのですね。

・飛び込み営業をする時、吃音の発声練習だと思ってやると、どんどん営業成績がよくなった。聞き返されるとどもるので嫌だから、声も大きくなり、ゆっくりと言い、滑舌もよくなった。
伊藤 聞き返されるが嫌だという人は多いのですが、聞き返されないように丁寧に言うのもひとつの手ですね。また、聞き返されるのをみんなは嫌がりますが、闇き返されたらチャンスだと考えることもできます。話の内容や、自分に関心があるから、聞き返してくれるわけで、普段よりは大き目にゆっくりしゃべればいいので、聞き返されることをありがたいと思えば、聞き返されることにうろたえなくてすみます。聞き返されることは、どもる人にとってはすごく有利だと考えたらいい。

・どもりのおかげで他の悩みが少なくなった。小さい時に恥ずかしい思いをいっぱいしてきているので、それを思い出したら「こんなことぐらい」となって、積極的になれた。
・注文のときなど、言いやすいものを中心に選ぶので、選択肢が少なくなって選びやすい。・言い換えをよくするので、ことばの意味を考えるようになった。

・いろいろ勉強できたのは、どもりのおかげだと思う。他の領域の専門家だけでなく、谷川俊太郎さんや鴻上さんなどの著名人と一緒に話をしたり、飲むことができたのもどもりだったからだ。これまで知らなかった世界が広がった。また、「自分を語れることがある」ということに気づいた。特に自分の子どもに対しても、普通はあまり自分のことを話すことはなかなかできないだろうと思うけれど、どもりがあるおかげで、どもる自分を語ることができている。

・「自分の世界、我の世界」がすごく強くなった。もしどもりじゃなかったら、つき合いたくない友達の誘いにものっていたかもしれない。でも、どもってまで、つまらない人とのつき合いはしたくないと思うので、煩わしい人間関係は断って、「我の世界」を広げることができた。
伊藤 おもしろいですね。「我々の世界」ではハンディがあるので、そこそこにしておいて、自分は何が好きなのか、何に喜びを求めるのかという「我の世界」を大事にするのはいいね。どもる人で、活躍している著名人はいっぱいいる。どもりという、ある意味ハンディがあるから、その人たちは、自分の世界を耕していった人でしょう。真継伸彦さんや重松清さんなどの小説家は特にそうでしょう。どもりに悩むことで、自分の内面を深く掘り下げることにつながることはあるけれど、悩み方が下手だと、せっかくの自分の内面世界を耕さずに終わってしまう。

・どもりで悩んできた経験があるので、悩みに対して強くなった。

・大阪吃音教室に参加するようになって、同じどもる人でも、症状もバラバラだし、悩み方も悩むポイントも違い、一人一人聞いてみないと分からないということが分かった。
伊藤 本当にその通りで、言語聴覚士養成の専門学校の学生が、自分には経験がないからどもる人の気持ちが分からないというけれど、そうじゃない。同じようにどもるからといって、どもる人同士が分かり合えるかというと、そんなことはない。むしろ、どもらないけれど共感能力のある人が、どもる人の悩みをとても理解している。

・話すことよりも、聞くことの大切さを教えてもらった。
・同じ職場で、他の人よりも、どもる人どうし仲間意識が持てた。

伊藤 僕は、どもりに「してもらったこと」は山ほどあります。物事を深く考える力がついたし、内面の世界を書く力もついた。孤独で生きたことによって、ひとりで考え、ひとりで行動する孤独の力もついた。いろいろな力が身について、世界大会など人にはできない経験をした。どもりじゃなかったらどんな人生を送ったんだろうなあと思う。
(つづく)2006.2.24


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/11/29