吃音と正しくつき合う吃音講座 論理療法2−論理的行動訓練−(3)

 大阪吃音教室の講座用に、当初僕が作った資料を紹介してきました。ずいぶん前に書いたものですが、読み返してみて、今でも十分に活用できると思いました。僕は、21歳の秋には、吃音に関してはほどんど悩みはなくなりましたが、人生では様々な病気、挫折、悩みに遭遇してきました。大きな落ち込みになりそうなことも、論理療法で考えてみると、悩みは完全にはなくならないものの、自分でも耐えられる程度に和らぎました。論理療法は何事も楽天的に考えようとするような、ポジティブシンキングとは違います。現実をしっかりとみつめ、ある出来事によって沸いてきた感情や思考が、適切で論理的か、事実に即したものか、自分を幸せにするものかを吟味する習慣をつけることです。
 たとえば、強い不安が気がかりに、怒りが不愉快に、落ち込みが残念程度に軽くなれば、次の行動を起こすことができます。考え方を変えるだけでなく、行動を起こそうとの提案です。吃音に限らず、様々な場面で活用できます。是非、論理療法を活用して下さい。
やわらかに生きる表紙 論理療法についての書籍はたくさんありますが、創始者のアルバート・エリスから直接学んだ筑波大学名誉教授の石隈利紀さんが、1999年秋、僕たちの2泊3日のワークショップに来て下さったときの記録が一番分かりやすいと思います。吃音中心に話がすすみますので、どもる人本人、どもる子どもを支援する、ことばの教室の先生や言語聴覚士に役立つと思います。
 もちろん、論理療法は吃音のためのものではないので、吃音とは関係ない人にも、当然役に立ちます。ストレスの多い社会になった現代こそ、論理療法は必要な考え方だと思います。是非、お読み下さい。
 『やわらかに生きる−論理療法と吃音に学ぶ−』
        (石隈利紀・伊藤伸二 金子書房 2005年)    

吃音と正しくつき合う吃音講座 論理療法2−論理的行動訓練−
   1 はじめに
   2 べきを探せ、ねばならないを発見せよ
   3 あえて行動を起こしてみよ
   4 自分を非難するな
   5 適切な感情と不適切な感情を区別せよ
   6 想像力を活用せよ
   7 おわりに

6 想像力を活用せよ
 もっと論理的に考え、心が動揺するのを少なくするために論理−情動心像法(REI、rational-emotive imagery)を試みてみよう。

1) 何か不愉快な事実に直面したか(Aの段階)、あるいは将来起こりそうなできごとについて細部にいたるまで明瞭に思い浮かべてみる。
 [例]仕事中に失敗し、上司に厳しく叱責された場面にを細かく明瞭に思い浮かべる。

2) 不安や憂鬱、恥ずかしさや憎しみなど心のおもむくまま、わきあがってくる不快感を味わう。(Cの段階)
 心に動揺を感じたら、しばらくの間それを身をもって経験する。避けずにそれに直面し味わう。
 [例]失敗と叱責を思い浮かべるにつれ、自分の心に憂鬱や卑屈の感情が起こったらその感情を味わい、しばらくの間それを受け入れる。

3) 自分の心の動揺の原因となっている非論理的な考え方(B)をさがしあてる。必ず発見できると信じて行う。自分の考え方の歪みが心の乱れの原因なのだから発見できるまであくまでもがんばる。手がかりは、そういう考え方には『べきである』『ねばならない』等の独断的な先入観が含まれているからそれを捜す。
 [例]次のような非論理的な考え方を捜す
  ・仕事をしくじってこっぴどく叱られるとは何と恐ろしいことだ
  ・この調子で叱られ続けたらもうおしまいだ
  ・この調子でいくとクビになるかもしれない
  ・あんな叱り方にはとても耐えられない

4) 非論理的な考え方を発見できたら、この自分が作り上げた愚かな考え方に反論を加えていく。自分はあんな考え方を信じる必要はないし、耐えることもできる。失敗と叱責についてももっと違う考え方もできるし、愚かしい考え方を捨てることができる。このような自分を可能な限り明瞭に強く想像してみる。
 [例]次のような反論をしてみる。
  ・失敗をし、叱られたからといっても少々気分が悪く、不都合で不利益なだけで、それを恐ろしいまでと考える必要はない。
  ・上司が叱ったからといってそのためにクビになるなんてことはあるはずがない。
  ・もしクビになったとしても、他に自分に合う良い職を捜せばいいだけのことだ
  ・私だって失敗し、叱られるのはいやだけど耐えていくことはできる。

 このように考え、信じている自分をできるだけはっきりと想像してみる。つまり、口うるさい上司に対しても適切な対応をすること、失敗についてもよりよい解決策がないか探してみること、失敗についてもそれを破局とは考えずに解決の必要な課題として受けとめるとともに現実的な可能性を追求すること、仕事の上での不手際があったとしても自己を素直に受け入れることだ。
 このように肯定的な思考、想像の訓練を重ねていく。そして事態に直面しても憂鬱や自己非難ではなく、不快と関心のみを感じるようになるまで続ける。

7 おわりに
 論理療法は、吃音の療法ではないが、不安、恐れ、自己蔑視、憂鬱、罪の意識等の感情を重視し、さらにそれに伴う行動も重視しているため、吃音には最適の対処法といっていいほどだ。
 感情は思考から生じるということは、その感情は思考によってコントロールできることだ。不安や恐れが話す場面に特化され、病的なものではないどもる人にとって比較的取り組みやすい。ここで紹介した事例は、全て吃音にあてはめて言い換えることができる。1日10分でもこの思考法を訓練していけば、きっと大きな変化が起こるだろう。(了)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/11/12