第30回吃音親子サマーキャンプは、2回にわたり、特集しました。今日は、最後の巻頭言です。月刊紙『スタタリング・ナウ』(日本吃音臨床研究会発行・年間購読費5000円)の僕の巻頭言を中心に、吃音親子サマーキャンプについて紹介してきました。31回が中止になりましたので、今回で終了ですが、吃音親子サマーキャンプについては、もう少し紹介していこうと思います。

第30回吃音親子サマーキャンプ 2019年
  会場    滋賀県彦根市荒神山自然の家
  参加者数  114名
  芝居    コニマーラのロバ

第30回吃音親子サマーキャンプが特集されたニュースレターの巻頭言

  
特別な場
      日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 「吃音親子サマーキャンプは特別だ、と伊藤さんは時々言うけれど、何が特別なのですか」
 昨年のキャンプの最終セッションで、30年間続いた吃音親子サマーキャンプとは何かについて話し合っている時、渡辺貴裕さんから聞かれた。
 27年前にアメリカで開かれた、国際吃音学会でキャンプについて発表した時、多くの吃音研究者が、吃音に向き合う話し合いと演劇を中心にしたキャンプは聞いたことがないと注目してくれた。6度参加している吃音世界大会でも、子どもたちが出会える場を提供するキャンプの報告はあったが、「どもっていても大丈夫」という価値観を子どもたちに示す明確な意図をもち、話し合いと演劇が中心の吃音キャンプは世界的にも例がなかった。
 私は、島根、岡山、静岡、群馬、沖縄、千葉で開かれる吃音キャンプに講師として招かれ参加している。子どもに話す場面もあるが、主として保護者への講演や学習会などのためだ。それらは1泊2日か、1日の日程で行われる。私たちのように、90分の話し合い、120分の話し合い、その間に、ひとりで吃音に向き合う90分の作文を挟むことや、演劇の稽古をし、上演まで行き着くことができるのは、日程が3日間あるからだ。
 25年間全く変わっていない、この吃音に向き合うために3日間を有効に使ったプログラムは、世界に例がないほどに特別なのだと思う。
 「何が特別なのか」について、このプログラムについて話した後に、もうひとつ大事な特別なことを話し損ねたことに気づいた。それは、このプログラムを支え続けてきたスタッフのことだ。
 世界中で行われている、同じような体験をしている子ども同士の出会いは、それだけでも、どもる子どもに「私ひとりではなかった」と安心感をもつ大きな意義がある。しかし、それだけでは、不十分で、「吃音は劣ったものでも、悪いものでもない」との価値観をもつことが大事だと私は考えてきた。だから、セルフヘルプグループの意義である、3つの分かち合い、《気持ちの分かち合い》《情報の分かち合い》《価値観の分かち合い》の中でも、価値観の分かち合いをもっとも重視していた。その私たちには、吃音に特化した話し合いが不可欠だった。話し合いには、ファシリテーターの役割はとても大きい。子どもたちだけでの話し合いでは難しいことは、私たちは何度も経験している。子どもたちの話し合いのグループには、ことばの教室の教師や言語聴覚士などの専門家と、成人のどもる人が必ず入る。話を聞き、質問し、整理し、深めるためには、専門的な知識や、成人のどもる人の体験が役立つのだ。
 また、私たちが目指す劇の稽古に取り組むには、竹内敏晴さんのからだとことばのレッスンを経験し、劇の指導ができるスタッフが必要だ。幸い、竹内さんの後を継いで、演出や稽古の手順を示してくれる渡辺貴裕さんや、竹内レッスン経験者が大阪には数多くいる。だから、子どもと一緒に楽しく表現活動に取り組むことができる。7月、その年に取り組む劇の事前合宿レッスンが大阪で行われる。合宿には大阪だけでなく千葉、神奈川など遠方からも参加する。
 このような3日間のプログラムに対応するには、大勢のスタッフが必要になる。果たして今年は何人集まってくれるか、毎年不安になるのだが、結局40名以上のスタッフが集まってくれる。大阪吃音教室のリーダー以外に、ことばの教室や支援学級の教師、言語聴覚士などの専門家が、沖縄や関東地方など全国から、全員が手弁当で、参加費を払って参加してくれる。当初はどもる子どもの指導に生かしたいと参加したことばの教室の教師や言語聴覚士も、吃音の豊かなテーマに惹かれて、今は自分のために参加していると言う。
 小学生で参加していた子どもが卒業して、スタッフとして戻ってきている。一緒に参加する親もスタッフも、ともに成長し、大きな吃音ファミリーになっている。「素の自分になれ、幸せな気持ちになれる、現代の奇跡のような空間だ」と言った人がいた。人を大切に想う人たちが集まる空間にいることが幸せだと思う人たちが、全国からスタッフとして集まる。やはり、特別なのだと思う。(了) (2020.1.20 )


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/10/19