鹿児島のことばの教室担当者である溝上茂樹さんによる、第28回吃音親子サマーキャンプの報告のつづきです。
 今日は、溝上さんが初めてサマーキャンプに参加したときの様子が書かれています。自分もどもる溝上さんは、サマーキャンプ初参加のとき、子どもも大人も自らの吃音と向き合い、しっかりと悩み、自分の問題として取り組んでいる姿に圧倒されます。
 そして、溝上さんも自分のことを語り、他者の語りを聞いて、様々な人の生き方に触れることができました。そのときのことを、溝上さんは、しっかりと吃音に向きあい、「どもりになれた」瞬間だったと表現しています。それからずっと、吃音親子サマーキャンプや、日本吃音臨床研究会の研修会に、毎年、遠く鹿児島から駆けつけてくれています。また、『親、教師、言語聴覚士が使える 吃音ワークブック』『どもる子どもとの対話〜ナラティヴ・アプローチがひきだす物語る力』などの編集会議に毎回欠かさず参加している、僕たちのプロジェクトの中心メンバーの一人です。
 
   
吃音親子サマーキャンプに導かれて(2)
      鹿児島市立名山小学校 ことばの教室 溝上茂樹

 転機となった吃音親子サマーキャンプ

 2008年、第19回吃音親子サマーキャンプに参加しました。初めての場所に行くのは苦手なので、サマーキャンプのことは知っていましたが、実際に行動を起こすのに3年かかりました。それも、ことばの教室の先輩が「あなたは、絶対行かないといけないよ」と私の不安を見抜いたかのように強く背中を押してくれたため、やっと参加しようと覚悟を決めることができました。
 参加する前になんとなくイメージしていた吃音親子サマーキャンプとは全く違いました。人数がとても多いのに、「出会いの広場」のゆるやかな、明るい雰囲気に初めての場所が苦手だった私もすぐに輪の中に入ることができました。そして、私が、ことばの教室の担当になってからもなかなか吃音と向き合えなかったのに、同学年の子どもの話し合い、作文の時間、劇の稽古を通して、徹底的に吃音と向き合うプログラムが組まれていました。これらのキャンプの柱となっている活動を通して子どもも大人も自らの吃音と向き合い、しっかりと悩み、自分の問題として取り組んでいる姿に圧倒されました。自分の吃音をありのままに口に出し、どもっても大丈夫と自然体で生きているその姿に、私自身も受け入れられている安心感と、どもりに向き合うことの心地よさに、何とも言えない魅力を感じ、心を揺さぶられました。子どもたちはそれまで私が考えていたような、かわいそうな弱い存在ではなく、むしろ尊敬できる存在でした。

 自分のことを語ることで、様々な考え方や生き方に触れることができる

 夕食後に始まった話し合いは、私と同じく初参加のことばの教室の教員の、栃木県宇都宮市の睫攅戚世気鵑函伊藤伸二さんが担当する、小学6年生8人のグループに入りました。運動会の係や委員会のことなどが話題になる中、Aさんが話し始めました。
 「私は、5年生の後半から学校を休んでいます。学校は嫌いでないし、友だちもたくさんいます。5年生で担任が替わり、一日に何回も当てるようになって、どもらないように話していたけれど、だんだん辛くなってきて、学校を休みたくなった。友だちは、私がどもることを知らないと思う。でも私は、自分がどもるのがイヤなんです」
 周りの子どもたちは、じっとその話を聞いた上で次々に発言していきます。「どもりを隠しても、どもりが治るわけではないから、僕はそうしない」「僕は、タイミングを掴んで話せばどもらないない」「僕は、隠そうと思っても、隠せないから、そのままどもる」。それぞれ自分の思いをことばにしていきます。
 初対面の子どもも多い中で、子どもたちにこのように語らせる力は何なのだろう。そうできる雰囲気が、このキャンプにあるのだと思いました。Aさんが学校に行ってもいいと思うのは、もう少し先のことだとしても、誰かに悩みを話していいこと、自分には伝える力があること、真剣に聞いてくれる人がいること、自分だけでなくみんなどもりと向き合って、いろいろあるけれど生活していること、それらのことに気づくだけで、何かが変わっていく気がしました。
 子どもたちとの話し合いに心を揺さぶられているところに、「明日、司会、やって」と1日目の話し合いが終わるときに、いきなり言われました。1日目の話し合いでは、私は、そうか、そうなんだと思って聞いているだけで済んでいました。いきなり司会をと言われて、「えええっー、初参加なのに」と思いましたが、断り切れず司会をすることになりました。
 2日目、不安を抱えながらスタートです。教員という職業柄、うまく話し合いを進めないといけないみたいな意識があって、どうしたらいいかなと思いながら、とりあえず子どもたちと同じように、自分のことを話しました。すると、それに触発されたように、子どもたちも自分のことを話し始めてくれたので、話し合いは進んでいきました。その経験から、教師である私も、どもる一人の参加者として自分のことを話すことは、とても大事なことなんだと実感しました。
 子どもたちは、初めてキャンプに参加した私を受け入れ、いろんなことを話してくれました。キャンプに参加し、吃音としっかり向き合う子どもたちの姿に接して、言語訓練をして吃音を治さなくても、吃音とともに豊かに生きていけるのだと強く思いました。ただそれをするためには、自分のことを語って、他者の語りを聞いて、様々な人の生き方に触れることが大切だと思いました。
 最終日、劇上演の後の最後の振り返りで、初参加の感想を求められた私は、3日間の体験をふりかえって話し始めたとき、思いがけず涙があふれてきました。大勢の前で涙を流している大人の姿を子どもたちはどう思ったのでしょう。私にとっても、参加する前には想像もできない自分の姿でした。吃音にきちんと向き合うことなくこれまで生きてきた私が、しっかりと吃音に向きあい、「どもりになれた」瞬間だったのでしょう。(2018.7.21)(つづく)
 

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/10/12