この年、吃音親子サマーキャンプは、20回の節目を迎えました。1990年、琵琶湖のほとり、和迩浜の民宿で始めたときは、まさかこんなに長く続くとは思いもしませんでした。20回を記念して、2種類の缶バッジを作りました。缶バッジに刻んだことばは、僕たちが、セルフヘルプグループで大切にしてきたことばです。

あなたはあなたのままでいい
あなたはひとりではない
あなたには力がある

変えることができるものは 変えていく勇気を
変えることができないものは それを受け入れる冷静さを
変えることができるかできないか それを見分ける知恵を

 もうひとつこの年の吃音親子サマーキャンプは、忘れられない特別のキャンプになりました。これまでサマーキャンプを支えてきて下さった竹内敏晴さんがキャンプが終わって1週間目の9月7日にお亡くなりになりました。芝居のための事前レッスンを竹内さんにしていただいた最後のキャンプでした。
 6月にガンが発見され、手術はしないで、最後までレッスンをすると聞かされていました。大阪の定例レッスンをこれまでどおり行い、僕たちのサマーキャンプ用の事前レッスンも合宿で行い、サマーキャンプと同じ日程で行われた東京での公開レッスンにも車いすで参加されました。サマーキャンプの最終日、竹内さんに向かって「竹内さーん」とみんなで大きな声で呼びかけ、拍手を届けたこと、よく覚えています。

第20回吃音親子サマーキャンプ 2009年

   会場    滋賀県彦根市荒神山自然の家
   参加者数  140名
   芝居    雪わたり(宮沢賢治:原作)

 第20回吃音親子サマーキャンプを特集したニュースレターの一面記事を紹介します。

  
吃音親子サマーキャンプ20年

             日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 1990年の夏はとても暑かった。
 冷房のない民宿の暑さと、初めてのどもる子どもとのキャンプの熱気は、私の記憶の中で決して色あせることはない。あの場、あの空気、スタッフの熱い思い、琵琶湖の静かな湖面とともに。
 1965年、民間吃音矯正所・東京正生学院で、初めて同じようにどもる人とたくさん出会えたとき、「吃音に悩んでいるのは私だけではなかった」という、いいようのない安心感が広がった。そして、せき止められていたダムの水が、一気に川に流れ出すように、どもることの苦しみ、悲しみ、怒りなど、これまで押さえ込んでいた吃音への思いを話した。そして、それを「僕も同じだったよ」とうなずき、一所懸命聞いてくれる仲間と出会えた。
 あのときのうれしさ、喜びは、からだにしみていて、今でも、決して忘れることはない。
 「僕も、生きていていいんだ」
 こう心底思えるほどに、それまでの私は、どもりに傷つき、どもりに振り回され、孤独な、苦悩の学童期・思春期を送っていたのだった。
 1965年秋、私は11名の仲間とどもる人のセルフヘルプグループを作った。様々な活動を共にするたくさんのいい仲間と出会った。いろんな活動を力の限り続けた。そして、いつの間にか「どもりでよかった」とさえ思うようになった。
 セルフヘルプグループでたくさんのことを学び経験し、今は幸せだが、私の吃音のために失われた学童期・思春期はもう戻ってこない。それがとても悔しい。今、どもっている子どもには、私のような、悔しい学童期・思春期を送ってほしくない。私が経験した安心感や喜びを子どもたちにも味わってほしい。そして、どもりながら、楽しい豊かな人生が送れることを知って欲しい。これがスタートだった。
 なぜ、20年も吃音親子サマーキャンプは続いたのだろう。仕事として、またその延長としてしているわけはない。誰かに命じられて、また、責任感で続けているのでもない。いつキャンプをやめても誰からも責められることはない。いつでもやめることができるから続いているのだともいえる。
 あの場が、あの場に流れている空気が、その場をつくりだしている人の輪が好きなのだ。
 あの場、あのときの笑顔、笑い声が好きなのだ。
 話し合いの中で苦しかったことを思い出し、ぽろぽろと涙を流す。うれしくて泣いてしまう。その涙をしっかりと受け止める静かさが好きなのだ。
 そのような場が好きだという人たちが集まってくることがうれしい。
 今年もスタッフが集まってくれるだろうか、あの人は来てくれるだろうか。私は毎年不安になる。そして、その人たちの参加申し込みが届くようになって、さあ、今年もやれるとほっとする。
 今年も40名ほどがスタッフとして集まって下さった。不思議に思う。遠くから交通費を使って、家族を説得し、さまざまな事情を乗り越えてスタッフとして参加して下さる人たち。そうだ、この人たちがいてくれたから、20年間続けることができたのだ。
 キャンプの終わりには、いつもスタッフを紹介するために立ってもらう。子どもと親を囲むように立つ人たちに、本当にありがたいと思う。人間は一人では何もできない。ひとりひとりの力は小さくても、いい仲間が集まれば、大きな力になる。そして、こんなにいい空間を、知らず知らずのうちに、自分たちでも気づかないうちに作り出している。
 この仲間たちに感謝するとともに、今回は、特別の感慨深い思いがあった。私たちの心意気を感じとって、キャンプのために毎年脚本をつくり、演出指導をして下さった竹内敏晴さんの劇を上演する最後のキャンプになったからだ。
 6月初めにがんが発見されながら、脚本を完成させ、劇のためのレッスンをして下さった。キャンプでは、竹内敏晴さんに感謝の気持ちを込めて、大きな拍手をしたのだった。その役割を来年からは渡辺貴裕さんが継いで下さるのもうれしい。(2009.11)
 

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/9/28