この年、前年度に、あの感動的なあいさつをして卒業した卒業生が、スタッフとして参加しました。卒業式を始めた頃は、サマーキャンプに高校3年生まで参加して、卒業証書を受け取るというのが、子どもたちのゴールだったようですが、どうやら、卒業式をして、その後、スタッフとしてサマーキャンプに参加するということが究極のゴールになったようです。
 卒業式であいさつをする高校3年生を、小さい子も含めてみんな見ています。メモも持たず、そのとき浮かんでくる思いを大切にしながら話す先輩の姿は、子どもたちの心に刻まれるのでしょう。少し年上のモデルを見て、自分をみつめ直し、がんばっていこうと思う、そんないい文化が育っているなあと思います。先生でもなく師匠でもなく、少し年上の先輩をメンターといいますが、その役割を果たしてくれているのです。
 この年は、出会いの広場を担当し、一生懸命リードしていた様子が特集記事に書かれています。話し合いでも、でしゃばることなく、しかし、問われれば、きちんと自分のことばで自分の体験を話していたということも。こうして吃音親子サマーキャンプの文化が受け継がれていっているのです。

第17回吃音親子サマーキャンプ 2006年
   会場   滋賀県彦根市荒神山自然の家
   参加者数 143名
   芝居   コニマーラのロバ(原作:エリナー・ファージョン) 

  
受け継がれる

               日本吃音臨床研究会代表  伊藤伸二

 吃音親子サマーキャンプは、17年の歴史の中で、熟成し、また新たな段階へと飛躍した。そんな思いを強く持ったキャンプだった。
 昨年、東京のTBS放送のテレビカメラが入り、高校生の感動の卒業式が、TBSの番組「報道の魂」「ニュースバード・ニュースの視点」で映像として流れた。多くの方々から感想をいただいた。その中で、今、いろんな問題を抱え、難しい位置にいる思春期の高校生たちが、人前で感極まって泣いたり、ひとことひとことかみしめるように、自分を語る姿が印象的だったとの声が多かった。
 その彼たちが、その後どうしているか報告できるのがうれしい。卒業生はそれぞれ進学し、全員がスタッフ見習いとして参加した。それに一人が加わり、5人が一度にキャンプ卒業生としてスタッフに申し込んできたとき、とてもうれしい反面、キャンプ自体がどのような影響を受けるか、一抹の不安もあった。
 これまでのスタッフは、長年一緒に取り組んでいる、どもる人のセルフヘルプグループである、大阪スタタリングプロジェクトの仲間たちと、私たちの活動に共感して下さる、ことばの教室の教師や言語聴覚士。初めて参加する人も臨床家ばかりだ。正式なプログラムがスタートする前の一時間の打ち合わせだけで、キャンプの運営はスムーズに進行していく。昨年まで、夜遅くまで話していて、叱られていた子どもたちが5人も同時にスタッフ会議に参加する様子はなかなかイメージできなかった。キャンプの運営だけでなく、5人のスタッフ見習いがどう育っていくのか、話し合いのグループにどう入れるか、正直言って心配だったし、例年になく苦労した。
 しかし、そのような不安は、最初のプログラム「出会いの広場」で吹き飛んだ。これまでベテランが担当していた、キャンプにとって大きな意味をもつ「出会いの広場」をすべて若いスタッフに任せた。それぞれが自覚をもって140名の参加者をさわやかにリードしていく。緊張していた参加者も、若いスタッフたちが一所懸命に関わる姿に、優しいまなざしを送っている。
 子どもの話し合いにも、親の話し合いにも、若いスタッフを入れた。ただ子どもや親の話し合いの場に立ち会うだけでも、彼たちにとって意味あることだと考えたからだ。ところが、子どもたちのグループでも親のグループでも、彼たちは出過ぎることなく、必要があれば発言をしていた。何人かのファシリテーターが、親にとっても子どもにとっても、身近なモデルの発言は興味をもって受け取られていたと報告した。
 遊びや劇の練習では、積極的に子どもたちをリードしていた。若いスタッフのこの姿勢に影響されたのか、参加者の高校生が小学生の子どもたちの面倒を実によくみていた。中学生や高校生は自分のことでまだ精一杯のところがあるし、思春期特有の照れもある。それなのに、小さな子どもと楽しくかかわる姿は特に今年目立っていた。
 島根県から高校生の息子と参加した母親がこう感想を寄せた。
 「今回のキャンプを一言で言うと、幼児は小学生の、小学生は中学生の、中学生は高校生の、そして我が息子は大学生や社会人のモデルを身近に見ることができ、これからのおよその道筋を見い出すことができる、そんなキャンプだと思いました。そして、モデルを見つけたのは、子どもだけでなく、親もモデルを見て考えることができました。先輩のお母さんの話を聞き、ある部分は安心し、納得し、また、まだまだ未熟な母親を実感しました。すべて先回りして助けることなどできないので、試練はたくさんあるが、助けてくれる人を信じてがんばってと祈るような気持ちも沸いてきました」
 続けて参加している子どもたちにとっては、キャンプの卒業式を迎え、スタッフになることが、キャンプでの一つのゴールになっているようだ。まだまだ私たちは続けなくてはいけない。(了) (2006.9.20)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/9/17