第16回吃音親子サマーキャンプの紹介をしています。この年、4人の卒業生がいたと書きました。そのうちの一人が、キャンプ2日目の作文教室で書いた作文を紹介します。正直に綴られた作文は、卒業式の中でも読み上げました。今までどうにかなってきたのだから、これからもやっていけると信じているという結びのことばは、健康生成論の処理可能感覚そのものです。
 もうひとり、初参加のお母さんの感想も紹介します。親の学習会で学んだこと、親同士の話し合いの中で聞いたこと、キャンプ中のどもる大人の姿を見たこと、それらを本当に素直に受け止めて、息子を応援したいと書かれています。この人のもつ素直さが、変わるきっかけになったのだと思いました。

第16回吃音親子サマーキャンプ 2005年
  会場    滋賀県彦根市荒神山自然の家
  参加者数  145名
  芝居    森は生きている(サムイル・マルシャーク)


  
やっぱサマキャンの力はすごい
                     坂上 菜美(高校3年生)
 サマーキャンプに小4で初めて参加してから早くも卒業という時期を迎えてしまいました。今までの自分の吃音を振り返ってみると、いろいろなことがあったなあと思います。小さいときに、友達の家のインターホンを押したときに、自分の名前が言えなくて泣いて家まで帰ったこと。小4で代表委員に立候補し、全校生徒の前で自分の名前がなかなか言えなくて泣いたこと。小学校の音読で最初の音がなかなか出せなくてすぐ終わるような文章を何分もかかってしまい、その場から逃げ出したかったこと。他にもここに書ききれないくらい吃音で嫌だったこと、苦しかったこと、泣いたことはいっぱいありました。そのたびに吃音のことを憎んでたし、吃音じゃなかったらこんなに苦しい思いはしなかったのに」と、何度も思っていました。でもそのたびに吃音サマーキャンプのことを思い出して、「自分だけじゃない。みんなもがんばってるんだ」と思って、サマーキャンプに早く行きたい気持ちでいつもいっぱいでした。
 サマーキャンプに参加してからも中学くらいまでは、吃音の原因がどうとか、治したいという気持ちが全くなかったわけではなかったけど、今は原因とかどうでもいいし、治したいとは思いません。それでも日常では無意識に言いやすいことばに換えて喋ってるんですけどね。
 それでも吃音に対して前と考えが変わったのは、サマーキャンプのおかげだと思っています。これから吃音で嫌なことは、いっっっっぱいあると思います。人前でも堂々とどもれるのにはまだ勇気がいるし、吃音から逃げることができないけれど、今までどうにかなってきたんだから、これからだって失敗はいっぱいするだろうけど、やっていけると思っています。そう、信じています。



   
心から認め、応援したい
                    秋山慶子(小学3年生の母親)

 キャンプに参加して肩の荷が降りたような、気が楽にもてるようになりました。本人には、この吃音が治らないかもしれないということは前から伝えてありました。私もそれを受け入れていこうと思っていましたが、やはり気になるものです。完全に治らなくても、ましにはなるのでは、という気持ちは残っていました。でも、このキャンプで親との語り合いの中で、自分よりもはるかに深い悩みや、高学年の子を持つ方の体験話、また親本人も吃音者である人の経験や気持ちの持ち方、考え方などを聞かせてもらい、体から余計な力が抜けていったように感じました。自分の子も、どもりがあってもなんとかやっていくだろうと思えるようになりました。「あなたはあなたのままでいい。あなたには力がある」ということばを素直に受け入れることができました。親の学習会では、子どもを信じ、悩んでも大丈夫と思うこと、子どもは悩みの中からいろんな力をつけていくものなので、先回りして解決してはいけないと聞きました。また、私は子どもがどもることがハンディだと思い、自信を持たせるために何かをやらせたいと思っていましたが、親から何かをさせるのはよくないことで、本人から進んでするまで待つ方がよいと聞きました。子どもを信じて待つということは、忍耐のいることだと思いますが、子どもが吃音とちゃんと向き合い、本当の自信を持つことができるように、私も努力をしたいと思います。本人もきっとがんばっているのだと思います。朝の健康観察のときの「はい、元気です」がどもって言いにくいと言っている子ども。それでも朝、元気に「行ってきます」と言って出かけていきます。私から見れば些細なことでも、本人にとっては重大事項なのでしょう。心から認め、応援してあげたいと思っています。
 本人もキャンプはとても楽しかったと言っています。同じ学年のどもる子どもたちとの話し合いで、どんなふうに感じたのか知りたいところですが、本人は何も言ってくれません。でも、キャンプ後は、自分からどもることを話題にしたり、友達から言われて嫌だったときのことを聞かせてくれました。初めて聞きました。少し明るくなったように感じます。
 これから先、人生の節目節目で、困難なことに出くわすことになると思うけれど、勇気をもって強い心で乗り越えていってくれることを願っています。私もそのときどきに力になれるように勉強し続けていきたいと思います。(了)  (2005.10.22)


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/9/14