第17回 吃音キャンプOKAYAMA 保護者からの質問に答えて5

吃音キャンプOKAYAMAの最後のセッションは、保護者から出された質問に答えました。これが最後の質問です。

 
子どもたちが伊藤さんに質問し、質問に答えるプログラムがあったが、今回初めて参加した子どもたちが、どんな表情だったか、子どもたちの様子を聞かせてほしい。


 今回が初めての子どもも多かったのですが、僕が「子どものとき、こんなだったよ」と言うと、「えーっ、そうなん」と言って反応してくれたり、ちゃんと手を挙げて発言したりしていました。これが、場の力なのでしょう。皆さんは、親としてできる最良のことを、今、していると思います。ここへ連れてくるだけで、それだけでいい。親としての責任をきちんと果たしていると思います。後は、子どもが、このような場に、空間に置かれることで、また仲間がいることで安心して、解放されていくと思います。
 僕がどもりから解放される一番のきっかけは、どもる人に声をかけられ、僕もどもってしゃべったこと、どもることが普通に認められて、安全に過ごせたことだったと思います。今、安全基地というか、本当に安心できる場がだんだんなくなってきています。家族ですら、安全ではないという時代になってきました。
 第二次世界大戦のとき、ムーミンのお話を作ったトーベ・ヤンソンが、人間にとって大切な3つの「間」と言ったんだけど、何だと思いますか。人が平和に暮らせるための特に大事なものです。
参加者 仲間。
伊藤 そう、ひとつは仲間です。そして、空間。これがムーミン谷です。ここに行ったら、疲れた心も癒やされるという安全基地がないと、人間は生きていけない。安心できる場が必要なのに、今、吃音の世界では、幼児吃音の臨床として、リッカムプログラムが流行始めています。言語聴覚士が、幼児期に家で、母親に、子どもへの言語訓練をしろと言うんです。子どもが、「りりりりんご」とどもったら、「りんごでしょ」と言い直しをさせる。どもらなかったら、「ちゃんとしゃべれたね」と褒める。このオーストラリア発のリッカムプログラムを、言語聴覚士が信じて、日本でも研修会が開かれています。ほんとに腹立たしいことです。家庭は、どんなにどもってもいいはずの場所なんです。ほんとの思いは、どもりながらでも伝えてもらいたい。僕は、教師がいる中で、親が見届ける中で、いろんなことを経験して、嫌な思いもしながら、そこからサバイバルしていくことが必要だと思います。ことばの教室や家庭が、安全基地になって、ストレスのある学校生活に出て行くのです。どもっても安心だという安全基地がないと人間は生きていけないのです。
 そして、もうひとつの「間」は、時間です。ムーミンのお話はフィンランドで、夏と冬と、全く違う季節を生きなればいけない。それを時間と言ったんですが、僕たちは、学童期には学童期の、思春期には思春期の課題があると言います。2000年にノーベル経済学賞をもらった、ヘックマンという人が、子どもの頃に、非認知能力を育てることが、経済効率としていいと言っています。大人になってからでは遅いのです。幼児期に、忍耐強くがんばる力や、主体的に自分のことを考える力が育った人たちは、成長して、仕事に就いて、税金も払う人になる。だから経済的に効率がいいと言うのです。それで経済学賞をもらったんです。認知能力は、学力やIQなど、測れるものですが、非認知能力は、誠実さ、忍耐強さ、自分をコントロールする力、優しさ、責任感などで、測ることができません。僕は、たくさんの人と出会ってきましたが、それなりにきちんと仕事をしている人たちは、人間力ができている。子どもの頃に、厳しいしつけではなく、それなりのしつけを受けて、人間としての最低限のマナーを身につけている人は、就職して、困難に遭ったとしても、周りは助けてくれるし、それを信じることができる。幼児期には幼児期に、学童期には学童期に、思春期には思春期に育てなければならない課題があると言いました。僕は、非認知能力が育つ小学校2年生まで、ほんとに元気で活発で、想像力があり、豊かな感受性をもった少年でした。それが、吃音は悪い、劣っている、どもっている僕はだめだというレッテルを教師から貼られたことによって、塵が積もっていって、どうしようもないに人間なってしまった。けれど、塵を取り払っていけば、3歳から小学校2年生までの元気で活発でユーモアにあふれた活力のある人間が戻ってきた、そんな感覚を持っています。
 皆さんが、子どもを連れてきたこのキャンプの空間は、全体で醸し出される癒やしの効果、成長の効果など、すごい場の力を持っていると思います。だから、初めて参加した子も、手を挙げて発言するし、真剣に僕の話を聞いてくれます。仲間、空間、時間があり、ちょっと先行くメンターという先輩もいます。教師ではないけれど、教師に近い先輩が言ってくれることはとても役に立つと思います。僕は、東京正生学院の30日間でどもれる体になったことも大きかったけれど、言友会というセルフヘルプグループを作って、そこに、尊敬できる、憧れる先輩がいたことも大きかった。こういうどもる人間になりたいなという目標の人だった。そういう意味では、ここのキャンプでは、小学生低学年には高学年の先輩がいるし、植山さんや大山さん、僕のような、どもりながらも、ちゃんと生きている大人がいます。どもりながらでも、ちゃんと大人になって、幸せに生きていけるんだという具体的な見本を示すことができるのです。
友浦 伊藤先生の質問コーナーを終わります。
伊藤 吃音については、日本吃音臨床研究会のホームページを是非見て下さい。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/12/9