日本コミュニケーション障害学会での発表 その1

 吃音親子サマーキャンプについての、学会での発表の最後です。
グループの力 学会誌表紙  10% 2009年、新潟県長岡市で開かれた、日本コミュニケーション障害学会で、「グループの力」をテーマにしたシンポジウムがあり、依頼を受け、そこで発表しました。僕のほかに、失語症デイケアサービスの活動、高次脳機能障害児・者の集団活動、高機能自閉症スペクトラム児集団活動をしている方が登壇しました。テーマ「グループの力」について、次のような趣旨説明がなされています。

 
私たち人間は、「社会的な動物」といわれます。私たちは、他者とのかかわりを通じて、他人に受け入れられ認められる経験の中で、自他の存在を認め、尊重し合う力を身につけていきます。しかし、「コミュニケーション障がい」のために、一般の社会に受け入れられず、また適応できず、さらに自己を受容し尊重することができずに苦しんでおられる方たちがいます。そのような方たちを援助する手段として、「グループの力」が利用されてきました。
 同じ障害や共通の問題に悩む人との関わりの中で、「コミュニケーション障がい」に苦しむ方たちはどのように変わっていくのでしょうか。障害によって失われた生きがいや未来への希望や自己を受容し尊重する気持ちを、どのようにして取り戻していくのでしょうか?
 今回は、吃音・失語症・高次脳機能障害・高機能自閉症児の集団活動を支援してこられた先生方をシンポジストにお迎えし、それぞれのお立場からのお話をお聞きします。その実践の中から「グループの持つ力」とは何かを考えたいと思います。そして、「グループの持つ力」を活かすためには、私たちがどのような点に注意して、その活動を支援していくべきなのかを検討したいと思います。



2009年5月30・31日   日本コミュニケーション障害学会
  特集1〈グループの力〉
        吃音親子サマーキャンプにみる、グループの力
                     日本吃音臨床研究会 伊藤伸二
  Group Strength Developed by Summer Camp for Children who Stutter and Their Parents
            Shinji ITo
       コミュニケーション障害学VOL.27NO.1(2010)

 学童期から吃音と直面し、吃音と共に生きる自覚をもつために、吃音親子サマーキャンプに取り組んできた。その活動を報告し、「グループの力」について考察した。小学生から高校生が参加する2泊3日のキャンプは、ゝ媛擦砲弔い董▲哀襦璽廚任力辰傾腓ぁ↓表現、日本語のレッスンとして演劇活動、子どもを支援するための親の学習会、の3つを柱に組み立てられている。この活動を通して、子どもたちは、自らの体験を整理し、他の人の考えや経験を知ることで、価値観を広げる。吃音と共に生きるモデルに出会うことで、吃音を肯定的に捉えることができるようになる。話し合いや、苦手としている表現活動に取り組むことで、吃音を生き抜く力をつけていく。親も、どもりながら前向きに生きる中学生や高校生、成人と出会い、子どもの将来への不安が軽減する。これらのことが起こるのが、グループの力である。

Key Words:セルフヘルプグループ演劇活動、吃音との直面、学齢期の吃音、親の学習会
selfhelp group、drama performance、facing stuttering、stuttering in school children、learning opportunities for parents

1.はじめに
 開設している吃音ホットラインには、平均して1日3件ほどの電話相談がある。その相談や各地での吃音相談会では、幼児の吃音相談が多いが、学童期・思春期の子どもの不登校や成人の社会的引きこもりの相談が増えてきた。
 それらの相談に耳を傾けていると、学童期から思春期にかけて、吃音の話題を避け、吃音と直面せずにきた人が多いことがわかる。吃音を否定し、隠し、話すことを避けてきた私自身の経験から、学齢期に、吃音をオープンに話題にし、自らの吃音と直面する必要性を感じてきた。そこで、早期に吃音と直面し、吃音と共に生きる自覚をもつために、どもる子どものためのキャンプに取り組んできた。吃音親子サマーキャンプの活動を通して、「グループの力」について考察する.

2.キャンプの概要
 吃音親子サマーキャンプは、1990年から始まり、今年で20回目になる。近畿地方だけの、30人程度の参加者から、全国的な広がりをみせ、ここ10年ほどは、140名ほどが参加するようになった。当初、中学生・高校生が多かったが、最近は、小学生が中心になっている。参加資格は、幼稚園児から高校生までで、親子の参加を原則とし、きょうだいの参加も歓迎している。毎年、夏休みの最終の金・土・日曜日の2泊3日で行われる。

3.スタッフ
 言語聴覚士、ことばの教室の教師などの臨床家の有志と、日本吃音臨床研究会で実行委員会をつくり、実施する。このメンバーのほか、障害児教育や臨床心理学の大学生や大学院生、言語聴覚士の専門学校の学生、キャンプの卒業生など約40名が毎年スタッフとして参加する。スタッフの半数以上が、臨床家である。
 また、成人のどもる人もスタッフとして加わる。しかし、吃音の経験があれば誰でもいいというわけではない。吃音の体験があるというだけで、成人がどもる子どもと触れあうのは、必ずしも有益にならず、弊害になることがあるからである。このため、どもる人のセルフヘルプグループである、NPO法人・大阪スタタリングプロジェクトのリーダーとして長年活動を続けている人に限る。彼らは、児童心理やカウンセリング、臨床心理学、グループについて学習し、「竹内敏晴からだとことばのレッスン」を受け、子どもにことばのレッスンができる。また、キャンプ卒業生の参加は、3年以上のキャンプ経験があり、実行委員会が認めた人に限られる。

4.目的
 子どもたちは、吃音について自分のことばで話し、自分の悩みや苦しみを真剣に聞いてもらう経験があまりない。また、同じようにどもる子どもやどもる人とも会っていない。自分ひとりが悩んでいると思っている。吃音症状の早期治療ではなく、吃音を生き抜く力を育むために、「吃音とつき合う」ことを目指しているどもる子どもやどもる大人に、早期に出会う必要がある。

5.キャンプの基本姿勢
 「日頃どもることで苦戦をしている子どもたちに、楽しさをいっぱい与えるキャンプにしたい」「吃音と向き合い、苦しい中にも、何かひとつのことをやりとげ、そこから子どもたちが喜びを見いだすキャンプにしたい」
 吃音親子サマーキャンプを始めた当初は、キャンプの基本姿勢についてスタッフで意見が分かれた。
 吃音に向き合うことで吃音と共に生きる道筋に立つことができた経験をもつ当事者である私たちは、キャンプを楽しいだけのものにはしたくなかった。同じようにどもる子どもと出会うこと、そのことだけでも大いに意義あるものには違いないが、吃音と向き合い、苦手なことに挑戦する機会をつくりたかった。そこで得られる達成感や充実感によって自信をもち、生きる力や吃音と向き合う力、表現する力が育つと考えたからだ。そこに子どもたちは喜びや楽しさを見いだすだろうと信じていたからだ。
 3年ほどの論議を経て、現在の吃音親子サマーキャンプのプログラムができあがった。それは現在もほとんど変わっていない。
                                 (つづく)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2019/7/8