岡山キャンプでの保護者への講演会で出された質問について書いてきましたが、まだまだ長く続きますので、今回で一応ストップします。いろんなところで出される質問について、機会があれば紹介していこうと思います。


7. 伊藤さんが、どもりでよかったことはありますか? どんな時ですか?

 どもりに深く悩み、「どもりが治らなければ人生はない」と思っていた時には、このような質問が出ることも想像できませんでした。この質問をしていただくこと自体が、とてもありがたいことのように思います。
 どもることがいいということはないけれど、どもりに悩み、どもりを認めて生きようと覚悟してからは、いろんなことを学ぶことができました。悩んでいなければ、交流分析、森田療法、アサーション、認知行動療法などを学ぶことはなかったでしょう。大阪教育大学の教員になることも絶対になかったと思います。そして、吃音親子サマーキャンプなどで、たくさんのどもる子どもと出会い、どもる人の世界大会を開くなど、様々な経験ができました。
 4月に大学の同窓会に行ってきました。80人ほどのクラスでしたが、40人ほどが集まりました。定年後10年も経っていると、ほとんどの人が、釣りやゴルフなどで時間をつかっていて、社会的な活動をしている人は多くありませんでした。その中で僕は、どもりのおかげで、この年になっても、たくさんの人に出会い、講演もし、友だちも多く、とても幸せに暮らしています。どもりをいつまでもネガティヴにとらえていたら、どもりは、困ったものだけの存在だったけれど、ポジティヴにとらえることができたおかげで、吃音が人生のいいテーマになりました。
 僕の知人に、関節リウマチの人がいます。その人の話をじっくり聞く機会があり、関節リウマチについてまったく知らなかった僕は本当に驚きました。激痛が24時間続くというのです。薬が効いて痛みが和らいでいるときだけが眠れるという、あまりにも過酷な生活に驚きました。そんな過酷な病気であっても、「病気のおかげで今がある」という人がいるそうです。痛みに弱い僕にはとてもそのような境地にはなれないと思います。しかし、吃音はありがたいことに、痛みもかゆみもありません。どもることを認めさえすれば、多少の恥ずかしさはあっても、どもりながらできないことは何ひとつありません。
 実際、僕は、さまざまなことに挑戦し、学び、たくさんのいろいろな領域の人と出会えて、本当に幸せで豊かな人生を送りました。どもりでなければ別の人生だったかもしれませんが、どもりと生きた今の人生は、ありがたい人生だったと思うのです。


8.吃音は治りますか?
 
 治るということに関連して、アメリカ言語病理学は「流暢性」の3つについて説明しています。
  ー然な流暢性 本人もまったく意識しないで常に流暢に話せること
 ◆.灰鵐肇蹇璽襪気譴仁暢性 本人は意識はしているけれど、なんとかコントロールして、聞き手からはどもっていると分からない程度に話せること
  受け入れられる流暢性 どもっているけれど、困っていない状態

 ,蓮¬詰だと思います。これが無理だということは、アメリカ言語病理学も認めています。
 △癲∨佑脇颪靴い隼廚い泙后これができれば治ったも同然です。僕も一時期このような状態になりましたが、今は立派にコントロールできなくなっています。どもる時はどもるに任せるしかありません。ただ、いろんな工夫は、僕だけでなくどもる人はしていると思います。ことばを言い換えたり、少し間をおいたり、言いやすいことばを前に言ってその勢いで言いにくいことばを発言するなどです。僕もそのようなことはしていますが、それができない時は、どもるに任せています。「どもらないのもよし、どもるもよし」で、どっちでもいいと僕は考えています。
 「どもりは治るか」と尋ねられたら、「治らないと考えた方がいいと思いますよ」とは言います。ただ、幼児の場合、小学校入学前までなら、自然治癒があり、それは45%程度だと言われています。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2018/01/11