岡山キャンプでの保護者の講演での質問の続きです。質問への答えそのままではありませんが、少し書き足しました。


3 今はまだどもることを指摘されていないのですが、一度だけ、真似されたことがありました。そのときは、「やめて」と言ってそれ以上はなかったのですが、これからのことを考えると、先生にどもりのことを言ってもらった方がいいのでしょうか?


 よく出る質問です。今は、からかいは少なく、悩みは深くないけれど、将来クラスや学年が変わる、中学生になったらなど、状況が変わると、問題が起こる可能性があります。
 将来のために、自分が自分の吃音について自分のことばで説明できるようになるためには、子どもの頃から、先生に言ってもらうより、自分で言う練習をしておくことが大切です。
 社会人になると、周りはどもりについて全然知らない人が多いのが現実です。その時、自分のどもりについて、過不足なく説明できる人になってほしいと思います。差別解消法案など、法律が整備されたとしても、自分が考えているようには、周りは、世間は、吃音には無理解だと考えておいた方がいいでしょう。広く社会の理解を求めることも大切ですが、目の前の相手に、たとえば同僚や上司に、自分のどもりについて、自分のことばで説明できることはもっと大事なことです。そのために、今、小学校の教育の中でも、「こども哲学」が注目されていますが、自分のことを理解し、自分を把握し、自分のことについて相手に説明できるだけでなく、相手のことばに耳を傾け、相手との本質的な話ができる「哲学的対話」の能力を育てたいと僕は思います。

4. 伊藤さんが、自分のどもりを受け入れるきっかけは何ですか?

 
 どもりを認め、受け入れるきっかけは、人さまざまです。人との出会い、文学、スポーツ、絵や音楽など、自分の好きなことに取り組む中で、自然とどもりを受け入れる人はいるかもしれません。しかし、何か特にそのようなものとの出会いのない人でも、誰でもできるのは、「どもりとの出会い」です。僕はどもりについて、小学2年生の時から、深刻に悩んできましたが、どもりとは何かの知識もなかったし、どもりについて、他人の体験を知ることもありませんでした。深刻に悩みながらも、真剣にどもりについて考え、取り組んでいませんでした。
 1965年、今から50年も前ですが、東京正生学院という「どもりは必ず治る」と宣伝する、大きな、歴史のある民間吃音矯正所で1か月間、宿舎に泊まり込んで「どもりを治す努力」をしましたが、僕だけでなく、当時来ていた300人ほどの全員が治りませんでした。しかし、ありがたかったのは、初めて自分のどもりの悩みを話して、共感をもって聞いてもらった体験です。そして、どもりについていろんなことを教えてくれた、梅田英彦という副院長との出会いです。父親の梅田薫院長は「どもりは必ず治る」とゆっくりした話し方だけを教えてくれましたが、息子の英彦さんは、アメリカ言語病理学の「どんどん、どもっても話していこう」と教えてくれました。真剣にどもりと向き合い、なぜ僕はこんなに「人の目が気になるのか」などについても考えることができました。
 この、東京正生学院で、どもる仲間と、いい専門家に出会えたこと、これが僕がどもりを受け入れるきっかけを作ってくれました。
 「どもりは必ず治る」と宣伝しながら、300人の誰一人治らなかった現実に、僕は「どもりが治ってからの人生を夢見る」ことから、「どもりながらも、自分の人生を生きよう」と、どもりが治らないことを認めたことが、「どもりを受け入れる」に一番大きかったことのように思います。社会では「どもりは必ず治る」という情報ばかりでした。
 東京正生学院以外にも、花沢忠一郎吃音研究所、東洋語声学院、原宿スピーチクリニック、池袋矯正スピーチなどがありました。通ったのは東京正生学院だけですが、ひやかしのためにそれらのところには行きました。「治す、治せる」ばかりの中でも、僕は治すことをあきらめられたことは、とてもよかったと思います。
 初恋の人と出会えたこと、どもりながらもいろんな仕事に就いている人に出会えたこと、生きるためのアルバイト生活で、どもっていてできないことはないことを実感できたこと、それらがどもりを受け入れることにつながりました。
 小さい子で、どもることを意識していないこともあるかとは思いますが、僕の仲間のことばの教室では、1年生でも、初めてことばの教室に来たときに、「どうしてここに来たの?」と尋ねるし、ここでどもりは治すことはできないけれど、一緒にどもりについて勉強していこうと話しています。1年生がつくったどもりカルタに、「こわかった、どもりの勉強するまでは」というのがあります。
 どもりについて真剣に学ぶこと、これがどもりを受け入れる出発だろうと思います。
質問はまだ続きます。

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2018/01/06