どもる子どもや親だけでなく、臨床家も変わる

 
 第28回吃音親子サマーキャンプの様子について、写真とともに紹介してきました。最後に、参加しての感想が寄せられているので、それを紹介します。
 どもる子どもやその保護者はもちろんですが、スタッフとして参加している人からも感想が寄せられています。子どもや保護者の感想は、またどこかで紹介したいと思っていますが、今回は、初めて参加し、メールで感想を送って下さった、沖縄と大阪でそれぞれ言語聴覚士として働いている人です。

 まず一人目は、沖縄からの参加でした。

 
参加者とスタッフは、ひとりひとりが主役で、対等

 初めてのキャンプ。あっという間の3日間で、本当に楽しくてびっくりしました。何より驚いたことは、スタッフ・親との区別がなく、本当に対等にかかわる意識がしっかりとあることでした。それは、スタッフが意識して実践しているだけでなく、数年でできた形でもなく、長年の歴史の中で実践して受け継がれて当たり前にそういう雰囲気に作りあがったものなんだろうと思いました。『一人一人が主役』という言葉や、『対等性』という伊藤さんの言葉が、現実に体験できて言葉と意味がしっかりと結びついたキャンプでした。

 私は親の話し合いに参加したのですが、そこでとても驚きました。それは何回もキャンプに参加しているお母さんたち。3名のお母さんは3年以上参加しているお母さんで、高校生や中学生のお母さんでした。今まさに悩んでいる親に対して、親の気持ちを受け止めてあげたり、自分もそうだった…という共感もとても上手でした。また、話し合いの流れもこうしたらいい…というアドバイスではなく、その親のいいところを伝えて自分はそんな風にできなかった…と伝えていたり本音を出しながら自然につながっていく感じがありました。まさに、同じ立場の先輩であるからできる語りでした。
 家庭で厳しくしていて将来のために何でも自分で言わせるようにさせている…という話の際には、子どもはどこまで嫌なのかなぁ…、食べれなかったり眠れないということがバロメーター…、私は鬼母で将来のために厳しくしていたけど、キャンプに来た時に先輩の親から「学校で頑張っているのだから家庭では手伝ってほしいと言われたらしてあげたらいいじゃん」と言われて肩の荷がおりた…など、結論ではなく自分の体験での話や、いろんな幅広い見方で話が展開されることがすごくいいなぁと思いました。グループなので自分からあまり積極的に発言をされない親ももちろんいます。でも、自分も聞いているだけでいろんなことを学び考えさせられたので、選択肢の幅を広げるような話し合いを聞いているだけで、きっといろんなことを感じられると思います。なので、発言をしなくてもこの場にいることの大事さを実感しました。親もスタッフも対等ということが実感できた話し合いでした。

 子どもとの劇は初めてで、緊張しましたがとても楽しく有意義でした。同じことに向かって一緒にすることや、苦手なことを逃げずに頑張る姿や、少しでも表現をして伝えていこうとする姿に、子どもの力を感じました。また、私自身人前に出ることは苦手なので劇に出ることは正直とっても嫌です。しかし大人が逃げてはいけない…と思い、子どもに勧められた私は酔っ払い役も覚悟を決めてしました。対等性…まさに実感です。

 また、言語聴覚士の立場としてとても得るものも大きかったです。どうしても『人のためになることをする』という思いで選んだ職業でもあるため、何かしないと…という意識だけが強く、テクニックを学ばないと…、もっとできるようにならないと…と思い、上手くできない自分に落ち込んだり、イライラしたり…ということがありました。伊藤さんの『人間はたいしたことができない』という言葉でとても楽になりました。また、キャンプに対する思いも『親のために』『子どものために』と思ってしているのではなく、『自分が楽しいから』という言葉もとても胸に刺さりました。人のために…も考え方によっては、傲慢であることも分かりました。

 伊藤さんからは、『この場を提供しているだけで、何もこういう風にさせようと思っているのではなく勝手に親が考えて学んでいく』、親からは、『吃音の大人の姿を見ているだけで、将来は大丈夫な感じがした』『毎年参加して先輩のお母さんの話を聞いたり、伊藤さんの話を聞いているうちに自然に安心に変わった。』この話に、心からほっとしました。何もしなくていいんだ…という思いになりました。

 最後に、スタッフのみなさん一人一人の対話力や引き出し方、子どもの気持ちを盛り上げていく力やよく考えられた進め方に…とても感動しました。28年のコツコツとした積み重ねの形なんだろうなぁと思いました。沖縄でも一歩一歩形ができていく事が楽しみになっています。ありがとうございました。


 二人目は、大阪からの参加です。

  
どもっている、自分の結婚式の映像を観ることができた

 今回、スタッフとして初めて参加させていただきました。これまでに何度かキャンプの話を聞く機会があったので、漠然としたイメージはあったものの、当日は期待と緊張が入り混じったような気持ちでのスタートでした。初めは参加者の多さに驚き、初対面の子供たちや親御さん、他のスタッフの方々とどのように関わって良いのか少し尻込みしていましたが、先輩方から、「参加者はみんな対等な関係で良い」ということや「自分達が楽しむことが大切」だということを教えていただき、それからは子どもたちや他の参加者の方に声を掛けたり、話し合いの場などでも積極的に発言したりすることで次第に自分自身も楽しめるようになってきました。みんなが、“吃音”という共通のテーマについて考えたり、話し合ったり、劇をしたりとこれまでの人生で味わったことのない貴重な体験ができました。
 タイトなスケジュールのため、その時にはひたすらそれらをこなすことで精いっぱいでしたが、一日の終わりには心地よい疲労感でその日の出来事を振り返り、満足感を得ながら眠りにつくことができました。特に印象的だったのは、子どもたちが劇でどもりながらも一生懸命に演じる姿や卒業生が一生懸命にあいさつする姿でした。胸がじーんと熱くなり、どもりながら発せられる言葉に感じるものがありました。

 そのこともあってか、私自身にもキャンプの前後で変化が起こりました。その変化とは、今年、結婚式で自身が親族に対してスピーチをしている映像を観られるようになったことです。キャンプに参加する前はどもりながら挨拶する姿はみじめで恥ずかしい気がして、観ようと言われても断っていたのですが、キャンプの後には進んで観てみたいという気持ちになっていました。キャンプでたくさんのどもる仲間に出会って否定的な感情が弱まったのかもしれません。また、大勢の前でどもることを気にせず、どもりながらも伝えたいことを話す経験ができたことも非常に大きかったと思います。

 実際の映像では自分が話すことばに参加者みんなが聞き入ってくれているのがわかりました。中には感動して泣いてくれた人もいたようです。挨拶は自分が思っていたほど悪くなく、どもっているのも逆に良い間となっており、観る前と印象ががらりと変わりました。他にも仕事のカンファレンスなどで報告する際、以前に比べてどもることがそれほど気にならなくなり、とても話しやすくなりました。聞き手は普段と同じメンバーで以前と変わったのは自分の気持ちだけなので、改めて自身の捉え方の影響が大きいということを実感しました。

 参加前にはこんな変化があるとは思いもしませんでしたが、3日間のキャンプでこのような結果が得られたことは本当にラッキーだったと思います。キャンプから2週間が経った今でも余韻に浸り、早くも次のキャンプを楽しみにしているほどです。本当にありがとうございました。


 吃音親子サマーキャンプを、ことばで説明するのは、難しい。まずは一度参加してみてほしい。そんなふうに思っていましたが、ふたりの感想は、まさに、今年初めて参加し、体験して感じたことをすなおに綴っていただけたものと思います。

 参加した人から、感想がぽつぽつと返ってきています。それらを読みながら、次への気持ちを新たにしています。あの子の卒業までは…と思うことは、僕の生きるエネルギーになりそうです。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2017/09/06