大阪吃音教室  吃音基礎知識の講座のつづきです。

     6. 「どもりは治るのか?」

 質問
 大阪吃音教室に来る前は「どもりが治るのか、治らないのか」ということが一番気になっていました。どもりは治る・改善できる」と宣伝するところはありますが、そのことについてはどうなのでしょうか?

【伊藤】
 「どもりは治る、改善できる」と宣伝しているところは、ほとんどインチキです。僕は自分自身の経験、7千人ほどのどもる人、世界大会で世界の人と出会つていますが、「治った人」には会っていません。ただ、どもらないように「極端にゆっくり話す人」には3人ほど会いましたが。

 どもりが治るか治らないか。これが本当に明確になれはいいですよね。僕は科学的にどもりが治るか治らないかについて厳密には言えないですが、圧倒的多数が治っていないのは事実として認めざるを得ないと思います。
 僕はよく、吃音が完全に治る確率を宝くじに例えます。三億円の宝くじに当たる人はいます。確かにいるけれども確率としては非常に低い。となれば、確率の低い宝くじが当たってから「家を買おう」と思っていたらいつまでも家が買えません。宝くじを当たることを前提にした人生はもったいないですね。どもりが治るというのはおよそ3億円の宝くじが当たるような確率と言っていいと思います。
 アメリカ言語病理学のバリー・ギターでは、治ることに関連して3つの言い方をしています。

  ,匹發蕕覆た佑空気でも吸うように何の意識しないで、どもらないで話す。
 ◆ーりからはどもっていると分からない程度にコントロールできているが、どもることは意識している。
  どもっていて、周りからもされは分かるが、悩むことなく自然にどもっている。
 
 
  ーったという人はいるんでしようが、僕は,両態になった人にであったことはありません。子どもの時代どもっていたが、いつのまにかどもらなった、「自然治癒」と言われている状態になっている人の話は、たびたび聞きます。幼児吃音の「自然治癒」の確率は、以前は80パーセントと言われていましたが、45パーセント程度だと、言われています。これは、小学校入学までで、小学校に入ってどもっている場合は、「自然治癒」はあまり期待ができません。

 ◆,海両態になっている人は、たくさんいるだろうと思います。僕も大勢の前で話すときは、このような状態になりました。大学の教員になって、講義や、講演などで、人前で話すことを仕事にして、場になれたためと、四六時中話すことが、僕は意識していませんでしたが、結果として言語訓練になったのでしょう。アナウンサーの小倉智昭さん、女優の木の実ナナさんも、この状態でしょうが、どもることは意識しています。小倉さんは「吃音は治らない、僕は吃音キャスターだ」と言い、木の実ナナさんは、渥美清の「寅さんの映画」で「おにいちゃん」のセリフが言えずに撮影が2日間ストップした経験をハナしています。アメリカでは吃音は言語訓練でコントロールできると言いますが、僕はできないと思います。訓練してできるものではなく、自然に身につくものでしょう。
 僕はここ15年ほど、人前でもよくどもるようになりましたし、寿司屋で「トロ、タマゴ」は、ほほ言えません。コントロールできません。

  この状態になっている人は、僕たちの周りにもたくさんいます。どもっていとも、困ることも、悩むこともありません。僕はこの状態で、「トロ、タマゴ」が言えない、名前の「イトウ」が言えないのは不便ですが、どもって、時間をかければなんとか通じるので、困ってはいません。

 自分が損か得か、自分が生きやすいか生きやすくないかという観点から考えても、どもりは治らないものと覚悟を決めて生きていく方が得策ですよね。吃音研究者や専門家がたくさんいるアメリカでも、先週の映画を見てもわかるように、「何回も何回も治療を受けたけれども、治らなかった」ということが今も昔も起こっている。つまり「本来、吃音は治らないもの」と考えた方がいいです。僕らは何かの拍子に自然にどもり始めて、それが自分の体に入り込んでいる。言ってみればどもりは自分の体の中にあるものだから、それを取り出して治そうという発想自体、人間としてのあり方として間違っているんじゃないかと僕は思います。だから早く認めた方が勝ちです。

 正確には治るかどうかは分かりませんが、治る可能性があるものを、「治らない」と覚悟を決めて生きるのは素敵なことだと、僕は思います。

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2016/05/23