さわやかな中学3年生
 
 私の電話相談、吃音ホットラインには毎日3件ほどの相談があります。
 たくさんの声と出会います。昨日の電話です。
 「私○○ですが、吃音のことで相談してもいいですか? 」
 第一声から、吃音に悩みつつも、明るく、積極的な人のように感じました。
 「これまでどもりについては、困ることはあっても、親にも相談したことがなかったのが、高校入試の面接が不安になったためか、学校では以前よりどもるようになった。入試の面接も心配だけど、あと少しの中学生活も、充実して楽しく終わりたい」。
 先日初めて親に悩みを話して、爆発したとのことでした。

 面接では、本題に入るとそれなりに話せるのですが、「失礼します」「お願いします」などの挨拶が言えない。推薦入学の面接だから、礼儀作法の善し悪しも判断になるといいます。本当は礼儀正しいのに、どもって言えず礼儀のない奴だと判断されるのが嫌だ。
 聞いていて、本当にそうだと思いました。彼女の場合、珍しいのですが、語頭よりも語尾が出ないと言います。「しつれい・・・・・」となるそうです。どうしたら自信をもって面接に臨めるのかという相談でした。

 「面接までになんとか、どもりを改善したい、いい方法がないか?」の相談ではないことが私にはうれしいことでした。吃音のサイトには、こうしたら「吃音が治せる、改善できる」の情報があふれています。そのサイトも見ながら、そこではなく、私のところに電話をかけて下さったのが、まずうれしかったです。

 「自信は意識してつけたり、とったりできるものではない。自信なんてなくても、そのままのあなたで面接に臨めばいい。入試で、どもるからといって落ちることは、100パーセントない」
 と言い切りました。そして、挨拶の対策です。「今から僕が挨拶しますから、よく聞いていてね」と言って、
 
 「・れいします」「・ねがいします」「しつれい・・」「おねがいし・・」

 少し大きめの声で「れいし」「ねがい」を強調し、語頭を言わなかったり、語尾をあいまいにしました。
 どうですか。「お願いします」「失礼します」と聞こえましたかと尋ねると、十分にそう聞こえたと言います。ある場面で、日本人が言うことばは、あらかじめ相手は予測している。だから多少曖昧でも大丈夫。この人は一音一音きっちりと発音したなんて誰も気にしていません。

 これは、挨拶が苦手という人には必ず言うことです。
 そうして言ってみても、どうしても声が出なかったら、挨拶もちゃんとできない礼儀のない人と思われるのはいやだから、「私が挨拶でこのようになるのは、どもるからです」と自分のどもりについて説明すれば、とてもいい面接になるよと話しました。

 彼女は十分に話を理解し、一段とさわやかで明るい声になりました。
 面接はこれで大丈夫だけれど、これから将来吃音がもっと大きな問題になるかもしれないから、インチキ情報の「治せる、改善できる」に振り回されないように、僕の書いた本を読んでほしい。せっかく親に爆発したのだから、高い本じゃないから買ってもらってねと伝えました。

 「どもる君へ いま伝えたいこと 解放出版社 1260円」

 高校に合格したら、私のホームページを読んで、このブログもときどきのぞいてねと話して、電話を切りました。うれしい、温かい気持ちになりました。

日本吃音臨床研究会・会長 伊藤伸二 2012年2月5日 
 
   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
 世界中に確実な吃音治療法が全くない中で、私たちは「吃音を治す」ではなく、「吃音を生きる」を目指します。吃音とうまくつきあうには、吃音の当事者研究、ナラティヴ・アプローチ、認知行動療法など学ぶべきことがたくさんあります。
 役に立つ月刊紙、年刊研究誌などの見本をお送りします。500円分の切手を同封の上、お申し込み下さい。
〒572−0850 大阪府寝屋川市打上高塚町1−2−1526
日本吃音臨床研究会 代表 伊藤伸二
TEL/FAX 072−820−8244
   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆