自分がしないこと、できないことを人にすすめない 

 − 「アノー、ぼくは、エー、たいへん、エー、アー、どもるんですが、アノーよろしくー、」という運係語を40%くらい挟んでも音節を延伸しても、吃音が目立たない話し方ができれば、それでいいではないか。
 その程度の連係語なら至極ポピュラーなのである。誰の話でもそうである。話し方を苦労して工夫しながら、「自分は、まだ、どもりはなおっていないかもしれない。」と思っても、他人様が、どもりに気づかなければ万万歳で、そうなれば、社会人として、もはや吃音者ではない。  −望月勝久著 リズム効果法−

 これが、一時、講習会にことばの教室の教師が大勢集まり、学んだリズム効果法です。この、「リズム効果法」をすすめておられたのが、埼玉県立養護学校の校長先生をされていた、望月勝久さんです。先週末の埼玉県の私的な、難聴言語障害教育の研究会の勉強会にお誘いいただいたとき、埼玉県と聞いてすぐに、このリズム効果法のことが頭に浮かびました。だから前回書いたように少し不安があったのです。

 私の講義が終わり、夕食がすんで、ホテルのバーで懇親会がありました。その時、このリズム効果法の話題が出ました。望月さんがお亡くなりになって10年はたつのでしょうか? 少しでも役に立つ方法なら、望月さんがお亡くなりになった後、今でも誰かが実践しているはずですが、毎回100以上のことばの教室の教師が講習会に参加し、10年以上続いて、多くの人が教えられたはずですが、ことばの教室で、「アノー、エー」の連携語を40パーセント程度わざと挟むような指導は誰もしていないと思います。

 消えるべくして、消えた治療法ですが、私が不思議に思ったのは、自分に効果があったことや現在も自分が実践していることを、吃音に悩んでいる人にすすめたのではないと、私には思えたことです。
 推測ですが、望月さんが、この方法を自分が使ってどもらずに話せるようになったわけではないようです。教師として誠実に子どもとかかわり、養護学校の校長として責任ある立場について、ことばを大切に話していくうちに、少しずつ自然に変わっていかれたと思うのです。「アノー、エー」の練習をして話せるようになったのではないと思うのです。
 初期の「リズム効果法」の著作には、リズム効果ということばは出てきますが、「アノー、エー」を使えとは、まったく書かれていません。それが、ある時から突然、「アノー、エー」の連携語を40パーセント使うようにとの指導が始まったのです。その方法でご自身が効果があったのなら、最初からその方法を紹介しているはずだと思うのです。

 1986年、私が大会会長として、京都国際会議場で開いた「第一回吃音問題研究世界大会」に、望月さんはシンポジストとして参加して下さいました。その発言は流暢でまったくどもりません。そして、「アノー、エー」はまったく使われませんでした。その技法をどもる人に教えるのなら、ご自身が、人前で話すときも、「アノー、エー」を少しでも使って欲しかったなあと、その時私は思いました。

 吃音を治すことに必死になっていた私は、治すことをあきらめ、どんなにどもっても、どんどん話していきました。そして、吃音だからといってできないことは何一つないことを知りました。このときから私の人生は変わりました。私の今の主張は、そのときの体験から来ています。自分が実践して、本当によかったと思えたことを整理して提案し、今も、実践しています。
 してきてよかったこと、今もしていることだけを私は提案しているのです。
 大学や、専門学校で講義をしていますが、どもるときはどもり、自然のままにまかせています。

 望月さんの「リズム効果法」の話が出て、久しぶりに望月さんのことを思い出しました。
 私とは考えはまったく違うものの、どもる人の幸せを考えていたことはまちがいないと私は思っています。もっと直接議論を闘わせたかった吃音関係者のひとりです。

 2011年7月9日
 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二