どうしたら、吃音が治りますか


 私の吃音ホットラインには、一日2件ほどの電話相談が入ります。メールや手紙の相談もあります。九州に住んでいる、中学生の女の子から、かわいい封筒に入った、イラスト入りの手紙がきました。
 
  「私は、中学1年生の女の子です。小学5年生から、学校へ行けなくなりました。音読の時どもって笑われたことがきっかけです。中学生になって、思い切って学校へ行きました。最初の2週間はどうにかがんばって行ったのですが、行けなくなりました。
 今は、フリースクールに行っていて、友だちもできました。
 だけど、この間、中学の体育祭を見に行ったとき、みんなが楽しそうにしているのを見て、やっぱり、私も学校へ行きたいなあと思いました。
 どうしたら、吃音が治りますか。
 教えて下さい。                  K・Y 」


 K・Yさん

 小学校5年生から、学校へ行けない状態が続いていて、中学校の運動会を見て、学校へ行きたくなった。だけと、学校へ行くには、Kさんの場合、「どもりが治る」ことが条件なのですね。「どうしたら、どもりは治りますか」と書いてきた気持ち、とても分かります。 
 僕も、21歳まで、どもりが治らないと何もできないと、治ることばかり考えていたからです。だから、どもりが治ったら、勉強もするし、友だちもつくれると、治ることばかりを考えていました。だから、あなたの気持ちは痛いようにとても分かるのです。
 あなたは、どんな状態になることを治るといいますか。

  〜瓦どもらない人が空気でも吸うように、いつでもどこでも自然に声が出ること。全くどもらなくなり、かつてどもっていたという意識もない状態。
 ◆ゝ媛擦鬟灰鵐肇蹇爾任るようになり、以前よりはあまりどもらなくなる。
  どもっていても、吃音に負けないでほとんど吃音からくるマイナスの影響を受けずに生活すること。
 
 どもりが「治る」といっても、人によって少しイメージが違うようです。私もそうでしたが、多くの人は、,両態になることを治ると言うのでしょうね。

 ところが、,両態になることはかなり難しいということは、世界の吃音研究者で一致しています。このような状態になることはまず無理です。
 アメリカでは、スピーチセラピーが盛んで、△砲覆襪海箸鯡椹悗靴討い襪茲Δ任垢、これも訓練によってなることは難しいようです。どもりながら生活している中で、自然に身につくことはありますが。

 アナウンサーや女優さん、落語家の中に、どもる人がいます。その人たちは、仕事の時はあまりどもらなくて、周りの人には分からないでしょうが、普段、家族と話したり、遊んでいるときなんかは、どもるそうです。
 僕もそうです。人前で話すときはあまりどもらなくなりましたが、「伊藤」の「い」、数字の「イチ」「たちつてと」ではよくどもります。お寿司屋さんで、「トロ」「たまご」を注文する時は、必ずどもります。だから時々、一緒に行った人に言ってもらったり、残念だけど言いやすいものを注文することがあります。
 こんなふうに、今でも僕はどもるけれど、全然悩んでいないし、困ることもありません。大学生の前で講義をしている時、どもるけれども平気で講義をしています。吃音に負けないようになることは、本人の決意次第で、誰にでもできます。
 大阪の大阪吃音教室に参加している僕の仲間や多くの人がそうして生きています。
 
 また、僕のどもり方は変わりました。ずいぶん以前よりは、ひどくどもることは少なくなりました。また、悩まないし、困ることもありません。僕のように、どもることはあるけれど、困ることがなくなればそれでいいですか。これを「どもりが治る」と、幅広く考えることができれば、治る方法がひとつだけあります。それは僕自身が経験してきたこと。また、多くの人や子どもが実行して、効果があった方法ですから、確実な方法です。

 どうですか、教えたら実行しますか?
 何も努力しないで変わることはありません。治るために努力しますか?

 これは、僕が実際にしてきた方法です。証明済みですから、信用して下さい。
 どもるからと言って、日常の学校生活から逃げないで、どもりながら、言いたいこと、言わなければならないことを言っていく。だだ、それだけのことです。ただそれだけのことと言われても、今のあなたにはとても難しいことかもしれません。
 次に書くことを、できることから、実行してみて下さい。

 1 どもることを、仕方がないからと認めること。
 2 どもっても、言わなければならないこと、言いたいことを言うこと。
 3 他人が笑ったり、指摘しても、平気ではないだろうけれど、「笑わないで」と言ったり、そんな人は無視して、どもつても話していくこと。
 4 何かしないこと、できないことをどもりのせいにしないこと
 5 自分の好きなこと、楽しいことをたくさんすること。
 6 ひとりでいいから、どもりのことを話して味方になってくれる友だちをつくること。

 まだまた、たくさんありますが、手紙には書ききれません。もし、よかったら、電話をしてみて下さい。いろいろと話ができればいいですね。
 
 僕は、とてもつらい、小学校、中学校、高校時代を送りました。とても悔しいです。そして、「どもりが治れば、こんなつらい、苦しい生活をしなくてもいいのに」と、いつも「治りたい」と思っていました。
 あのころは、学校へ行かない人がいなかったので、我慢して、どんなに苦しくても、学校へは行っていました。でも、ちっとも楽しいことはなく、つらいことばかりでした。友だちがひとりもいなかったので、運動会も、文化祭も大嫌いでした。

 今、僕は幸せに生きています。だけど、あの小学校、中学校、高校時代が悔しいです。あのころに戻りたいと思うことがあります。
 でも、どもりが治った僕として戻りたいのではありません。吃音について勉強し、いろんなことを体験した、今の僕の状態で子どものころに戻るのです。
 あなたも、「どもりと向き合う一問一答」や「どもる君へ いま伝えたいこと」など、僕が体験したことを元にして書いた僕の本をしっかり読んで、どもりを勉強して下さい。治らないものだと考えて、どもりに負けないで、自分のしたいことをして下さい。僕が高校1年生の時、自己紹介が嫌さに、「卓球部」をやめたなど、どもりを隠し、逃げてばかりの生活が、とてももったいないと思うからです。

 あなたが、昔の僕のように、どもりを口実にして、大切なことから逃げる状態から、なかなか抜け出られなくても、僕も実際にそうだったから、「それはだめだよ」とえらそうなことは言えません。ただ言えるのは、悔しい、損をした、つまらなかったと言うことだけです。

 あなたももう中学生。これからどんな人生を送るかは、自分で決めることができます。よかったら、僕のホームページに、僕が書いた本が紹介されています。その中の、「どもりと向き合う一問一答」と「どもる君へ いま伝えたいこと」は、あなたのような人のために書いた本ですから、是非読んで下さい。
 読んで、また、お手紙下さい。               伊藤伸二 


 この手紙を書いた後、すぐに、彼女から返事がきました。

 その手紙には、伊藤の提案した方法はできない。
 きっと、治った人がいるはずだから、私は絶対吃音を治します。とありました。

 私は、胸が痛くなりました。この気持ちも、痛いように分かるからです。私も21歳の秋まで、絶対に治るはずだ、治せると思ってきました。吃音親子サマーキャンプに来た子どもの中には、私が21歳までかかったことを、小学校の低学年で、「どもっていても、大丈夫」という子もいますが、この子のように、絶対治したいという子がいることは当然のことでしょう。
 世界一の吃音研究者、チャールズ・ヴァン・ライパー博士は32歳、世界的なミュージシャン、スキャットマン・ジョンは52歳で、やっと自分の吃音を認めました。中学一年生のこの子が、吃音を認められず、治したいと思うのは無理ないことです。

 私が、「吃音を治さなければならない」と思い詰め、治ってからの人生を考えて、自分の人生の課題から逃げて、損をしたという悔しい思いがあります。だから、「吃音はどう治すかではなく、どう生きるかの問題だ」とずっと主張してきましたが、他人から言われても、「ああ、そうですか」と言うわけにはいかないでしょう。現在、吃音治療法がなく、ほとんどの人の吃音が現実に治っていない事実を目の前にしても、それを認めたくないのでしょう。
 いくら説明しても、このように「絶対治したい」という子に対しては、私はとても無力です。何もしてあげられません。私は提案はできますが、意見を押しつけることは出来ません。せめて。本だけでも読んで欲しいと思うだけです。

 私や、ヴァン・ライパー博士やスキャットマン・ジョンが、大きな壁にぶつかり、自分で気づいたように、この子も、自分の体験を通してでしか、気づけないのでしょう。それが、できるだけ、早く来ることを祈るばかりです。

 2009年10月30日  日本吃音臨床研究会  伊藤伸二