専門職者の役割

 私のソーシャルワーク演習は今日で6回目。シラバスに書いてあることだが、もう一度私のソーシャルワーク演習について話しました。前回、福祉現場の事例をもとにした事例研究をして欲しいとの要望がありましたが、私には福祉現場の経験はなく、私なりのソーシャルワーク演習しかできないことを理解してもらいたかったからです。14名ほどの教官が担当する演習のシラバスを読んで、学生は選ぶことになっています。他の教官は、事例検討の演習についてシラバスに書いていますから、私のような演習をする人間は珍しいでしょう。1人くらいはいてもいいとでしょうね。選択肢はできるだけ幅広い方がいいと私は思っています。
 
 講義概要としてシラバスに書いたことです。
 対人援助の仕事につく者は、専門的な知識や技術の習得だけでなく、他者との関係をどうつくり、他者とどう向き合うかを常に考え、学ぶ必要がある。そのためには自分を知り、他者を知ることが不可欠である。本講座は、他者と向き合うために必要な理論や技術を体験的に学ぶ。人が人に、じかにふれ、かかわり、ともに生きることを大切に考えたい。
コミュニケーションのスキルの向上、自己表現、交流分析、論理療法、アサーティブ・トレーニング、竹内敏晴からだとことばのレッスンなど、実際の対人関係に使える理論や技法を体験する。専門職者としての役割や当事者性にもふれ、セルフヘルプグループについても学ぶ。
 具体的内容
・効果的なコミュニケーションの5つの要素
・エリクソンのライフサイクル論によって他者と自分の人生を知る
・交流分析 エゴグラムと自己変革
・障害を持って生きるとは。へレンケラーとサリヴアンの教育の真実
・交流分析 気持ちのいいやりとりをするために
・交流分析 自分を認め相手を認めるストローク
・闇くトレーニング
・聞く、話す、書くの実習インタビューゲーム
・セルフヘルプグループの意義
・さわやかな自己表現アサーティブ・トレーニング
・やわらかに生きる論理療法
・認知療法
・建設的な生き方森田療法と内観法
・からだとことばのレッスン
・エンカウンターグループ
・対人援助の専門職者としてのあり方・条件

 今回の講義
 ・障害や病気とともに生きた人と、専門家とのかかわりの体験を読む。
 ・私が出演したNHK番組『にんげんゆうゆう』と、TBSのドキュメンタリー番組『報道の魂』を観る。

・障害を生きる
 大阪セルフヘルプ支援センターで一緒に活動をしてきたKさんが、病気や障害とともに生きてきた中で、言語聴覚士とのセラピー体験や医師とのかかわりを語る。
 Kさんは心臓病の障害者として生き、医師の反対を押し切って出産し4人の子どもを育てる。後に拒み続けてきた心臓手術を受けて元気になったとおもったら、ヘルペス脳炎にかかり、高次脳機能障害となる。記憶もことばも失うのだが、失語症訓練を受けときのセラピストの態度や方法に反発して、セラピーを拒否する。ひとりで、小学1年生の国語や理科などの教科書、国語辞典でいちからことばを学び直す。映画が一番のリハビリになったという。自らの力でことばを獲得していく強い意志をもつ当事者の声は、大きな人間の可能性を感じさせてくれる。貴重な体験談だ。
 日本吃音臨床研究会・月刊紙『スタタリングナウ癸坑換罅戞。横娃娃押ィ供ィ隠

 体験記を読んだ後、ひとりひとりが感じたこと、考えたことを発表し、伊藤がコメント、解説をしていく。
 高次脳機能障害の自分の祖母との関わりや、実習先の体験などをふまえての学生の発表は興味深かった。「学生がどう思ったか、考えたかを聞いてなるほどと思うことが多かった講義だった。普段の講義では発言の機会はほとんどないので、これもこの講義の良さだと思う」と書いた学生がいた。その日の振り返りの一部を紹介しょう。振り返りには、「にんげんゆうゆう」と「報道の魂」のコメントも多かったがそれは省いた。 

 「当事者の体験を数多く聞けたことで、援助をすべき視点があきらかになった。援助側は学んできた技法にこだわり、薬のようなものなのでという理由で対象者に均一されたやり方で援助を行ってしまう。しかし、それでは、対象者は抑え込まれたような感覚になり、自己を認めてもらえず尊厳を失う。援助者が重視しなければならないのは、相手の尊厳を保つことで、保つためには相手のことをよく理解すること、そして、学んできた援助技術ににこだわらずに、その人に合った方法にアレンジし、その人にとって苦痛に思えない手法を選んでいくことだと思った」
 「専門家は自分の価値観や経験を利用者に押しつけるのはよくないということが、この体験を読んでよく分かった。マニアルで決められていることでも、相手の反応をよく見て、嫌そうにしていたら、別のことを考えるようにしなければ本当のプロとは言えない」
 「専門職者は技術も大事だが、それよりも相手との基本的信頼が大切だと思った。言語療法士も言語指導することでその人が良くなって欲しいとの想いで行ったのだろうが、信頼がないままに押しつけたために相手の尊厳を傷つける結果となつてしまった。初心に立ち返り、その方法が本当にその人に合っているかどうか、考える必要があったと思う。
 「医者などの専門職は知識から学習し、患者や障害者は自身の経験に知識を当てはめる。両者のズレを痛感した。トータル的に学習するマニアル的なものは必要だが、実際に当事者と接することで得られることの方が多いのではないかと思う。情報を簡単に得られる時代になったからこそ、自分自身の肌で確かめる習慣をつけたいと思った」
 「医療や福祉の従事者は、専門職者として治療やケアを押しつけるのではなく、その人らしく生きることができるようにサポートしたり環境を整えたりすることが大切だと改めて感じた。昔は手術やリハビリの方法も医者の言うとおり行うことが当たり前だったが、最近は、説明責任が重視され、患者が治療法を決定するようにもなってきている。しかし、素人で無知の患者からすれば不安も多く、1人一人のニーズを、医者やソーシャルワーカーが把握し、生活の質を高められるケアを大切にしていきたいと思った」

 マニアルについて、話し合ったがそれについてはいつか書きたい。
              2008年6月3日