大阪吃音教室のユニークな講座のひとつに、「どもり内観」があります。
内観は、かなり前に、友人の友人だった大阪大学教授の三木善彦さんに大阪吃音教室に来ていただき、学んだのが最初です。その後、奈良内観研究所には何度も行きました。
内観療法入門の表紙 2003年には、吃音ショートコースという2泊3日の合宿で、デイビット・レイノルズ博士(アメリカの文化人類学者)を講師に、内観法、森田療法をもとにした『建設的な生き方』を学びました。
 2013年には、三木善彦・潤子夫妻を講師に『内観への招待』のワークショップをしました。ずいぶん長く学んできたことになります。
 大阪吃音教室では、内観法を年に一度は「どもり内観」として取り入れています。
 レイノルズさんも三木さんも、「どもり内観」には、とても驚き、関心をもって下さいました。当事者がこのような形で内観を活用しているのは例がないということでした。
 2014年11月28日の講座を担当した徳田和史さんの、NPO法人大阪スタタリングプロジェクトの機関紙「新生」に掲載された報告を紹介します。

大阪吃音教室だより
         どもり内観
                        2014年11月28日(金)
                        講座担当・報告 徳田和史

心の宝と出会える本 表紙 大阪吃音教室で『内観』を最初に耳にしたのは、2003年の吃音ショートコースで、デイビット・レイノルズ博士(アメリカの文化人類学者)を講師として『建設的な生き方』を学んだときではなかろうか。この『建設的な生き方』は、日本独特の心理療法である森田療法と内観療法の理念、手法をもとに、レイノルズ博士によって創始されたもので、「事実を受け入れ、目的を知り、なすべきことをなす」という教えである。
 このとき初めて内観の概念を知り、以後、本格的に学んだのは2013年の吃音ショートコースで、奈良内観研究所の三木善彦・潤子夫妻を講師としておこなわれたワーク『内観への招待』であった。以下、今回の例会で内観をふり返り、大阪吃音教室ならではの"どもり内観"をやってみた。

§内観の概念
 内観は、1965年に吉本伊信が浄土真宗の一派に伝わる修行法から発展させたもので、「自分の歴史をふり返り、自己を発見する」という教えである。内観は当初、自己内省法、あるいは自己啓発法として出発し、その後、精神医学における治療法として発展した。この方法は「内観法」、あるいは単に「内観」とよばれるが、心理療法として使うときは「内観療法」とよんでいる。
 ちなみに森田療法は1919年、森田正馬により創始された心理療法で、「不安や緊張は悪いものではなく、人間が本来もっているものであり自然な感情である。これらを追い出すのではなく、それらを自然なるものとして受け入れながらより良く生きていく」とする教えである。
 手法としては、森田療法が直接自分の心を掘り下げるのに対して、内観療法は「他者との関係」において自分を客観視するもので、ここが両者の大きな違いである。

§内観の手法
 内観には、集中内観、短期内観、日常内観の3つがある。1週間かけておこなうのが集中内観、2〜3日でおこなうのが短期内観、日常的に短時間でおこなうのが日常内観。
 中核となるのが、集中内観であり、内観研究所に1週間宿泊し、内観者は1日15時間、屏風あるいはスクリーンに囲まれた1〜2メートル四方の空間で、重要な他者(母親、父親、祖父母、兄弟等)に対して次の内観3項目を行う。

\は辰砲覆辰燭海(してもらったこと)
△靴栃屬靴燭海(してあげたこと)
L堆任鬚けたこと

 ひたすら内省し、その間、新聞やテレビなどの日常刺激や他人との会話は禁じらている。内観者は1時間半から2時間おきに訪れてくる内観面接者に想い出したことを報告する。(報告の時間は短くだいたい5分以下)
 調べるのは年代順、生まれてから小学校に入るまで、小学校低学年、高学年、中学校時代…というように年齢を区切って現在までを調べる。例えば、「幼稚園のとき私がしてもらったことを報告します。母は私に運動靴を入れる手提げ袋を手作りしてくれました」、「してあげたことは、母に肩こりをやわらげるように肩たたきをしてあげたことです」、「迷惑をかけたことは、母の目の前で友だちと喧嘩をしてしまい、母をとても心配させました」、という具合におこなう。
 この極めて単純で標準化された内観3項目が内観の特徴で、この手法により私たちは、親子、夫婦、家族、友人、知人、地域、神仏、大自然などによって支えられ、生かされていることを自覚し、感謝し、奉仕する。「感謝しなさい」と押しつけるものでもない。あくまで「事実を知ること」が内観である。「こうした方がいい」のアドバイスも基本的にはせず、自己決定を重んじる。(つづく)
  「新生」2014年12月号 NO.470より


日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2020/11/22