不思議な感覚でした。25名ほどが集まって、1時間のラジオドラマに耳を傾ける。ラジオドラマを聞くこと自体、60年ぶりのことかも知れないのですから。テレビのまだなかった時代、後に中村錦之助主演で映画化された、新諸国物語「笛吹童子」「紅孔雀」などを、心躍らせて聞いていた子どもの頃のことを思い出しました。

 「5拍子の福音」は、4月23日深夜1時30分から再放送
 インターネットでは、「radiko.jp」で1週間以内で聴取可能


 2017年度の大阪吃音教室は、4月7日(金)から始まりました。「いつもの時間に、いつもの場所で」これが、セルフへルプグループでは、大事だと言います。

 50年前には毎週日曜日に例会を開いていました。第1回吃音問題研究国際大会を契機に、これまでとはまったく違う、「吃音を治す・改善する」を一切目指さない、「吃音とともに豊かに生きる」ための吃音教室を始めたのです。吃音と上手につきあうことを目指して、交流分析、論理療法、アサーティヴ・トレーニング、森田療法、サイコドラマなどを組み入れ、毎回違うメニューの吃音講座を主体にした「生き方を学び合う」教室を金曜日に開催するようになって、20年経ちます。

 吃音とともに豊かに生きることを目指す仲間たちが、ここ、應典院に集ってきています。ここに来たら、そんな仲間たちに出会えます。こうして、「吃音を治す・改善する」を目指さないどもる人のセルフヘルプグループの旗を揚げ続けていることの大切さを思います。

 2017年度の幕開けは、毎日放送ラジオドラマ「5拍子の福音」<3月26日(日)20:00〜21:00放送>の鑑賞でした。
 初めに、4月2日(日)朝5:15〜5:30に放送された毎日テレビの「マンスリーリポート」から見ました。早朝の番組なので、今まで見たことはありません。今回、ずっと連絡をいただいていたディレクターの島修一さんから、ラジオドラマの放送も終わって、その余韻に浸っているときに、「『マンスリーリポート』という番組の取材を受けていた。どのように取り上げられているか全く分かりませんが…」と控えめに知らせていただきました。

 「マンスリーリポート」は、毎月1回放送され、さまざまな立場の人が、毎日放送の放送全般について審議するものです。いろんな番組について審議されていました。そして、次が、ひとつの番組を取り上げての特集です。「初めて公募作品によるラジオドラマの制作に密着しました」と、案内役の人がそう言った瞬間、大きなマイクの前でどもっている女優さんのアップが映し出されました。

 特集の中で、原作者が作品に対する思いを語り、俳優陣のせりふ入れの様子が映し出され、主人公の女優さんが演じているときの思いを率直に語っています。ラジオにとって大切な効果音担当者の苦労、ディレクター・島さんのこのドラマに懸ける思いなど、コンパクトにまとめられていました。この、番組の舞台裏ともいえる映像を見た後、大阪吃音教室に参加した全員で、ラジオドラマに聞き入りました。

 この日、初参加者が4人もいました。遠いところからの参加者が少なくありません。兵庫県の川西市、加古川市から、また、2時間弱かけて和歌山市からの参加もありました。ひとりひとりの話を聞くのも大切な時間です。

 短い時間でしたが、ラジオドラマを聞いた後、みんなで感想を言いました。一部を紹介します。


東野 主人公が、どもる女性だということは知っていたが、初めから終わりまで吃音が中心に話が展開していくとは思っていなかったので、意外だった。原作者は、どもる人の悩みの深いところを描いてくれている。うるっと来た。

徳田 原作者、プロデューサー、出演者らが、興味本位でなく、真摯に吃音について取り組んでくれているのがよく分かった。どもる女優さんは、表情もからだも、本物みたいにどもっていて、リアルだった。なぜ、主人公をどもる女性にしたのか、原作者の意図、思いなど、その背景を知りたいと思った。周りにどもる人がいて、その人を観察していたのかな。

伊藤 そうでもないらしい。でも、何か家族や周りの人にも何らかの生きづらさをもっている人がいたのかもしれない。

坂本 普通の女の子が一歩踏み出すことを応援したいということを原作者が言っていた。吃音に限らず、それぞれが課題を持っているから、そこから一歩踏み出す応援をしたいということなのだろう。

伊藤 何か劣等感を持っていて、そこから一歩踏み出す。たまたまそれが、吃音だったということなのだろう。

初参加者 どもっている様子がリアルすぎて苦しくなった。当事者としては身につまされた。実は、「英国王のスピーチ」も、いい映画だと聞いて知っているが、苦しくなるだろうと思い、見ていない。

伊藤 僕は、日本吃音臨床研究会のホームペーシに「英国王のスピーチ」についてコメントを出している。それを読めば、想像とは全く違う映画になるだろう。ぜひ、勇気を出して、「英国王のスピーチ」を見てほしい。
 今日、「私は、ダニエル・ブレイク」という映画を観てきた。貧しさをテーマにしている映画だった。僕の家は、貧しかったので、迫ってくるものがあった。
 毎日放送のディレクターは、誠実な人で、その気持ちが出演者にも乗り移ったのではないかと思われる。初め、送られてきた台本には、「どもる」という表現がなかった。「つまる」に終始していた。基本的には「どもる」を使ってほしいと伝え、ディレクターも原作者も、そのことを考えてくれた。主人公が好きになる男性の兄がどもる人という設定だったが、海で溺れて「助けて」が言えずに死んだということになっていた。これは、ディレクターの島さんも、あまりにも悲しすぎると感じていたし、僕もこれは現実には起こらないと言った。「助けて」と言えなくても、「ああああ・・」でも何でも声は出せるのだから。そのことを提案したら、違ったエピソードになっていた。そんなふうに変えることができる、原作者は力のある人なのだろう。と同時に、吃音については知らない人だともいえる。

佐藤 主人公の彼女がどんどん変わっていくのが分かった。

坂本 女優の堀部さんはなかなかいい。身体性のレベルで、どもっていたし、どもることによるしんどさを表現していた。どもる人の気持ちになって演じて、ことばが出ないもどかしさ、言いたいことがいえないとき、ううっとなるということを言っていた。からだがそうなることを言っていた。それを感じ取れる人なんだ。

嶺本 これを聞くのは2回目。1回目は、当事者の目で聞いた。2回目の今回は、第三者の目で聞いた。しんどそうにどもると、聞いている方がしんどくなると気づいた。コンテストでMCをやると言ったとき、親友が「みんなは、気にしていないんや」と言っていたが、確かにそうで、同じようにどもっていても与える印象が違う。

伊藤 彼女は、台本にたくさんメモをしていた。演技者として、そこまで考えていたのだと思う。


徳田 毎日放送は民放のひとつで、民放は無難につくることが多いのに、微妙な部分を取り上げてくれたことに賛美を表したい。これをするには勇気が必要で、あえてそうしてくれたことに、ディレクターの真面目さ、真剣さを感じた。

伊藤 どもる人を傷つけたくない、原作者の芸術性は残したい、その両方を大切にしていたディレクターだった。

西田 ラジオドラマは、30年ぶりに聞いた。効果音の専門家がいるのがおもしろかった。ハイヒールの音などの裏話が聞けてよかった。

坂本 どこで、あの効果音の人が,ハイヒールを履いて走っているんだろうかと想像しながら聞いていたのが、おもしろかった。

溝口 ラジオドラマを聞いてから、テレビの放送を見て、舞台裏を知った。映像がないところで、音だけで表現することの奥深さを感じた。ひとつひとつの音を作り出すのにすごい苦労があることが分かった。どもって話すことは、音だけの世界でとてもリアルに響く。どもる力をそこに見ることができた。

藤岡 サイトで出演者の集合写真を見て、どの人がどもる役をする人だろうと想像していた。情景が目に浮かんできて、すごい世界を見せてもらった。

日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 2017/04/10